多様化進む中で生まれた先住民族支援のTシャツ(杉本佳子)

2021/06/11 06:00 更新


 多様性が叫ばれる中、ファッション業界でも大企業、小さなブランドを問わず、人種や性別、性的マイノリティーなど、さまざまな分野のマイノリティーをサポートしようという動きが起きている。アメリカの先住民族もマイノリティーで、ナバホといえば、日本人にも馴染みがある。ナバホブランケットがファッションアイテムに取り入れられることはあるし、観光で行ったことのある日本人もいるだろう。しかし、ナバホあるいはノースダコタの先住民族がいかに過酷な状況におかれているかを知る機会は、あまりないかもしれない。

 ニューヨークの老舗ショールーム、ザ・ニュースの石井ステラ社長のブランド「6397」が、アメリカ南西部の先住民族を支援するコラボラインをやっていると知った。ステラさんが何故先住民族に興味をもったのか、何故彼らの住む地を何度も訪れてきたのか、直接お話を聴いてみたくなった。

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石井ステラさん

 ステラさんは20年くらい前から、ナバホの居留地に年1回行っている。きっかけは、アメリカインディアンのホピ族が信仰する精霊のような存在のカチーナ人形だ。元々こけしが大好きだったステラさんは、カチーナ人形にも強烈に惹きつけられ、自宅の壁にいっぱい飾っている。


 その居留地は、何もないところだ。若い人はあまりいなくて、お年寄りと野犬しかいないような貧しいところという。それでもステラさんは、そこで地元の人々と一緒にいると、なんとなくフィーリングがあって馴染めたそうだ。


 そのうち、その界隈では水がない家がたくさんあることを知ったステラさん。トレーラーハウスに住んでいる人も多い。水はコミュニティーセンターから運んできたり、トレーラーで売られている水を買ってきたりしているという。そんな環境でも、ステラさんが高山病で倒れた時、地元の人々が小さな病院に連れて行ってくれた。親切にしてもらえたことで、さらに交流が深まった。

 そうこうしているうちに、ステラさんは、水のない地域に住む先住民族の人々がコロナが広まっても水で手を洗えないことを、アメリカのドキュメンタリー番組で知った。感染を防ぐために手を洗うことが重要とされているのに、水がなくてそれができない人たちがいる!「何かできることはないか」と思ったステラさんは、ナバホの人たちに水を送るパイプラインをひく費用が3000ドルくらいと知る。ステラさんは、先住民族保護区に安全な水を配給する運動を行っている「ナバホ・ウォーター・プロジェクト」のディレクターでアーティストのエマ・ロビンズさんと話し、「服をつくることはできる。卸売り先に紹介したり、イーコマースで売って、利益をすべてナバホ・ウォーター・プロジェクトに寄付する」と話をまとめた。

 そして、最初につくったのが、このスローガン入りTシャツだ。書かれている言葉は、先住民族の言葉で「水とは命」という意味。去年9月にイーコマースで発売し、今春物として卸売りもした。日本では、ジャーナルスタンダードラックスと熊本のアヴァロンが買い付けた。

 商品は現在Tシャツのみで、第2弾は22年プレスプリングとして発売する。「スタンディング・ロック」はノースダコタ州の先住民族保護区の名前で、石油パイプラインの建設が居住区の水を汚染し土地を破壊するとして抗議運動が勃発したことで知られる。トランプ政権下では、対立がさらにヒートアップした。「”水“が論議の中心だったけれど、本質的な問題は、(先住民族への)リスペクトの問題」とステラさん。ステラさんはスタンディング・ロックには行ったことがないが、スタンディング・ロックに象徴される「マイノリティーへのリスペクトの欠如」はどこにでも存在すると感じ、その思いをこのスローガン起用に繋げた。

 アメリカでは、ファッションブランドが政治的考えや立ち位置を明確に消費者にアピールすることが一般的にはよいこととされている。一方日本では、ファッションブランドとして政治的な考えを主張することは、必ずしも好意的に受け取られないことがある。ステラさんは、はっきり考えを主張し、真実を伝え、自分の感じたことについてコミュニケーションをとる方がヘルシーと考えている。「日本の言葉の中には遠慮の感じがあり、本来の会話が進まないことがある。はっきり言わないことがいいこととされる。一概にそれがいいとか悪いとかは言えないけれど」とステラさん。しかし、少なくともグローバルな市場で売っていく場合は、多様性にどう取り組むか、実際に何をするかを明確に打ち出し実行することが求められる。

 バイヤーの反応にも、日米のカルチャーの違いが出たようだ。アメリカのバイヤーの反応が一番よく、卸売りを始めていなかった時でも、イーコマースで見たバイヤーから、「買ってサポートしたい。卸売りはしないの?」と聞かれたという。イーコマースでは、1点だけでなく、何枚かまとめ買いをする人が多いそうだ。ステラさんは、いずれエマさんがニューヨークに来られる状況になったら、ノリータにある6397の直営店を、期間限定でナバホ・ウォーター・プロジェクトのチャプターハウスにしたいと考えている。

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89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ



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