ファッションの効用(宇佐美浩子)

2020/05/26 06:00 更新


「五感で感じる」という表現を目や耳にすることが多くなった近年。

今年はさらに「新しい生活様式」というワードが加わった。

世界が身近に感じるようになった今。

国籍や性別も超越し、人々の暮らしや文化もボーダレスに進化を続けていくのではないかと思われる。

そうした空気感を肌で感じる昨今。

ファッションという視点で捉えたシネマとの出会い方も、多様化している。

そこで今回の「CINEMATIC JOURNEY」は、「ファッションの効用」をテーマに、まずは利用頻度が高まるオンライン配信での映画観賞。そのリストの中から、5月15日に緊急公開となった作品『ケヴィン・オークイン:美の哲学』にフォーカス。


2002年に早逝した伝説のメーキャップ・アーティスト、ケヴィン・オークイン。

彼のドキュメンタリーとあり、オンラインを駆使した様々なミーティングなどリモートワークが増える中、ノーメーク派も増える一方で、女性たちのメーキャップへの関心は高まっているのではないかなと。

だからこそ今、興味深く観賞できそうな1作だ。


ファッションとメーキャップの濃密で先鋭的なマリアージュを次々と披露し、その驚くべき才能に世の注目が集まったケヴィン。その作品(=メーキャップ)は、各々の魅力の相乗効果で更なる輝きを発揮した。

それはまた多くの人々に「自分は美しい」と思わせる、独自の哲学と術を熟知する彼の人生の陰影が投影されているかのようでもあった。

とりわけ、光と影をバランス良く組み合わせて立体感を演出する得意技「コントゥアリング」には…

(幅広い世代の読者の皆さんの中には、懐かしいと思われる方もおいでかと思うのですが)

かつて流行したモード感を演出する細眉やリップライナー。

またそれらを体現し、ファッション関連の各種イベント(各シーズンのコレクションなど)や紙・誌面を飾る「スーパーモデル」という名が登場した1980~90年代のヴィジュアルの多くに、彼の技が駆使されていることを、本作を通じて知りうることとなる。

そこには、最高のチームプレーを実現したデザイナーのアイザック・ミズラヒをはじめ、「ケヴィン以外はお断りだった」と語るナオミ・キャンベルを筆頭に、ケイト・モス、リンダ・エヴァンジェリスタ、クリスティ・ターリントン、音楽界のクイーンことシェール、また名優イザベラ・ロッセリーニやブルック・シールズほか、名だたるセレブリティがスクリーンを彩っている。

そして彼女たちが各々口にする彼への信頼の証とも言える賛辞が印象に残る。

さらに彼のプライベートな側面にも光を当てた本作は、強さともろさの狭間を歩み続けた生涯に、人間味を覚えるだろう。


『ケヴィン・オークイン:美の哲学』

オンライン配信にて緊急公開中(7/31までを予定)

2020年アップリンク渋谷、吉祥寺ほか全国劇場にて公開予定



「ファッションの効用」をテーマに掲げた今回の「CINEMATIC JOURNEY」。

続いては、コスチュームデザインにも注目したい『燕 Yan』(つばめ イエン)をフォーカス。


通常の「衣装」のクレジットとは別に「コスチュームデザイン : suzuki takayuki」とある本作。

09年の「Vogue Italia」が選ぶ世界の新鋭デザイナー10名の一人に選出された経験を持つ服飾家、そして自身のブランドのデザイナーで、本作同様映画、「ゆず」や「BUMP OF CHICKEN」などのアーティストへの衣装提供、さらに舞台美術や衣装製作なども多数手がけるマルチなタレントを持つ。

また音楽家×裁縫師による、音と布のサーカス「circo de sastre」こと、スペイン語で「仕立て屋のサーカス」という意味の物語舞台のメンバーとしての活動も続けている。

そんな彼のコスチュームをまとう映画初主演の主人公「燕」役の水間ロンや、歌手・俳優として活躍する一青窈たちが織りなす物語の概要を下記にご紹介する前に、ブランド「suzuki takayuki」のコンセプトをここに。

メンズは「時間と経過」、レディスは「時間と調和」とのことだ。


「自分のココロの居場所を探す旅」(本作資料より引用)

という形容は、今を生きる私たちが抱く感情にフィットすると思う。

そうした香りが漂う本作の舞台は、日本と台湾の高雄。

日本人の父と台湾人の母を持つ主人公の燕。

5歳の時に母は兄を連れ、何も告げずに母国へ戻った。

離れ離れになったまま耳にした母の訃報、そして母の故郷に暮らす兄との再会。

それぞれの人生と思いがスクリーンいっぱいにあふれ出していく。

主人公同様、本作が初映画監督作となる今村圭佑は、昨年の『新聞記者』ほか数多くの話題作で撮影監督を務める若手カメラマン。

そして台湾人の父と日本人の母の間に生まれた母親役の一青窈、息子役の水間ロンは中国出身の大阪育ち、また撮影現場でも日台両国のスタッフやキャストが一体となり、グローバルでボーダレスなチームプレーで映画創りの旅はゴールを迎えた。


『燕 Yan』

6月5日(金)より新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開予定

©2019「燕 Yan」製作委員会


宇佐美浩子の過去のレポートはこちらから

うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中



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