世界最古の映画祭として知られる「ベネチア国際映画祭」が、新しい生活様式を取り入れつつ9月2日~12日(現地時間)に開催され、最終日の各賞発表と共に、無事幕を下ろした。
そして既にご存じの通り、蒼井優をヒロインに迎え、高橋一生との夫婦役を好演する『スパイの妻』の監督、黒沢清が銀獅子賞という名の監督賞を受賞し、注目を集めている。ちなみに日本の監督が同賞を受賞したのは2003年、『座頭市』を出品した北野武監督以来、17年ぶりとのことだ。
1940年、太平洋戦争開戦間近の昭和初期の日本を舞台に、正義感あふれる夫を敬い愛しぬく強さを秘めた妻。スリリングで情熱的なストーリー展開を演出にするにあたり、衣装や小道具など、細部に至るまで監督の思いとこだわりが詰まっている本作。その一端を、監督は下記のようにコメントされているとのこと。(本作の宣伝担当者への取材から)
❝初めての時代物だったため、美術・小道具・衣裳、すべてが大変で、手がかかりました。エキストラひとりひとりに至るまで、当時の髪型や服装にしないといけません。が、当時のリアリティが何なのか実際のところはわからない。
そこで当時撮られた映像を参考にするしかありません。可能な限り、そうした写真や映画に映っている人に近づけようとしました❞
たとえば長い髪の女性に比べ、こだわるべき点が多かったという男性の苦労話が興味深く――
❝もみあげが長いのはダメ、なので刈り上げにしてもらい、前髪を下ろしている髪形もダメ、などと…❞
そして、「さらに大変だった」という衣装については――
❝当時の古着は使えないため、メインの俳優が着る物は軍服も含めて全て手作りなのです。その分、その役柄にピタリと合った衣装にすることができました。
またエキストラの方も、当時の衣裳や髪型にしたのです。すると不思議なことに、素人でもそれっぽくなって!立ち居振る舞いが現代人っぽくなくなるんです。そういった点は面白かったですね。❞
こうしたプロセスを経て輝ける栄冠を手にした黒沢監督のさり気ない一言
❝形から入ることで、映画を豊かにしていました❞
そこにはたくさんの映画への愛が詰まっていることを実感した。
10月16日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー!
©2020 NHK, NEP, Incline, C&I
というわけでベネチア国際映画祭の話題で幕を開けた9月後半の「CINEMATIC JOURNEY」は、その会場となるヨーロッパ有数のリゾート地、また映画『ベニスに死す』の舞台としても知られる楽園的イメージのリド島に思いを馳せ、「夢見るキーワード『エデン』」をテーマにスタート。
まずは昨年の同映画祭で上記画像右から2番目のルカ・マリネッリが男優賞をした作品『マーティン・エデン』の話題から。
「ノスタルジックな香りに包まれた美しい映像美!」
そこに心地よさを感じた筆者としては、イタリア・ナポリ出身のピエトロ・マルチェッロ監督の下記のコメントに首を縦にして、うなずいてしまう。
❝僕はよりクラシックなやり方で、クラシックなフレーミングで映画を撮りたい。映画が第七芸術と呼ばれるように❞ (本作資料より引用)
そのコメント通り、スクリーン上で繰り広げられる「時間の流れ(=物語)」の中に、知らぬ間に迷い込んでしまいそうな感覚を味わう。
その巧みな手法は、スーパー16㎜フィルムと、バラエティーに富んだ記録映像の使用も大きく影響しているように思う。
アメリカの作家ジャック・ロンドンの自伝的物語と称され、イタリアでもベストセラーという「マーティン・イーデン」を原作に、舞台をアメリカ西海岸から、マルチェッロ監督いわく「理想的な舞台」である故郷ナポリへと移し、主人公もナポリ男「マーティン・エデン」として完成した本作は――
船乗りの青年の正義感ある行動が彼の人生を方向付ける出会いを生み、と同時に芽生えた文学への関心。いくつもの荒波を乗り越え、独学で教養を身に着け、作家への夢の実現に向け、着実に歩みを続けた末に成功を手にするのだが…
という物語を、印象的な目力を伴う演技力、さらにタフガイな役作りにも励み、前述の賞を獲得したルカ・マルネッリ。
衣装協力にクレジットされていた「ジョルジオ・アルマーニ」の名を目にし、早速関連情報を宣伝スタッフに確認したところ、ローマの若手サルトリア「MASSIMILIANO CAPOBIANCO」やハンドメイド・シルバージュエリーのブランド「Porcafigura」といったイタリアのブランドをはじめ、多くの衣装はヴィンテージ・ショップにてセレクトしたとのこと。鑑賞前後のご参考までに!
9月18日よりシネスイッチ銀座、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
配給:ミモザフィルムズ
©2019 AVVENTUROSA – IBC MOVIE- SHELLAC SUD -BR -ARTE
「夢見るキーワード『エデン』」をテーマに巡る「CINEMATIC JOURNEY」。フィナーレを飾る「エデン」は、前述の2作品に登場した日伊のヒロインたちにも共通する、美しいヘアに関連する話題を。
エデンという言葉にはヘブライ語で喜びや歓喜、また一方では理想郷の比喩、などとさまざまな資料に記されている。そうした願いも込めてネーミングされた「サロン・オブ・エデン」という名のヘアケア製品が、偶然にも前述のシネマ『マーティン・エデン』の公開と、時を同じくしてデビューした。
そこで早速、製品開発関連エピソードを少しばかり担当スタッフより入手したので、一部シェアしたく!
「時代も、国籍も、性別も問わず、美しい髪への憧れは永遠ではないだろうか?」
という仮説に比例するがごとく、様々な要素が成分としてマリアージュされていると判明。
たとえば――
☑イスラエルの死海の塩:髪と同じ弱酸性、かつ髪や頭皮に優しいミネラル分などを高配合。一般的に死海とは異なり、海水は弱アルカリ性のため、海水浴後の髪はきしむ。
☑沖縄の泥(クチャ)&海洋深層水:豊富なアミノ酸やミネラル分が含まれ、相乗効果を想定。沖縄は日本の「楽園(=エデン)」のような素晴らしい自然があるからだそう。
☑国産の海藻は、季節に応じてベストな品を使用するため産地が異なる。
というわけで、夏の日焼けによるダメージヘアが気になるこの季節。
冒頭の黒沢監督のコメントにもあったように、映画製作における髪へのこだわりも重要だと学んだ今回。より一層、柑橘系ジュレ風感触が心地よいシャンプーなどで、理想の美髪を目指してみたく思う次第。
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中