雨が降ったら、雨が降ったと記せ」というサマセット・モームのフレーズが好きで、36年まえ、34才のぼくは「記録」誌を作った。きっと、そんな風に写真を考えたかったのだろう
と、写真家森山大道は、2008年に復刻された「記録 第1-5号」でコメントしている。「記録」は1972年に1号が、そして今年3月に30号が発行された。
森山大道の写真展が、カルティエ現代美術財団で開催されている。同財団は2003年にも、森山大道展を開いている。
Daido Moriyama Tokyo Color, 2008-2015 C-print, 111.5 x 149 cm Courtesy of the artist / Daido Moriyama Photo Foundation
2度目の展覧会” DAIDO TOKYO ” と題されたエキシビションは、2008年12月ー2015年7月にカラーで撮影した写真を巨大なフォーマットにした” TOKYO COLOR ” 、そして2014年7月ー2015年3月にデジタルカメラのモノクロームモード、縦位置で撮った写真集『犬と網タイツ』から、この企画展のために制作された縦4m×横3mのスライドのプロジェクションで構成されている。
新宿あたりに転がっている何でもないモノとか、どこにでもある事とか。この写真家が撮るとなんでこんな強い一瞬になってしまうのか。どこかのアジアの国だったり、また東京だったり、今度は西洋だったり、アメリカだったり。
「雨が降ったら、雨が降ったと記せ」_森山大道の目は、どの国でもそこら辺の景色とか、日常品を、強烈な存在として記憶する。
Daido Moriyama Dog and Mesh Tights, 2014-2015 Slide show of 291 black-and-white photographs, 25’ Music by Toshihiro Oshima Video Concept : Gérard Chiron Courtesy of the artiste / Getsuyosha Limited / Daido Moriyama Photo Foundation
同財団での聞いた森山大道の言葉はとてもよかった。
とにかく歩き続けて撮っている。直感的に、動物的に、生理的にシャッターを押す
シャッターを押すその時は、何も考えない、ためらわない。でも何も考えなくて人間はシャッターは押せない。やっぱりその一瞬にぼくの記憶とか、ぼくのその日の様々な思考とかが入っている。そういう感覚でいつも撮っている
歩くことが仕事。50年間ずっと歩きっぱなし
(歩きながら撮ることに)よく飽きないね、と言われるが、ぼくは飽きない。たとえば新宿でもニューヨークでもどこでも、町というのは一刻も停滞していない。ずっと生きて流れている。一本の商店街を撮るときは基本的に往復する。そうすると一本の商店街がまた別の商店街に見える
この写真家は『路上スナップのススメ』(光文社新書)で、「もし急いでいて、往復することが出来ない場合は、必ず振り返る」とも書いている。これ、実行してみると、すばらしい発見の風景に出会える。
「町で撮ったものは、町に返す」(森山)ように、新宿界隈を歩いているように写真が展示された、” DAIDO TOKYO “。ガラス張りの展示スペースから差し込む自然光が、東京の「あの一瞬」を変化させていく。
ポスターのように展示された ” Tokyo Color “
同財団のサイトが面白い。
「ギャラリー」では、森山大道が80年代から2003年に撮ったパリの写真集『PARIS+』に収められた作品を更新している。「パリの町には、ぼくの写真の故郷の何分の一かがあると思う」(写真集のコメント)。
驚くことに、毎日歩いて知り尽くしている界隈がまったく別のパリとして写されている。「写真というのは、古くても新しくても、見る時、見る場所、見る人によっていくらでも新しく生き返る、そういう性質を持った道具」(森山/同財団で)。
写真家のインタヴューもある。ここでこのレポートを読んでないで、写せるものなら何でもいい、携帯持って、今直ぐ外に飛び出して撮ってみよう。
■インフォメーション
Fondation Cartier pour l’art contemporain
http://fondation.cartier.com/#/fr/home/
” DAIDO TOKYO ”
6月5日まで。
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。