ドキュメント!ユニクロパリ旗艦店10周年(松井孝予)

2020/01/21 06:00 更新


ボンジュール、パリ通信員の松井孝予です。

「レポート+」ではパリの文化的な出来事をお伝えしています。

そして「食」もご紹介したいのですが…

食べる飲む作る「食歴」を積む修行中です。

(いつの日か「食研新聞」を!)

前回までのレポートはこちらから

南仏のリポートが続きましたが、今回は久々にお膝元パリから。

時は2009年。

2019年を回想するのではなく、区切りのよい10年前(年を越したので10年ちょっと)に一気にタイムスリップします。

この年にオープンしたユニクロパリ・オペラグローバル旗艦店10周年の話題です。

(長編)再ドキュメント!あれから10年、ユニクロ パリ・オペラグローバル旗艦店

パリ・オペラにUniqloという名のクロフネがやって来る「フロム・トーキョー・トゥ・パリ」プロジェクト

2009年10月1日。ファーストリテイリングがニューヨーク、ロンドンに続き、パリ・オペラ座スクリーブ通りに「ユニクロ」のグローバル旗艦店がオープンする日。当時、日本発大型衣料専門店未踏の地、パリ。

ファストファッション全盛期、オペラ界隈はH&M、ザラ、マンゴと欧州SPAの縄張り、老舗格ではギャラリー・ラファイエットにプランタンと百貨店がどーんと構える。

世界のキャピタル・ドゥ・ラ・モード(ファッションの都)の、しかもこんな激戦区に日本初、知名度のないユニクロがやって来る。果たしてこのトーキョーからのクロフネ、ユニクロ丸のパリ上陸は成功するのだろうか?

10年前、パリジャンの何パーセントが遠い異国の「ユニクロ」を知っていたか。

そこで10月1日の成功をかけた戦略が「フロム・トーキョー・トゥ・パリ」プロジェクト。

筆者にとって忘れられない取材となるオペラグローバル旗艦店の取材は、グランドオープンに向けたプレリュードとなるこのプロジェクトからスタートしたのでした。

その第1弾!

7月16日、パリ4区(マレと呼ばれている界隈)のブランマントー通りに、ユニクロの代表的なアイテムが体験できるポップアップが出現。

あの頃のマレは、現在のようにポップアップ商店街みたいな界隈ではなかったし、マレがマレらしき時代(ワケの分からない表現ですが)だったので、最初の1歩はここ、マレが最適。

予想以上の反響で9月13日に終了。

第2弾!!

今となっては伝説のアドレス、パリ1区サントノーレ213番地で「フロム・トーキョー・トゥ・コレット」を8月31日〜9月26日まで開催。

まさかの出来事、ユニクロがコレットにショップイン。

コレットの高感度なお客さんたちに、「日本発」「高品質」「低価格」のユニクロのフィロゾフィーを見てもらう。

UTのセレクション14,90ユーロ、ジーンズ・オール・メイド・イン・ジャパン59,90ユーロ、カシミアライン、ウィメンズ69,90ユーロ〜、メンズ79,90ユーロ〜。そしてコレットとのコラボで刺繍入りカシミヤセーター、ウィメンズ79,90ユーロ、メンズ89,90ユーロ。

初日からすごい入りでした。当時カシミヤは高嶺の花、100ユーロで買えるなんて「スネパヴレ/ウッソー」でしたから。しかもあのコレットとのコラボ「カシミヤ」セーターがこのプライスなんて。カシミヤは大ヒット、UTのジャパンアニメシリーズも売れました。

第3弾!!!

ブログパーツ「ユニクロック」パリバージョン。

パリの観光名所をバックに108カットのダンスで構成。

大受け。

第4弾!!!!

ヴァカンス明け9月にパリ中心地でゲリラパフォーマンス

ここではユニクロ社員が生きた広告塔。オペラ旗艦店の情報がプリントされたTシャツを着て15人1チームとなり、オペラから2チームが東西に分かれストリートキャットウォーク。ひとつが「ファンキー」、もうひとつが「クール」をテーマに自前の創作パフォーマンスを披露しながら、ショップカードとスタイルブックを配布。しかもオペラ座前では1列に並び、ジャパニーズで「よろしくお願いしまーす」とお辞儀し、メトロ出入り口ではUNIQLOの人文字を作り、バレエの前座のようなスペクタクル。パリジャンとツーリストをアっ!と言わせる。

パフォーマンスは旗艦店オープンまで続き、社内チーム対抗ファンキー賞、クール賞のコンペティションもありました。

これだけではありません、日本食街ではラーメン屋の前で飛び込み宣伝、サントノーレのレストランのテラスではメニューの代わりにスタイルブックを手渡しながら商品説明など熱血アクションが続きました。

第5弾!!!!!

パリ中にダイレクトパブリシティ 

パリジャンの糧、バゲット(フランスパン)。 

ああ懐かしのバゲットバック

パリ市内のブーランジェリー150店でバゲットを買うともれなくユニクロ印の袋に入ってくる。

FROM TOKYO TO PARIS 17 RUE SCRIBE 75009 PARIS と旗艦店のアドレスと10月1日オープンとプリントされたバゲットバック。 

企業広告媒体としてバゲットに着目したのはユニクロがほぼ初めて。

街中では市内バス、観光バスがユニクロのカラフルなカシミヤとデニムが整然と重ねられたプロダクトビジュアルを載せて走り、メトロもユニクロ一色。

これだけではありません。オペラ界隈にはユニクロスタッフがフライヤーを配り歩く人海戦術も。

オペラ旗艦店は「世界に向けてのショーケース」

7月からのユニクロサプライズが続き、いよいよ旗艦店オープンも秒読みという時に、

FR柳井正会長兼社長がパリ入りし、会見を開きます。

建築については、オペラ旗艦店が歴史的建造物に指定されているため外観を保持。店舗デザインについては、LEDでライティングされた各ウィンドーに回転するマネキンをディスプレイ。店内にはデジタルボードとユニクロ情報が流れる多数のモニターを設置。

パリにこれまでに類のない衝撃が走る大胆なVMDで、その時点での「最高のユニクロ」を表現していくという。

そしてオープニング記念商品がすごい。

「いちばん自信のあるカシミヤとジーンズをこの価格で提供し、多くの人たちに買っていただきたい。本当に良い商品をあらゆる人に。」と柳井会長。

カシミヤセーター/ウィメンズ18色通常価格69,90ユーロが39,90ユーロ、

メンズ19色79,90ユーロが49,90ユーロ、デニムも色をたくさん揃えてウィメンズ、メンズとも9,90ユーロ。

これに加えてパリ・ファッションウィークと重なるオープニングに、ジル・サンダーとの協業コレクション「+J」もここで世界先行発売。

経営面については「約1年で収益をあげる」との見込みを示しました。

販売員は約200人を採用。マネージャークラスは新宿店オープンを含む1か月に及ぶ研修で、日本の文化・習慣を教え込んだという。

ハードからソフトまで、これまでパリになかったものばかりが詰まった旗艦店は、まさにパリジャンにとってびっくり箱です。


さあこれがパリジャンにとってこれがグッドサプライズなのか、それともその逆を行くのか?

パリの現実と想像は、あまりにも違いすぎる。

日本人が罹ってしまう「パリシンドローム」と呼ばれる鬱病があるではありませんか(あまり適した例ではないかも)。

兎に角、当時、日本はパリより20年は進んでいた。

変化の遅い国民性は(特にパリジャンは)プライドが高いから遅いという説もあり。

日本人と違い、機能性、合理性、便利性、快適さをあまり求めたがらない(もしくは意識にない)国民性からくるのか?、と筆者は思ったり。

江藤淳と蓮實重彦の1985年の対談『オールド・ファッション 普通の会話』の中で、蓮實重彦が、「フランスでは、ほぼ20年遅れで日本の真似をしていることがありますね、ホテルその他」と話しているのですが、まったく頷けます。2009年のパリもまだそんな感じでした。

フロム・トーキョーのマーケティングは成功してきたが、実際旗艦店が開いてみないことには何もわからない…

その日が来た

さあいよいよ10月1日。

まだ日が昇らぬうちからユニクロ オペラグローバル旗艦店の前には…

行列ができてる!

テープカットの時点で800人以上が並び、それを囲む報道陣、「何ごと?」と見に集まる人たちでユニクロ旗艦店周辺は(いい意味で)大パニック。

2009年10月1日 オープンのカウントダウンを待つ人たち

オープンと同時に店内はお客さんですし詰め(フランス語では「イワシ缶」)状態。

あまりにもの状況の展開に、言葉が追いついていかない。

オープ前にゲリラパフォーマンスで配布したユニクロスタイルブックが奏功してか、お目当ての商品に向かう人も多い。

「シンプルなスタイルがいい」

「カラーバリエーションが豊富」

「内装、ディスプレー、雰囲気に感動した」

などの声が来店者たちから聞こえてくる。


+Jの売り場は何が何だかわからない。

アウターアイテムは2分で消えてしまった。

マネキンから服を脱がせてゲットしている人もいる。

その場でフィッティングをする人たちで、まるでショーのバックステージではないか。

パリのファッション業界人もかなるいるではないか(パリコレで忙しいのに)。

あるデザイナーは、「コストパフォーマンスが素晴らしく、今後更に素材がよくなればかなわない。ムダのないデザインの教科書を見ているようで、モードの革新的な変化の第一歩、未来を感じた」と+Jについて話す。

またこの道40年の意味重鎮のお方は、「フランス人がこんなに乗せられショッピングをしている姿を今までみたことがない。やっと日本からムッシューヤナイのような人がでてきたね」と感想をもらす。


さて売り場がこうならレジは1時間半待ちの長蛇の列。

順番とおり並べるように行列係を配置することで、まるで日本人のように列をパリジャンたち。

レジでは、商品がキチンとたたまれる、クレジットカードやお金を両手で受け取る、交換・返品についての説明がある、挨拶・言葉使いが丁寧、etc. 

「日本の接客」をはじめて体験したパリジャンたちは驚き感動する。

入店からレジに辿り着くまで何時間?にも関わらず、にこやかな顔で店を出るパリジャンたち。

お向かいのギャラリー・ラファイエットの販売員たちは人気のない売り場の窓から、満員御礼のクロフネを唖然と眺めている_


ル・モンド、ル・フィガロ、リベラシオンの3大日刊紙、TV・ラジオ、雑誌はオペラ旗艦店のパリ上陸を「ユニクロ現象」と名付けて続々と報道。

それを見て読んだ人たちが、ユニクロを体験したくて来店するからさらに盛り上がる。

オペラ旗艦店開店前の行列はオープン日から2週間以上も続き、1か月を経過しても週末には入場制限が行われました。

あれから10年

フランス人、(特にパリジャンは)取っ付きにくい(いろいろな視点があると思いますが、まあ一概に)。

パリ初上陸成功を目指しマレでポップアップ、コレットでショップイン、パフォーマンス諸々を血と肉ししながら知名度アップしたユニクロは、パリジャンのセンス、そしてライフスタイルに適うマルク・ジャポネーズ(日本ブランド)という幸先のよい第一印象を与えました。これは極めて大切なこと。

そして彼らの「懐」に深く入っていくには、「親近感」や「感動」を与えるイベントやサービスなど「消費」できないローカライズしたマーケティングが必須(意外にもビジネスも浪花節的な人間関係が物を言う)。

例えば2019年年明けに同旗艦店で開催された葛飾北斎展。

UT「北斎ブルー」の発売と連動させ、日本で唯一手摺木版の和装本を刊行する出版社芸艸堂(うんそうどう)と協業し、木版画の摺立順序や北斎漫画の完全復刻版を展示。

パリジャンのアート心をそそり、狭山茶とどら焼きとおせんべいの試食で新春をふりまきました。

ユニクロ・アンド・ルメール初コレクション世界先行発売。+Jを凌ぐ争奪戦

2019年新春北斎展

昨年秋のオペラ旗艦店祝10周年は、作家、ダンサー、パティシエ、起業家、農園家などさまざまなメティエ(職業)のさまざまな肌色の10人のパリジャンによるキャンペーンでお祝い。

風船を手渡したり、レストラン「ラ・トゥール・ダルジャン」のお食事券が当たる福引があったりと、パリジャン視線のお祭りでした。

そして10年目の発見!

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ユニクロオペラストア

19世紀半ば、ナポレオン3世から令を受けたオスマン男爵のパリ都市計画で建築され、今では歴史的建造物に指定されているオペラ旗艦店。

現在の地下1Fウィメンズ売り場は当初、850席もある豪華なテアトル「ラテネ」だったとは!

地下への階段にそんな建物を巡る年表も掲示し、文化・歴史好きのパリジャンをあらたな発見をプレゼント。


ここまでオペラ旗艦店オープンまでを再記録することを自分に許してしまいました。

成功の持つ本来の凄みが、脳裏では「あるひとつの青春ドキュメンタリー」のごとく映像的に浮かんでくるのに、実際書けば書くほどその凄みが遠くなるような焦燥感に駆られながら。

ここで当時取材に協力してくださったたくさんの方々に、あらためてメルシーを贈りつつ、ユニクロフランスの西野秀典COOへのインタビューで締めくくりたいと思います。

ユニクロフランス 西野秀典COOに聞きました

_パリで成功した要因は何でしょう?

オペラ旗艦店は圧倒的な人気を誇るコア商品、「ユニクロU」や充実した協業商品を幅広く取り揃えた世界でトップクラスを誇る品揃えです。パリのお客様は感度が高く、ユニクロの服作りの姿勢やライウェアのコンセプトが深く理解され、共感を持って受け入れられています。

_10歳を迎えた同旗艦店の現状は?

開店以来、商品や店作り、サービスを通じてユニクロブランドをパリのお客様に、そして世界へ発信してきました。この間、ユニクロはコンセプトをライフウェアと定義し、人々の生活を豊かにするブランドとして成長しています。ひとつひとつの商品にこだわりを持ち、それぞれの商品の良さをきちんとお客様にお伝えできる店舗であることが、パリでく受け入れられている要因になっていると考えています。

10年経った今も世界中から多くのお客様が来店くださり、この店がパリの街の一部として受けられていることをうれしく思います。

_世界中の旗艦店におけるパリのポジションは?

パリは世界のファッションの中心地であり、さらに世界中の人々が集まるオペラ座に隣接する旗艦店は、ユニクロ全体のブランディングに貢献しています。

_次の10年への課題と目標を教えてください_

服を売るだけでなく、サービスも含め気持ちよく買物ができる店舗であり続けるこをが求められていると感じています。今後も魅力的な商品を常に備え、驚きや親近感、心地よさなどのライフウェアの良さを一番感じてもらえる店であるよう目指していきます。オープン時からずっと一緒に働いてくれているスタッフもいます。これからも会社とスタッフの信頼関係を築きながら、共に成長していきたいです。

ユニクロオペラグローバル旗艦店

前回までのレポートはこちらから


松井孝予

(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。



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