来年、創業50周年を迎えるタビオ。15歳から奉公した会社を半ば追われるように、同志3人で起業した会社は、日本を代表する靴下企業になった。ただ、流通環境の激変などから、近年の業績は横ばいが続く。今、何を変え、何を守らねばならないのか。越智直正代表取締役会長に聞いた。
(山田太志)
「何くそが支え」
50年の回顧録を執筆しとる。1年を1ページにまとめとるんやけど、自分でも忘れていることがいっぱいあってのう。まあ、外に出すもんやないけど、改めて振り返ったら、50年の間、1年として止まったことがない。やっぱり常に挑戦する心を持たないかん。現状に満足したり、問題に気付かんようになったら、会社も人もおしまいや。
よう思い出すよ。独立して5年ぐらい、確か33歳のこと。資金繰りが行き詰まった。手形が落ちる日なのにお金が足らん。金策に走り回ったけども、正直、万策尽きて諦めた。銀行に行って支店長を待つ間、不覚にも寝てしもうた。そりゃ、2日ほど一睡もしとらんのやから。
支店長は「今日倒産という人がイビキをかいて寝ている。大したもんです。残りのお金は自分の裁量で何とかしましょう」と。
今でこそ笑い話やけど、駄目なら自動車に飛び込んで、その保険金で取引先に迷惑掛けんよう、なんて考えてた。自分では意識せんけども、ビンタが日常茶飯事やった奉公した時代、何度かあった倒産の危機が、やっぱり今の『何くそ』という心を支えてんのかなあ。
そういう目で今の業界を見ると、品質を落とし価格を下げて利益を出す。これほどお客さんを馬鹿にしてることはない。やれカシミヤ混や、シルク混やと堂々と掲げとる。〝調味料〟ぐらいしか入れてへんのになあ。
大きな立派な会社が、低価格や規模の大きさで勝負する。「覇道」がはびこって、「王道」が廃れていく。商売人の良心はどこに行ったんやと悲しゅうなる。
怖さとチャンス

今、インターネット時代の過渡期でしょう。言うたらのう、システムうんぬんの道具の話は瑣末(さまつ)なこと。流通の形は昔も今も大きく変わる。要は、今まで以上に消費者と向き合うんやから、「革命」と言うてええぐらいの怖さとチャンスがある。
50年、わしは商品、サービスの面で、「絶対お客さんをだまさない」だけは貫いてきた。この点だけは胸を張って言える。時代の変化は関係ない。
最近、業績は横ばい。これは、当たり前のことや。目先の売上高が大事か、誠心誠意を持って靴下を作り、お客さんに売っていくのか。うちには後の道しかない。ニッターや染色、内職さんも支えないかん。今は過渡期かもしれんが、世界に通用するブランドを確立するという目標のためには、多少の回り道は仕方がない。
ただ、うちが50年かけて作ってきた形は、よそが簡単にまねでけへんという自負はある。これが結局は近道になるんやと信じてます。
組織が大きくなって、いろんなことの修正に時間もかかる。社員が賢くなり過ぎたんかもしれん。「知は迷いの元」で、うまくいかん理由を付けるのが上手になってしもうた。これは気になる。
ただ、社長には経営のことは何も言うとらんし、言うても親父の話は素直に聞かんでしょう。自分のやり方を見つけてくれれば、それでええんやと思います。そう心配はしてません。
逆に言えば、靴下を裏切ったり、消費者をだましたりしたら、うちは終わり。今、78歳。もう20年、30年しか頑張れんけど、この点だけは何べんも言うときます。
チェックポイント!
オムニチャネル化が課題
20年までの「抜本的構造改革」を進めている最中。282の店舗は大型化や紳士やスポーツとの複合化による〝ビルド〟と不採算店の〝スクラップ〟が一段落した。
店舗網を生かしたオムニチャネル化は最大の宿題で、EC・店舗間の垣根を無くした在庫一元化、顧客管理の統合、「タビオアプリ」の会員拡大などを強化している。当面は駅ナカ小型店など生活線上の実験店舗の開設、米国でのEC事業立ち上げなどが大きな課題となる。