ニック・ケイブは1959年にミズーリ州で生まれ、シカゴをベースにしているアーティストだ。テキスタイルワーク、コスチュームデザイン、彫刻の要素をミックスしたインスタレーションを制作してきている。現在グッゲンハイム美術館で開催中の「Nick Cave: Forothermore」展は、いろいろな意味で時代を反映している。今年4月10日まで開催されていて、3フロアにわたった展示は見ごたえがあり、お勧めだ。
タイトルは、「フォー・アザー・モア」をくっつけた造語で、ワーキングクラスの人々や有色人種のクィア(性的マイノリティーや既存の性のカテゴリーに当てはまらない人々の総称)など、社会の中で何かと疎外感を味わいがちな人々のために居場所をつくるという意図が込められている。ケイブ自身、黒人のクィアで、黒人差別への怒りやうっ憤を表現した彫刻やインスタレーションを制作してきた。「サウンドスーツ」と名付けられた冒頭の彫刻は、1991年にロサンゼルスで黒人男性のロドニー・キングが警官に暴行されて殺されロサンゼルス暴動につながった事件が起きて以来、何百体とつくってきたシリーズ。こうした装飾をびっしりと加えることで、アイデンティティーを明らかにしない「鎧」にして身を守るという意図と共に、着用して動くとパーツ同士が音をたてるようにして、「声を聴いてもらうためには、まず声をあげないといけない」というメッセージも込めている。
黒人差別への怒りをよりダイレクトに表現した作品もある。説明書きがなく、使われている素材だけを表示し、受け手に解釈を考えるように仕向けている作品もみられる。
黒い腕と花を組み合わせた彫刻は、黒人の腕がアメリカの歴史において監視や誤解の対象になってきたことへの怒りと共に、花をもたせることで「武器を所持しているわけではない」と、平和的なイメージを求める意図が込められているようだ。
時代を反映している別の要素は、廃棄されたものを使った作品が多いことだ。使い古されたボタンやレース、腕時計、チェーン、拾ってきたワイヤーや小枝、キッチュでレトロな人形などを作品に取り入れている。ファッションでも使い古された付属やアクセサリー、ヴィンテージの生地を使って新しい手作りするブランドが出ていて、リサイクル、アップサイクル、サステイナビリティ―、ハンドメイド関連でインスパイアされるのではないだろうか。
ギフトショップには、ニック・ケイブが監修し、ヴィクトリア&アルバート美術館からジミー・チュウ・デザイン賞を受賞したことのあるジェームス・ソマーフェルドがデザインした靴の他、サウンドスーツをプリントしたTシャツなどの関連商品が売られている。是非、ギフトショップものぞいてみたらいいと思う。
89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ)