「日本はファッションを文化として育ててこなかった」と、松井智則さんは嘆く。TCS(東京クリエイティブサロン)で目指すのは「ファッションのスターを生み出す舞台作り」だ。
【関連記事】近づく東京クリエイティブサロン ファッション統括ディレクター松井智則さんに聞く㊤
業界を盛り上げる
――ファッション・ウィークに海外からはあまり来ない。
欧米ではファッション業界で働いていることが評価され、憧れの職業としても認められています。ファッションは世界中の人を引きつけるコンテンツにもなるし、子供たちを含めて美意識を支えるという思想が根付いています。日本とは大きな差があります。結局、日本は国がファッションを文化として育ててこなかったのでしょう。クールジャパン機構などでも試していますが、本質的な取り組みはしていない。「コムデギャルソン」や「ヨウジヤマモト」のようにパリで高く評価されたデザイナーも長く出てきていません。パリの一等地で日本のブランドが成功すれば、黙っていても日本に来るでしょう。
知見を持っていたり、ビジネスで成功している人が力を合わせて世界戦略を立てないと、ずっと同じことを繰り返してしまう。
クリエイティブを担うのはデザイナーです。私はここを原点として、彼らがいるからPRをしたり、合同展を開いてきました。業界の人たちがこれからどういうファッションを作っていくのか。デザイナー自身も、業界の人たちも普段はコンペチターでいい。でも、人口が減少していく中でパイを奪い合うことでは進化はない。デザイナーに対する教育や企業の在り方を考え直す。共に力を合わせてファッションの未来を考えていく。TCSはそのいい機会になると思っています。業界の人自身が楽しみ、未来につなげるための街開きにしたい。
〝五輪〟開きスターを
――海外連携も視野に入ってきた。
アジア各国の大使館を訪ねています。TCS期間中に東京でショーを開催し「ファッションのオリンピックを開こう」と呼びかけています。出場すると、アスリートは国際的なスターになりますが、今はファッションにスターはいない。そういう舞台を作り、業界で働く人がプライドを持てたり、デザイナーの存在が一般の人にも知られます。
将来はアジアを巻き込んだ観光資源としても、大きな経済効果をもたらすイベントにTCSを育てていきたいですね。
――今後のTCSは。
今は経済戦争をしています。街の人通りが多い場所には経済的に勝利した人が店を構えている。TCSはクリエイティブ的に、経済的にもっと世界に売り込むことができるかもしれない。地球儀を経済で色分けしたら、銀座は世界のどこよりも真っ赤になる。日本の色をどれだけ増やすか。それがこれからの課題だと思っています。
また、環境問題も含めて改めていかなければならない地球のルールがあります。遠く離れていた、経済との二つのルールをもっと近づけなければならない時代です。TCSは社会と地球のルールを近づける真ん中にいなければならない。ファッションは次の時代、未来を見せる存在であり、未来を推していくものです。未来を推すコンテンツが何を見せるか。企業やデザイナーがTCSでそれを表現してもらいたいですね。