ボンジュール、パリ通信員の松井孝予です。
第1回ロックダウンから1年経ちました。そしてまた1年前に逆戻り。フランスは(まさかの)3度目のロックダウン中です。
都市封鎖が緩和されたニューヨークやマドリード、そしてロンドンの映像を指をくわえて見ているパリジャンたち。
おいおい、そんなにカフェのテラスが羨ましいなら、タバコやクレープやビールやワインのコップなんかくわえてないで、鼻までマスクして歩いておくれよ。お家芸の歩きタバコに消火せずに吸い殻ポイ、ついでにマスクもポイ。おまけに公道での禁酒のお触れなんて上の空。
お腹が空いたら歩きながらファラフェル、お日さまピカピカならもちろん!歩きながらアイスクリーム。「ながら歩き」が当たり前、当然ながらマスク装着率は低下の一方。
フランスの衛生基準では(たった)「1メートル」のソーシャルディスタンスも、実際はゼロメートル。
スーパーで基準を守ってレジに並べば、誰かに抜かされ、そしてまた誰かに抜かされの連続。いつまでたってもレジに辿り着けない。もちろん入店の際の手の除菌なんて過去の習慣?
メディアはこうした現状を、「偽りの都市封鎖」と呼んでいる。
先日、約1年ぶりに屋外で女子ともだちに会いました。
わたしは彼女の顔を見た途端、つい涙目になってしまい、「えっ、これホンモノ?」と彼女に触ってしまった(接触の前後に手を除菌するという悲しさ)。
友だちとの付き合いも1年以上、電話、メール、SNS、zoomと相手の実在を欠いている。
久々に「ホンモノ」(または「フィジカル」とでもいうのか)を目にした時の感動ったらない。
「わたしたちは人と人との絆だけで出来ている」(超訳)サン=テグジュペリ(1900ー1944)のこの言葉が心に沁みました。
この女子ともだちは、まだ20代の家族のひとりを新型コロナウイルスで失いかけました。フランス国内のコロナウイルスによる死者は10万人を超えています。
そして新規感染者数は、クリスマスに次ぐお祝いとなる復活祭明けに1日で8万4999人と最高記録を更新。それ以降、感染者数は減少傾向にあるものの、ロンドン型に続くさまざまな変異型が猛威を奮いはじめています。
昨年3月の第1回めの都市封鎖の時、サンルイ島のセーヌ河岸の電柱に現れたスクラブル(単語を作るゲーム)。その1年後、また同じ街灯にスクラブルを発見しました。
RESPECT EACH OTHER
アンチコロナに向け昨年一致団結で臨んだ都市封鎖を思い出して、初心にかえろうよ。お互いのために。
変わる変わる変わった
紙に筆ペンで、「危機」と書いてみた。
毎日毎日、La crise(クリーズ/危機)という言葉を何度も何度もニュースで読み聞きしているものの、自分の手で「危機」と書いたのはいつ以来か?
こんな書き初めめいたきっかけとなったのは、社会学者、文筆家、ジャーナリスト、講師といくつもの肩書きを持つフレデリック・ルノワール Frédéric Lenoir(1962-)の発言。
彼は「クリーズ」を漢字にすると「危機」、「危」はクリーズを意味するが、「機」はチャンスを表すと語り、漢字圏のわたしは今更ながらハッとさせれたのです。
「危」を「機」に変える。
パリの街、文化、そして人々のそれぞれのトランスフォーメーションは_
リヴォリ通り→コロナピスト
パリで最大の公害道路と悪名の高かったリヴォリ通りが、自転車のための「コロナピスト」に大変身。
あのリヴォリ通りを自転車3車線、自動車たった1車線(公共バス、タクシー(Uberとかも)、配送車しか走れない)に再編成し、市民にアッと言わせた。
この通りに発展してきた商業ゾーンからは、車での買い物客が減少→減収に繋がり、ブーイングだらけ、そして暴走する自転車族と歩行者との口げんかも絶えないのですが、公害対策が優先されるべき。
そしてリヴォリ通りに並ぶダイレクト広告も大異変。映画、展覧会、ファッションブランドに代わり、今や大手出版社の新刊の広告ポスターがズラリと並ぶ文学街道に。
コロナピストはパリだけでなく、地方の大都市にも広がり世紀の自転車ブームの到来となりました。
特に電動アシスト自転車産業は花盛り。2020年の売上台数は29%増の51万4000台。
産業全体の売上高は初の30億円代を突破。2021年の生産台数は40%増の見込み。
カフェバー→テイクアウトのドリンク&ピザとサボテン屋
カフェ、ソフトドリンク、ワインのテイクアウトで商売を続けるカフェバーは少なくないが、マレにあるラ・ペルル LA PERLEは家業に加えサボテン屋+Tシャツ雑貨店にトランスフォーマーション。
今回の都市封鎖から、植物は生活必需品リストにエントリーされ、これを売る店は営業許可を得ることができるのです。
サボテンは言うまでもなく植物で、しかも枯れにくいメリットがカフェバーから植物屋への道を切り開いたのではないか、と思ったり。
そうそう、2011年3月、当時「クリスチャン・ディオール 」のアーティスティックディレクターだったジョン・ガリアーノ解雇の原因となった反ユダヤ発言のあったカフェバーはここです。
石鹸→花屋
ハンドメイドのオーガニックプラント石鹸LUSH マレ店→ ずばり生花店
初め慣れない生花の扱いにてんやわんやの雰囲気でしたが、今ではブーケの種類も増え花屋が板についてきました。
シャンゼリゼ→キャットウォーク
美術館、映画館、オペラ、コンサートホール、テアトル、etc. 都市封鎖でリアルなカルチャーが体験できないなら、箱をアートを飛びさせてしまおう!
とばかりにベルギー人フィリップ・グルックの猫の風刺漫画をモデルにした彫刻展「キャットウォーク」が6月9日までシャンゼリゼで開催されています。
ブリュッセルに猫の美術館を建てるプロジェクトを進めているグルックは、ここでの展示作品を売却し、その資金にするそうな。
チェリスト→炎のカルチャーランナー
活動の場を失って1年。チェリストのゴーチエ・エルマンとその仲間たちは4月19日、パリ郊外のモンジュロンから南仏エクサンプロバンスまで900キロメートルのマラソンの旅に出発しました。都市封鎖を理由にじっとしていてはいけない。
彼らの目的は、フランスを南下しながら文化の大切さについて人々と話す、時には路上でコンサートを開く。
そして5つのカルチャープロジェクトを実現させるために募金活動を行うこと。文化のために走れ走れ!
現実→夢
「現実を生きるより我が人生を夢見る方がいい」(超訳)
『失われた時を求めて』の著者マルセル・プルースト(1871-1922)が残してくれたこの言葉。
都市封鎖中に新店舗をオープン、そんな夢のようなことを実現させたのが、マリオン&マリオン。偶然にも同じ名前のふたりの女性です。都市封鎖中でも営業できるブックショップがカフェとマリアージュ(結婚)!
ふたりのマリオンが開いたのは、カフェ&ブックショップ「トラム/TRAM」。セーヌ川からパンテオンへの坂道の途中にあります。
文学、キュイジーヌ、アート、バンド・デシネ(BD/漫画)、絵本と幅広い分野で、とてもパーソナル、トレビヤンなセレクション。
カフェでは、グルテンフリーのシャテーニュのフォンダン(栗の粉で作ったとろーっとしたガトー)、ガトー・オ・ジャンジャンブル(生姜のケーキ)、フルーツのタルトなどテイクアウト用の正真正銘ホームメードパティスリーが揃っています。
特に目を引いたのが、ガトー・デュ・ヴォワヤージュール。お土産に適したケーキ(例えば日本の場合カステラがそれにあてはまると思うのですが)をガトー・ドゥ・ヴォワヤージュ(旅行用のケーキ)と呼ぶのですが、これは「旅人のケーキ」。
アーモンドの生地にラムを効かせたこの旅人のケーキと1冊の本で、空想のヴォワヤージュに出発するパリジェンヌもいるんだろうな。テレワーク、zoom、YouTube、インスタもろもろのデジタル生活にそろそろみんな疲れてきた、かも。
ページのめくりながら何かに耽るほうが新鮮に思えます。
と言うわたしも、自宅でのチューリップのお花見のワインのお供にと、トラムでワイン関連の本を1冊選んでみました。
自宅のバルコニーに咲いたチューリップの花見酒、ワインを飲みながらワインの知識も広げてみようかなと。
昨年と違いこの春の都市封鎖では桜のある公園が開いているものの、集会は禁止、そして1世紀ぶりの寒波で冬並みの気温が続いていました。
毎年春になると、ブルゴーニュ地方やロワール地方、シャンパーニュ地方でワインを作っている友人たちとの会うのが楽しみなのですが、昨年に続き今年も叶わず。
「コロナよりヒョウや霜の方が怖い」_ぶどうを思う彼らの口癖が、悲しいことにこの春、現実になってしまいました。
来年はよい収穫でありますように。
自然と彼らの努力が結びついた美味しいワインのおかげで、家のバルコニーがシャトーのジャルダンに見えてくる、メルシーボークー!
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。