いまや市場における競争優位は、製品そのものの機能や価格差ではなく、「ブランドが何を語るか」「顧客にどう共感されるか」によって左右される時代である。こうした背景のもと、「ブランドマーケティング」を提唱したい。
顧客とブランドをつなぐ
ブランドマーケティングとは、企業がもつ独自の価値観やビジョンを、市場と生活者に接続し、共感を得ることで中長期的な関係を築くための考え方である。それは単に「ブランドを広めること」ではなく、ブランディングとマーケティングという両輪を統合し、顧客とブランドがつながる仕組みを設計する行為である。
現代において、生活者は「モノ」そのものではなく、「意味」や「共感」でブランドを選ぶ。つまり、商品やサービスの優位性だけでは差別化が困難になってきた今、企業が「何を信じ、何を目指し、どのような価値を社会に提供するのか」が、購買や支持の判断基準となる。
今後の競争力の源泉に
ここで重要なのが「ブランディング」と「マーケティング」の関係である。前者は企業の強みやビジョン、価値観といった内面の定義や設計を担う。一方、後者はそれらを市場や顧客に外向きに届け、機会へと変換する手段である。ブランドマーケティングとは、この両者を一体化し、「企業のブランド価値」を「顧客の理解と共感」へと変換する媒介なのである。
例えば、自社の歴史や哲学に根ざしたブランドストーリーを、SNSや店舗体験、パッケージデザインに反映させることで、生活者は単なる商品ではなく、そのブランドの世界観に触れ、共鳴することができる。こうして築かれた関係は、価格や利便性に依存しない、強固なブランドロイヤルティーへとつながっていく。
ファッション産業においては特に、ブランドの〝らしさ〟が商品や売り場、ビジュアルコミュニケーションのすべてに統一的に表現されているかどうかが、消費者のブランド認知と選択を左右する。「強いブランド」は、強いプロダクト以上に、明確な意図と価値を一貫して伝えることで生まれる。
ブランドマーケティングとは、ブランディングによって築いた資産=ブランド価値を、マーケティングによって戦略的に展開し、顧客と意味のある関係を育む営みである。短期的な売り上げ施策ではなく、企業の思想と生活者の共感を接続する長期的な価値創造プロセスで、今後の競争力の源泉となる考え方といえる。
(有田貴美江事務所ブランドマーケティングコンサルタント・有田貴美江)