TSIホールディングス(HD)は、顧客の店内行動をデータ化する行動取得システムを京セラと開発し、新たなデータマーケティングの実現に向けた実証実験を共同で始めた。顧客はECと店舗を分け隔てなく利用しているが、運営側のデータは販路間でつながっておらずOMO(オンラインとオフラインの融合)推進の障壁になっている。カスタマージャーニーに沿ってECと店舗の継ぎ目を無くし、ブランドの体験価値を高める。ナノ・ユニバースのラゾーナ川崎店で11月1日から始めており、先ずは半年間運用する。
(永松浩介)
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京セラは、人の行動をデジタル化するソリューション研究を推めており、客の行動様式を変えない自然な状態でのデータ取得を試みる点でTSIと一致した。
データ取得には、手のひらに乗るサイズのセンシングデバイスをハンガーのフックに掛けて運用。顧客がスマートフォンでナノ・ユニバースのアプリを起動し、入り口にあるチェックインの機器にタッチした後、①商品を手に取る②姿見の前で合わせる③試着室に入るといった行動を、商品に対する関心度合いの深さでレベル1から3にまで分類する。
商品情報とセンシングデバイスは事前にペアリングされていて、商品を手に持った段階でセンシングデバイスが反応し、姿見や試着室に設置したビーコンから位置・商品情報がアプリに送信され、スマートフォン上で商品ページが表示される仕組み。今回はハンガーに掛けられている洋服のみを対象にしている。靴など他の商品でも可能だが、デバイスの付け方に工夫がいるため見送った。
実証実験では、手に取るなど興味を持った商品はメール送信してリマインドする程度にとどめるが、将来はパーソナライズしたお薦め商品機能に生かしていきたいとしている。購入しなかった場合でも、メモ代わりになる。これまでは自分で商品をもう一度探し直す必要があったため、「ユーザーにとってはメリットがあるはず」(同社)とみる。 ECの情報を手に来店する行動は一般化しているが、店での体験をオンラインで生かす逆の構図になる。
次の段階ではナノ・ユニバース内での対象店舗の拡大を考えており、その後はゴルフなど別カテゴリーでの実験も検討する。同社はプレイド(東京)とも組み、同じナノ・ユニバースでECと店舗をつないだ顧客体験改善の実験を進めているが、今回の取り組みはそれを補強するもの。ナノ・ユニバースでは、天井に設置したカメラで来店客の行動データを取得しているが、運用側にしか直接的なメリットはない。今回のデータ利用は能動的にユーザーが活用できるという点で異なる。