ニューヨーク流コロナ禍からの復興(杉本佳子)

2020/07/22 06:00 更新


 ニューヨーク州の1日のコロナ新規感染者数は、ピークは4月14日の11571人だった。それが7月19日時点では519人。6月28日の391人より増えていることが気になるが、それでもうなぎ上りに増えた3月と4月を考えたら劇的に減った。ニューヨーク州は積極的に検査数を増やしていて、1日あたり5万件弱から8万件弱の検査を実施している。「検査数を増やせば感染者数が増えるのは当たり前」という論調を見聞きするが、ニューヨーク州は検査数を増やしながら感染者数を大幅に減らしてみせたといえるだろう。

 今回はニューヨークらしい対策や復興を通して、最新の状況を紹介したい。

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 まず、本紙とリポート+でも何度かお伝えした略奪事件!略奪にあった店は壊されたウインドーを板で覆った。略奪が起きる前から空き巣防止のために板を貼っていた店も多く、ソーホーではその板に地元のアーティストたちが絵を描いて「アートのソーホー」をアピールした。だいぶ再オープンしてきたが、まだまだ閉店中の店とレストランは多い。ソーホーのMOMAのショップは今も閉まったままだ。この近くのナイキもまだ閉まっている。

 

その向かいにある高級フレンチレストランのバルサザールも、再開のめどはたってなさそう。バルサザールの従業員たちがクラウドファンディングの「ゴーファンドミー」で寄付を募っているが、目標額が10万ドルで、2万ドル足らずしか集まっていない。

 

略奪時に窓ガラスを割られたソーホーのシャネルも閉店したままだが、板は取り払われている。

 

ソーホーのルイヴィトンは、略奪前からオレンジ色の大きな板で店を覆っていた。経済活動再開に伴い、元々あった直営店は比較的早く再開したが、昨秋オープンしたヴァージル・アブローとのポップアップストアは閉店したままだ。それでも、明るい青空を描いたウインドーにして、少し明るい気分を出している。

 

店を覆っていた板が少しずつ取り払われているが、その板を再利用している建築家グループがある。その名も「リ・プライ」(re-ply.org)だ。プライウッド(合板)をリ・パーポス(異なる目的で再利用)するという意味で、バリケードに使われた合板を再利用してレストラン再開の支援に繋げようとしている。

ニューヨーク市は20日に経済再開活動第4段階に入り、動物園や植物園、映画などの制作活動は再開されたが、ジム、美術館、ショッピングモール、水族館など屋内活動は依然禁止され、レストラン内での食事もまだ認められていない。レストラン外の飲食は認められているため、歩道や車道に座って食事できるようにするレストランが増えている。その時に使われる椅子や仕切りに、バリケード撤収で不要になった合板を使うというアイデアなのだ。この椅子はその一例。ノリータにあるレストランだ。

 

ソーホーにあるこのレストランで使われている黒い仕切りも、リ・プライが手掛けたもの。プランターとしても使えるようになっていて、単価は264ドルだ。

 

アメリカでは現在、大方の州で感染者数が激増していて、その要因の1つがレストランやバーの中での飲食といわれている。ニューヨーク州のクオモ知事はニューヨーク市の経済再開に非常に慎重で、レストラン内で食事できるようになるのはいつのことになるのやら、という感じだ。従って、今から歩道や車道に食べられる場をつくろうとしているレストランが市内のあちこちで見られる。

 

しかし、道の両側にあるレストランがそれぞれ車道にせり出してくると、車がやっと通れるくらいの道幅しか残らない。事故が起きないようにと祈るばかりだ。

 

一方、コロナで失業者が増えているから、レストランで食事できるような余裕のない人たちも大勢いる。そこで始まったのが、「コミュニティー冷蔵庫」だ。7月8日付けのニューヨークタイムズの記事によると、ボランティアグループが食料品店やレストランであまった食材を入れておき、必要な人が自由にもっていっていい仕組みで、市内14か所にコミュニティー冷蔵庫が置かれているという。こちらは、ハーレムにあるコミュニティー冷蔵庫。昔ながらの食料品店の前に冷蔵庫が置かれている。

 

「フリーフード(無料の食糧)」と書かれたドアを開けるとサンドイッチ、ジュース、野菜などが入っていた。冷凍庫には、スライスしたパンの袋がびっしり。ニューヨークは略奪が収まったと思ったら、その次は6月上旬から独立記念日の7月4日まで、謎の深夜打ち上げ花火に連夜悩まされることになった。その動機はいまだ不明だが、ニューヨークは打ち上げ花火は違法にもかかわらず、深夜や早朝まで毎晩ゲリラ的に大きな打ち上げ花火があちこちで上がり、その音はまるで戦場で銃撃を受けているかのようだった。それがやっと収まったと思ったら、今度は銃犯罪が急増している。ニューヨーク市のデブラシオ市長の最近の記者会見は、コロナの話より銃犯罪の話の方が多い。それでも、「コミュニティー冷蔵庫」のようなものが出てくるところが、ニューヨークらしいといえるだろう。

 

もう1つ、ニューヨークらしいと思えるのは、マスク着用奨励に非常に力を入れていることだ。アメリカではトランプ大統領がマスクの効果を軽視していることもあり、特に共和党支持者たちの中に、「マスクをしない自由」を主張し、マスクの着用をかたくなに拒む人たちがいる。ニューヨークの地下鉄では、コロナが広がり始めた頃からマスクの着用を奨励するサインを出していたが、その内容が時を経るにつれて変わってきている点が興味深い。最近のサインは、特に思いやりや人を尊重することに重点を置いている。「愛」の力を強調するクオモ知事が指揮をとるニューヨークらしい。このサインは、「マスクをすることは、他の人を尊重しているという意味ですよ」と呼びかけている。

 

「あなたは私を保護します。私はあなたを保護します」――このフレーズも、クオモ知事が記者会見でマスクを着ける意味を説明する時に良く使っているフレーズだ。

 

「マスクを忘れたら、無料のマスクが駅員のいるブースにありますよ」と呼びかけている。

 

私は、地下鉄やバスに乗る時は高機能マスク、徒歩で行ける範囲では布マスクと使い分けている。地下鉄は、一時はホームレスが寝泊まりし、衛生状態が悪化し、感染の危険性が高くなったが、今は深夜に毎晩清掃が行われるようになり、非常にきれいになっている。それでも混雑する時間帯は避けるようにしている。

 

感染が広まってからバスが無料になったのも、ニューヨークらしい感じがする。料金箱が置かれた前の席からは乗れないようにして、運転手と乗客がソーシャルディスタンスをとれるようにしたのだ。ただし、車椅子で乗る人たちは今まで通り、前から乗り降りする。そして、最近バスに乗ったら、後ろの乗降口のそばに、特定のチップが埋め込まれたクレジットカードなどをかざすと乗車賃を払えるスキャナーが取り付けられていた。「もうすぐ実施」と表示されていたので、タダでバスに乗れる日も残り少ないらしい。

 

その他に助かっているサービスは、アメックスが最近始めたキャッシュバックキャンペーンだ。手持ちのアメックスのカードをそのキャンペーンに登録すると、9月20日までの間、1回10ドル以上使ったら5ドルキャッシュバックされるもので、最高10回まで使える。使える店やレストランは、キャンペーンに参加している中小企業。中小企業を支援しながら、消費者の節約になる有難いキャンペーンなのだ。

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89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ

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