ファッションで人を輝かせるアパレル業界。服や雑貨が客に届くまでには、商品を企画・デザインして形にし、それらを売るための販売計画を綿密に立てて指揮する社員たちの活躍がある。物作りに携わる社員に話を聞いた。
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1ミリ、2ミリの真剣勝負 「喜ばせたい人」を喜ばせる
1ミリ、2ミリにこだわる、とても繊細な仕事――マッシュスタイルラボの主力ブランド「ミラオーウェン」で服と雑貨をデザインする杉田萌恵さん。春、夏、秋、冬の各シーズンで服を平均100~110型、雑貨で60~70型を作成するうち、服と雑貨を合わせて約40型を担当する。日々、「どうするとお客様が喜ぶのか、うれしいのか」を13人の企画チームで考え、「一日で決められないこともある」ほど物作りと誠実に向き合っている。
日々、研究を重ねる
仕事は年4回の展示会を軸に回す。展示会に向け、商品を作り、ファーストサンプルを基に修正を重ねていく。シーズンの立ち上がりには企画会議のほか、ブランドのプロデューサーを務める近藤広幸社長とのキックオフミーティングも行う。シーズンごとに何を何月にどのように売るかを話し合う会議は、誰がどれを作っても「ミラオーウェンクオリティー」を保つためにチームで意思統一する重要な場だ。
「人に着てもらって意味を持つのが商業デザイナーの仕事」と話す。袖を通して初めて価値が生まれる服を作る裏側で、杉田さんが欠かさないのは「研究」だ。「マッシュスタイルラボのラボは研究所。自分を研究員だと思っている」。ブランドコンセプトを体現する使命を果たす上で、喜ばせたい客がどのような服を好むのか、例えば、ドレスの丈一つとってもミディとミモレのどちらが気分なのか。数ある選択を判断する材料で、日々の研究で得られた仮説や体感に勝るものはない。
研究で一番の収穫があるのは、リアルの体験だ。どこかの展示会に行ったり、商品に触れたり。実際に買い物し、スタイリングして着てみる。そこにSNSでは気づけない発見があり、見落としてしまいそうな客のニーズがあると考える。「ファッションはライフそのもの」。仕事の枠を超え、普段の生活でもファッションへの探求心は尽きない。
契機は1本のジーンズ
杉田さんは雑貨のデザイナーでキャリアを始め、マッシュスタイルラボは3社目。人生で初めてファッションに魅せられたのは、小学生の時、姉がくれた1本のビンテージジーンズだった。おしゃれで憧れていた姉からもらったそれにときめき、長年はき続けた。
高校卒業の時には、ファッション業界で働く意思を固めていた。しかし、親から「19歳で決める将来と、23歳で決めるのとでは違うから、多様なものを学んでみたら」との助言を受け、総合大学の法学部に進学。かたわら、アルバイトは4年間、アパレル販売をし続けた。就職活動では高校生の頃と変わらず、ファッション業界を志望した。
販売員の仕事では「雑貨一つでお客様のスタイリングの幅が広がる」面白さを知った。「自由だから楽しい」。そんな自身のファッションの定義を具現化する職種を考え、浮かんだのが雑貨のデザイナーだった。一歩踏み出さないと分からない未知の世界。躊躇(ちゅうちょ)している間にも時が流れるなら、飛び込もう。企画で採用された企業で、デザイナーの知識を一から学んだ。
マッシュスタイルラボに入社したのは、近藤社長が掲げる企業の理念や夢に共感を覚えたからだ。「社長も社員もブランドコンセプトを大切にしている」。その企業精神は「私が考える〝お誕生日プレゼント〟に通ずる。みんな喜ぶものは難しいけれど、相手を考えて、その人に合うものを贈る感覚。ここで働きたいと思った」。
ミラオーウェンのコンセプトは「ネクストベーシック」「ロープライスラグジュアリー」。「ネクストベーシックは世の中にないし、ロープライスとラグジュアリーは対極にあるもの」。二つの言葉をひも解き、ブランドの解像度が上がれば上がるほど奥が深い物作り。やりがいを感じる瞬間は、展示会前のサンプルアップだ。手塩にかけて育てた子のような商品を発表する場で人が喜んでいるのを見る時、店頭で客に届く瞬間が現実味を帯びてワクワクする。
今後はプロデューサーとディレクターと同じ感覚を持ち、「ブランドを自分事として捉えられる人になりたい」という。ビジネスパーソンの経験値を上げるため、スタートアップの経験をしたい気持ちもある。「色々な働き方をする人が活躍する会社でいてほしい」というのは役職者の立場での願い。「仕事はより良く生きるためにあるもの。チームのみんなが良いと思える働き方や仕組みを採用していきたい」と考える。同社ではアシスタント制度を導入。新卒社員は1年間、先輩デザイナーと行動を共にして仕事を学ぶ。
(繊研新聞本紙23年6月14日付)