ボンジュール、パリ通信員の松井孝予です。
「レポート+」ではパリの文化的な出来事をお伝えしています。
そして「食」もご紹介したいのですが…食べる飲む作る「食歴」を積む修行中です。(いつの日か「食研新聞」を!)
さて今回もパリからではありません。
パリのオルリー空港から1時間半、南仏のニースから。
「ニース?」_ とピンとこない方。
これを歌ってあげます!
「ネグレスコホテルに辿り着くまでぇ〜♪」
どうだ!(時代がミスマッチしていたらスミマセン)
Boroの「ネグレスコホテル」(Boro7枚目のシングル。1983年元日発売の。作詞Boro 作曲井上大輔)があるコートダジュール(紺碧海岸)の都市ニースです。
ちなみにこのホテルは 絶景「天使の湾」la bais des anges /ラ・べ・デザンジュに実在するのですが、1度泊まってこの歌をカラオケしてみたいです。
ちなみにフランスはメートル法なので、「50マイル南に走ろう♪」とか「あの日のステップ」なんてカタカナの気分に合わせるなら、アメリカ人の連れがいた方がいいかもしれません。
そうそう、映画でニースを見るのはいかがでしょう。
『シェルブールの雨傘』(1964)のジャック・ドゥミ監督Jacques Demy(1931ー1990)の佳作、長編2作目『天使の入江/La Bais des Anges 』(1963)ではギャンブラーを演じる金髪のジャンヌ・モローがとってもチャーミング。
ニースのカジノを舞台にした洒落たストーリーです。
それでは懐メロや名画座じゃなくて、本題へと参りましょう。
ニースの空港から車で約30分。
4つ星ショッピングセンターへ「アート」を見に行きます。
POLYGONE RIVIERA ★★★★
ポリゴーヌ・リヴィエラって何?
商業施設開発に携わっている方ならご存知のはず。
Unibail-Rodamco-Westfield ユニバイユ・ロダムコ・ウェストフィルド(URW)。
この業界で世界ナンバーワンの企業です。
本社はパリ。欧米でショッピングセンター(SC)、オフィス、コンベンションセンターを展開。2018年度の賃貸収入は21億6100万€。
プチ社史を記すと、1968年にフランスでユニバイユが創業。2007年にオランダのロダムコと合併。
そして2017年12月、ユニバイユ・ロダムコがオーストラリアのウェストフィルドを買収。このように長い社名となりました。
ヨーロッパ人の名前によくある、おじいちゃん、おとうさんの名前を継がせられて長い長い名前になるのと同じ。
フィリッポ・カルロ・ジョバンニ、みたいな。
URWがパリで運営している主な商業施設は、レアールにあるフォーラム・デ・アールやルーヴル美術館のカルーゼル・デュ・ルーヴル。
ご存知の方も多いでしょう。
さてこのURWが2015年、3億5000万€を投資し、7万平方メートル(えっ、たまげた広さ!)のオープンエアの複合型SC、Polygone Riviera ポリゴーヌ・リヴィエラをニース近郊に開設しました。
それが今回の取材地です。
「ユニクロ」や百貨店プランタンなどブティック106店舗、シネマ20館、レストラン26店舗、野外劇場まであります。
客層が上質、ニースでヴァカンスを過ごす有名人もよく来る、よって客単価も高いと聞いています。
だってこのSC、4つ星なんですって。
ホテルじゃあるまいし、SCに星があるなんて知りませんでしたよ。
正確には「4つ星ラベル」。
世界的な格付け会社SGSがおもてなし、クオリティー、サービスなど684項目をチェック、ポリゴーヌは4つ星ラベルの稀代なSCとなったわけです。
しかしこれだけではありません。
このSCは、「Art コンテンポラリーアート」がコンセプトなのです。
エスカレーターにアート作品を展示している商業施設はフランスには山ほどありますが、
ポリゴーヌには「アーティスティックディレクター」(AD)というポストが存在し、(あの)JEROME SANS ジェローム・サンスが、ここでの展覧会をキュレーターであり、コレクションをバイヤーを務めています。
ADの名前の前に(あの)を付けてしまいましたが、ジェロームはパレ・ド・トーキョーの共同ディレクターを開館時の2002〜2006年まで務め、以後世界のアート界で活躍する大物。
パッと見、スマートなデヴィット・リンチのロックヴァージョン、クールな印象のそサンスですが(実際ロックバンドのメンバーでもある)、とてもオープンでトークがおもろい。
「日本人にジェローム・サンスとジェロームさんの違いをわかってもらうのは難しいね〜」と、日本が大好きな彼はギャグを飛ばします。
そのサンスさんはポリゴーヌオープン時にパーマネントコレクションとして、あのセザール、ダニエル・ビュラン、BEN、アントニー・ゴームリーなどの作品10点をセレクション。
商業施設のコレクションとは思えない(購入額は未公表)。
そして企画展のこけら落しがJOAN MIROミロの彫刻展を企画ときたもんだ。
SCで「ミロを見ろ」、ってダジャレにならなほど肝いりではありませんか。
「企画展はマーケティングじゃない」と強調するサンス。
「ポリゴーヌのあるこの地方は、20世紀初頭からロダン、ルノワール、ピカソ、ゴッホ、セザンヌ、クライン、ミロ、シャガールらの芸術家たちを惹きつけてきた。アートへ野心を抱くこのSCでのコレクションや企画展で、驚きや創造や体験し、みんなでシェアしていただきたい」と希望を話してくれました。
さて、サンスがキュレーションする企画展ですが、毎年夏にスタートします。
今年はオブジェデザイナーであり彫刻家である、パブロ・レノソ。
アルゼンチン人の父、フランス人の母を持つパブロは、1955年ブエノスアイレス生まれ。
1978年からパリに拠点を移し、2000年頃からLVMHグループの「ヴーヴ・クリコ」、「パルファン・ジバンシイ」「パリファン・ロエベ」「MAKE UP FOR EVER」「KENZO」などのデザイン&アーティスティックディレクターを歴任、また日本のヤマギワとの協業も
PABLO REINOSO SUPERNATURE
パブロ・レイノソ「スーパーナチュール」展
小売業に従事する誰もが「一度は見ておいた方がいいよ。他にはないから」と勧めるポリゴーヌ。
現地に到着して、「なるほど」と頷けました。
ショッピングセンターというより、ショッピングパークとかショッピングランドの名称がふさわしい。
入り口にある今まで見たレベル最高の巨大なヘッド型の建物には、万人が「たまげる」でしょう。
しかもそれがURWのオフィスときたもんだ。
プールのような池の周りを、ポニーに乗った子供たちが散歩し、ミニ蒸気機関車型のお客様移動カーが通り抜けていく。
公園に下には、自然の林に小川がサラサラ流れ花が咲いている。
「気が向いたらショッピンぐでもどうぞ、ユニクロもザラもヴァレンチノもなんでもありますから」といった感じ。
そんな広大なスペースに配置された、パブロ・レイノソのによる10点のアートベンチ。
これが企画展SUPER NATURE /スーパーナチュールです。
レイノソはデザイン同様、日常のものを彫刻として創造するアーティスト。
木やメタルを素材に思考する美しい曲線を空に描く彼の彫刻としてもベンチは、スパゲティベンチ SPAGETTI BENCH と呼ばれています。
「ゴダールのシネマのようにはじまりも終わりもない、デッサンの自由なところが好き」と語るレイノソ。
その無限のラインが、誰が命名したのか「スパゲティ」になるんですね。
「ベンチや道具など生活のオブジェのファンクション(機能)を問うこと」がレイノソの制作活動であり、「しかしデザイナーとアーティストの活動は根本的にプロセスが違う」と彼は指摘します。
池に展示された DOUBLE TALK(2017年)。
グラフィックなラインの白いベンチは、ボリス・ヴィアンのフィルムから犬と猫の話から着想を得たそうだ。
風景、空間など私たちの見えるものは何かと問いかける、まさにスーパーナチュラルな作品。
池に置かれていることから、展示作品で唯一座ることができないのが残念。
ところが、このベンチに気持ちよさそうに座っている女性を目撃!
座りたいという衝動が危険を超えた(溺れたりはしないが)。
それを見て、微笑むレイノソ。
自分の作品を楽しんでもらっている、うれしいじゃないか。
そんなレイノソの反応に人柄のよさが伝わってきます。
百貨店プランタン前に展示された COMPLEX TALK(2017年)。
絡み合うスパゲティラインが、ある会話、または複雑そうな出会いをイメージさせ、ユーモラスに社会を表現しています。
SIMPLE TALK (RIGHT) SIMPLE TALK(LEFT) は2つのベンチを対面させた、ダブルフェイスの作品。
ペアのベンチに座る人たちの会話が、振り付けされたようなラインになっていくような、アートとヒューマンが交じり合う空間です。
こんな風に座りながらおしゃべりしたり、休んだり、食べたり飲んだり、スマートフォンで何か送ったり、アートとしてのベンチを鑑賞というか体験できる企画展。
コピーライターの大家、西山佳也さんの代表作『触ってごらん、ウールだよ。』(国際羊毛事務局 現ザ・ウールマーク・カンパニー ポスター 1981年)を勝手に拝借すると、
「座ってごらん、アートだよ」
レイノソからこんなお誘いを受けたような時間を過ごしました。
確かに噂どおり、稀代なSCポリゴーヌ。
ショッピングせずにパリに戻りましたが。
【インフォメーション】
パブロ・レイノソ展 10月14日まで
https://www.polygone-riviera.fr/news-detail/EXPOSITION
PABLO REINOSOオフィシャルサイト
PICASSO OBSTINEMENT MEDITERRANEEN( Picasso, decidedly Mediterranean )
ピカソと地中海
ピカソ美術館で 10月6日まで
http://www.museepicassoparis.fr/en/picasso-mediterranean/
ピカソ地中海プロジェクトオフィシャルサイト
https://picasso-mediterranee.org/index.html#en/map/
地中海の都市ニースからパリのピカソ美術館へ。
パブロ・ピカソとジャン=ポール・ゴルチエ、ふたりのイメージが重なってしまうこと、ありませんか?
「似てない?このふたりって」
とさりげない自問をしてしまうのは、わたしだけでしょうか。
その理由はと考えると、ふたりの制服が「ボーダーシャツ」だからなんですよね。
ゴルチエはどうか詳しくは知らないのですが、ピカソはフランスの地中海沿岸好きが講じてボーダーシャツを着るようになったとか。
ピカソ美術館ではこの天才画家と地中海をテーマにした企画展が開催中です。
これは2017年にスタートした地中海沿岸諸国の70の文化施設による共同プロジェクト「ピカソ・地中海」のひとつ。
2020年に47の企画展がフランスのトゥーロン美術館を最後に完結します。
「パリにはピカソがありすぎるとよく言われる」_
同展内覧会の席で、ローラン・ル・ボン同美術館ディレクターが笑いをとる場面があったのですが、そういえば以前、ピカソのお孫さんのベルナールさんとのひと時をここでレポートした時、「ピカソは4万5000点もの作品を残した」と書き出したのですが。
もっとあるのかな。
何れにせよ、たくさんありすぎてもやっぱりありがたいピカソ。
この展覧会では「ありすぎる」ピカソなのにも関わらず、まだパリ未公開の作品も展示しています。
生まれ故郷のスペイン・マラガからコートダジュールのアンティーブ、4000点の陶器を創作したヴァロリス、アーティストやセレブの社交場となったカンヌ近郊のヴィラ・カリフォルニア、画家が最後を迎えたムーガンと、展覧会は時系列でコンパクトに構成し、その反面で作品を見ながらある偉大なアーティストの一生を読むような時間を与えてくれます。
だってこの地中海時代がある意味画家のプラーベートな男盛り。
パリ時代から愛人関係だったドラ・マールにマリー=テレーズ、パブロを捨てた唯一の女性、フランソワーズ・ジロー、フランソワーズへの復讐とも言われている45歳年下のジャクリーヌ・ロックとの結婚_
ピカソと女性関係を知れば知るほど展覧会もより深くなります。
ちなみにフランスで1964年刊、センセーショナルとなったフランソワーズ・ジローがピカソとの生活を書いた(ピカソにとっては「暴露本」)Vivire avec Picasso / Life with Picasso(英語版)は、55年後の今でもアーティストの伝記部門販売ランキングのトップ。
ピカソ美術館でもあっという間にすぐ売り切れ(特に英語版)。
そのフランソワーズ・ジローに振られたピカソをアカデミーフランセーズ作家ドミニク・フェルナンデーズ DOMINIQUE FERNANDEZ が物語にした、LE PEINTRE ABANDONEE (直訳/見捨てられた画家)が春に出版されベストセラー。
出版界でもネタの尽きないピカソです。
それではまた。
ア・ビアント A BIENTOT !
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。