パリ=マカロン、よね
唐突だが_
例えば、パリでツーリストに「フランス菓子と言えば、何を思い浮かべますか」と質問したとしよう。お答えのトップはきっとこれだ。
「マカロン」! これだ。
「マカロン消費量のクオーターに達した」と、人生が終わる前にマカロンを食べ尽くしてしまった、というようなことを告白するパリジャンは少ないない(わたしの周囲に限ってのことだが)。その場合、マカロンではない新しいパティスリーや焼き菓子に食指が動く。当然だ。
でもツーリストなら、パリでマカロンを食べたい、に違いない。その証拠(かどうかわからないけど)、セーヌ河岸で見かけるツーリストたちは、片手にマカロンでインスタ用の撮影に励んでいるではないか。
まさかの真実
国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が海を隔てた隣国の都市グラスゴーで開催中、フランスではしきりにメード・イン・フランスが叫ばれ、一般を対象にした国産品フェアで盛り上がった。
トリコロールカラーがこんなに輝いているときに、それを闇に葬るようなニュースが明るみになった。
「ラデュレのマカロンはメード・イン・フランスじゃない」
仏国営TVフランス2がこの情報をリークした日、メディアでは食関係者よりも、経済学者、政治評論家、哲学者たちがラデュレスキャンダルを解説し、ラデュレの不買運動は生じなかったし、かといって「ピエール・エルメ」のマカロンが爆発的に売れたりもしなかったが、近所のおばちゃんたち(ラデュレ世代)の井戸端会議や、カフェのテラスからは、「ラデュレ」「ラデュレ」と聞こえてきた。
それでは、ラデュレのマカロンはどこで作られているのだろう。
その前に_
いつのことかはっきり思い出せないが、その昔、ラデュレが日本へ初輸出したマカロンはパリでなくモナコで作っている、と当時の関係者が教えてくれた。鮮度、輸送、コストすべてひっくるめてモナコが選ばれたそうだ。
話を戻し、現在、ラデュレはどこでマカロンを作っているかというと_
パリでもモナコでもなく、スイスの食品工業地帯フリブールだった(ラデュレのマカロンのフレーバーにまだ「チーズフォンデュ」は存在していない)。
ラデュレは2010年、ここに工場を建設し輸出用マカロンの製造をはじめ、仏国内用はパリ郊外のアトリエで作っていたそうだ。このアトリエは現在アイスクリーム、菓子パン、マカロン意外のパティスリー生産のために存在している。
ラデュレの会長、ダヴィッド・オルデール氏はスイスのメディアに対し、マカロン生産基地がスイスであることを認め、「収益の向上」をその理由に挙げた。
同メゾンの売上の3分の2はフランスが占める。
コロナショックで稼ぎ頭のフランスにツーリストがいなくなってしまった。
売上高はコロナ禍前の1億1000万ユーロ超から、2020年は5000万ユーロを割った。
さて余談だが、これだけフランス産じゃないフランス産じゃないとマカロンの血統を問いつつ、もともとフランス生まれではない。ではどこの血筋かというと、もともとは中東のアーモンド菓子。それが中世にヨーロッパに渡ってきたそうだ。
1533年頃、カトリーヌ・ドゥ・メディシス(1519ー1589)がフランス王アンリ2世に嫁ぐときに、フィレンツェからマカロンを持ってきてくれた。
メルシーボークー!、グラッツェミル!!、カトリーヌ!!!!
カトリーヌ王妃系のイタリアマカロンは単なるアーモンドの焼き菓子だが、大変美味。なぜその味を知っているかというと、このマカロンはメゾン・シャレ Maison Charaix からLes Macarons de Joyeuse の名で現在も販売されているから(今日、パリで食されている一般的なクリームサンド型マカロンは19世紀末にお目見えしたらしい)。
それなら、メード・イン・パリする
ラデュレ会長は、スイスでマカロンを作る理由として収益だけでなく、実はもうひとつあることを強調している。それはなんと、「空気の質」。会長によれば、マカロンのよりよい膨張には澄んだ空気が必要不可欠だそうだ。マカロンは高級腕時計と同じだったのか。笑っていいのかどうか、分からなくなってきた。
「マカロナージュ」と呼ばれるマカロン必須テクニック(ホワイトシュガー、アーモンドパウダー、アイシングシュガーをリボン状の滑らかさになるまで混ぜる)に、清い空気が必要だなんて語るパティシエに、わたしは会ったことがない。
わたしはパティスリー屋での非常勤修行時代に1日中マカロンを作っていたこともあったが(料理人かパティシエールになるのは結局諦めた)、「空気に気を付けろ!」と先輩から怒鳴られたことは1度もない。
だからと言って、いまさらその「マカロン空気説」を確かめる訳ではなく、偶然、ギャラリー・ラファイエットのマカロン教室 Ateliers Macarons アトリエ・マカロンに参加する機会が巡ってきた。それなら、「またメレンゲから始めてみるか」、と初心にかえりマカロンを復習することにした。
場所はパリ本店の「アパルトマン・ラファイエット」。その名の通り、都会的なアパルトマンのようなスペースだ。
所用時間約1時間30分(完成品の味見まで)で正真正銘、紛れもないメード・イン・パリのマカロンが出来上がる。初心者向けのアトリエだが、ちょっとしたコツなんかも教えてくれたりと、スキルアップに役立ったし、お菓子作りはいつも楽しい。
ちなみにこの日はピスタチオとショコラのフレーバーで、パティスリー屋でヴァニラとキャラメルばかり作っていたわたしには新鮮だった。そしてこのアトリエでのいちばんの収穫というか、再確認できたのは、マカロンは空気よりも鮮度。
出来立てほど美味しい!
日本語によるマカロンクラスもありますよ。日仏間の渡航が自由になったら、スイートな体験もいいのでは?
それではまた、ア・ビアント!
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。