【店長に役立つページ】「ディスプレーの仕事」への疑問にお答えします 情緒に訴える、物言わぬ“販売員”

2021/09/13 06:30 更新


「本社のVMDは店の総合演出家のような立ち位置になるべき」と堀田さん。「店長の伴走者として店をあるべき方向に向かわせる必要がある」

 器(うつわ、=ショップ)の中に商品があって、販売員がいればショップは成立するが、それら三つの要素をつなげ、来店客の情緒に訴え魅力化する大事な仕掛けが商品のディスプレー。演出を担うのは店舗のディスプレー担当や本社のビジュアルマーチャンダイザーだが、会社によって仕事の定義は異なり、売り上げ予算がある販売員と違って業務を定量的に評価するのも難しい。

 そこで今回、セレクトショップでの販売からキャリアをスタートさせ、ルイヴィトンジャパンやイッセイミヤケなどでVMDの責任者として腕を振るった堀田健一郎さんにVMDやディスプレーの仕事について話を聞いた。「ディスプレーは物言わぬ販売員」。販売からのたたき上げである堀田さんが説く、その意味を探る。

客観的に店を見てみる

Q1 堀田さんが販売員時代に心掛けていたことは何ですかか。

 関西にあるビームスにはアルバイトとして働き始めたのですが、当時の先輩によく言われていたのは「店を客観的に見なさい」でした。その意味は、お客さんの立場で見なさいと言うこと。簡単なようですが、実は非常に難しい。と言うのも、店作りはお客さんに向けて自分たちでやっているわけですから、疑問を挟む余地は少ない。時には、その時の彼女だったり、結婚してからは奥さんだったり、近しい第三者の意見も参考にしていました。彼女たちが楽しく感じなかったら失敗です。

 また、周辺ににぎわっている店があったら見に行って、にぎわいの理由を探ることも。エリアで勝っている店を継続して観察すると、トルソーの数や位置の変化などに気付きます。一スタッフの時も店長の時も、朝、昼、夕方と当たり前のように「お客さんの立場で店を見る」ことを繰り返していました。

 人だまりができている店は、何らかの価値が感じられる場所。最初に強い印象を与えるエントランス周り、次にエントランスから続くゾーンと、仕掛けが潜んでいるのです。コロナ禍であってもそれは同じ。にぎわっているところは何かしらの仕掛けがあって、消費者に情動的な価値を提供しているはずです。

コミュニケーションの道具

Q2 担当だとしても、自分一人で決めるのには勇気がいりそうです。

 そうですね。今でも繰り返し言っているのは、「みんなでやって下さい」です。自分の気付きと同僚の気付きは違うかもしれないですし、色々なアイデアを取り入れて試し、検証・改善する方がいい。それは店の雰囲気の良化にもつながり、お客さんにも伝わるはずですから。店にとって大事なのはスタッフのアイディアをどんどん動かすことです。

 ディスプレーの変更は、単なる物理的な商品交換ではなく、コミュニケーションツールの更新。コミュニケーションのためのツールであるならば、ひとりの作業だとその人だけのツールになりますが、みんなでやれば全員のものになる。ディスプレーが変われば接客も変わるので、お客さんと接する頻度が増え、その内容も変わるはずです。

 ディスプレーを作る時の心構えとして大事なお話をします。それは、ディスプレーは「物言わぬ販売員」と捉えるということです。ずいぶん前に先輩に教えられたことですが、それぐらいの力を持ち得る存在だと考えると軽々しくは作れないはずですよね。販売スタッフが減る中で、1人雇ったのと同じだと考えると頼もしい存在にもなるし、力を発揮してもらいたいと思って丁寧に作れると思いませんか。そのためにも、スタッフ全員で取り組んでほしい。

 みんなで取り組むディスプレーの作成はチームビルディングにもつながる。分業だと見えないスタッフの評価ポイントが垣間見えるのも店長にとっては有用なはずです。スタッフ全員でアイディアを出して〝自走〟してくれれば、店長は別のことに時間が割けます。イッセイミヤケで店長をしていたころは2~3カ月は併走していましたが、その後は任せて他の作業に時間を作ることができました。

大学でもVMD特別講義を実施(大妻女子大学で、右が堀田さん)

個性を出すことの大切さ

Q3 販売をしながらディスプレーを担当していますが、実際にやったことへの評価があいまいだなといつも感じているのですが…。取り組んだ結果を数値化できないのでしょうか。

 結論から言えば、店舗にテクノロジーを実装していないと正確にはできません。最近では天井にセンサーカメラを設置して来店客の店内利用動向を定量的に計測するサービスもありますが、日本では欧米ほど普及していません。取り組んだ結果がどうなったかは、エントランス周辺で入店客数や入店率を手カウントで測るしかないでしょう。

 なので、ディスプレーの評価の前に、まずは大胆なチャレンジで変化を与えてみてはいかがですか。セオリー通りの既視感のある変更であれば、入店客数など変化があっても誤差の範囲内にとどまって逆に評価に困る。みんなで考えた意図のあるディスプレーであればあるほど入店客数の変化に表れる。自分の20年以上の経験から確実にそう言えます。

 にも関わらず、本社からの指示は個性がないものが多いのは残念ですね。特にSCやモールのテナントはチェーン運営しているからか画一的で面白くない。せっかく広さもあるのに工夫がない。

 例えば、マネキンだって2体を4体にしたり、逆にゼロにしたり、クリエイティブな手法でなくても抜き差しだけでも変化はつけられるはずです。色でまとめたり、素材でまとめたり、形でまとめたり、他店と違うことをやった方が個性は際立ち、ほんの数秒でも足を止めることができるかもしれない。逆に、他店と同じようなディスプレーだと、仮にいい商品だったとしても見てももらえなくなりますから。お客さんの目を引き、数秒でも足を止めてもらう。さらに店内に足を運んでもらえればベターです。変化を楽しんでもらいたいですね。

店ではディスプレー担当任せにせず販売スタッフ全員で(C)v74 / Shutterstock.com

お客の足を止めた回数がKPI

 1年以上にわたるコロナ禍で、皆さんが困っていることは共通しています。「お客さんが少ない。どうしよう」と「コロナ明けにお客さんが戻ってくる。どうすべきか」です。

 自分がアドバイスしているのは三つ。まず、個性をはっきり出しましょうと言うのが一つ目です。競合相手と差異化するブランディングの見直しです。ツールや手法で先を行っても時間が経てば後続組も追いつく。その時に生きるのが、他がまねできないのは個性だからです。二つ目は、店のメディア化を強く意識すると言うこと。横浜のユニクロの例が分かりやすいのですが、生花を販売したり、写真映えする外観にしたり。三つ目が最初に挙げた二つをどうつなげるかです。

 自分がやりたいのは実店舗の価値の見直し。コロナ下で、はやされたECの売り上げの伸びも頭打ちになり、早晩、客足は必ず実店舗に戻ってきます。コロナを気にせず自由に街に繰り出すことができれば、爆発的に人出が増えるでしょう。ECが引き続き重要な強化領域であるのはもちろんですが、同じくらい実店舗も大切になる。コロナ下のウェブ接客の広がりを通じ、期せずしてオンラインとオフラインが接近し、OMO(オンラインとオフラインの融合)の輪郭が見えてきた。当然、EC同様、実店舗の役割も大切になるはずです。

 ただし、実店舗の役割は大きく変わる可能性がある。購入チャネルは他にもありますから、必ずしも店で買わなくてもよくなるからです。だから店舗は単なる販売チャネルだけでなく、メディア化も考えなくてはいけない。販売しなくても、リアルな場での体験が脳裏に焼きついて、ふとした時にその店やブランドを思い出してもらうのはブランドに取って意味のあることです。

デジタルと売り場の非連動

 最近気になるのは、SNSやECと売り場の連動が欠けている例が国内ブランドに多くみられること。今は情報取得の手段はSNSやECですから、それらとの関係も、もっと深く考えて対応する必要があります。例えば、「インスタグラム」で集客しているのに、投稿内容とディスプレーが同期していなかったり、ECで推しているものを店頭で表現できていなかったり。スタッフが知らなかったり、どこにあるか分からなかったでは、お客さんの不満を募らせるだけで、実店舗の魅力を損ないかねません。「ユニクロ」などはチラシやアプリで推しているものは当たり前のように分かりやすく表現していますよね。

 すごく当たり前のことが実践されていないのは、全社的にECやデジタル領域を注視するあまり、実店舗への関心が薄くなったからでしょう。でも、実店舗がブランドとお客さんをつなぐ大事なコミュニケーションのツールと考えれば、そこまでもきちんと設計しないと逆にデジタル施策が無駄にもなりかねません。

数値改善のため実行続けるべき

 入店客数と入店率をKPIとするなら、数値改善のために愚直に実行し続けるべきです。市場で勝っているブランドは緻密(ちみつ)にやっていますから。新しいお客さんの認知獲得や来店促進のためにSNSを使っているのにちぐはぐになっているのはもったいないですね。

 チェーン展開している店なのに、「自分の店には合わない」と店側で情報を取捨選択しているケースもあります。例えば、店前通行客層に合わせて店を作れという指示があるケースもあります。一見正しいように聞こえますが、だったらブランドの意味ってあるんでしょうか。ブランドの前にそれぞれの店長の店になってしまいませんか。ブランドにとってここ数年良くないなと思うのは、売り上げ確保に焦る店長が前のめりになって通路いっぱいにまで商品を積み上げてしまうこと。店とブランドのコミュニケーションツールであるはずのディスプレーはどこに行ったのでしょう。当然、ブランドが伝えたいメッセージなどそこにはありません。

 20年以上の経験を踏まえたディスプレーに関する自分のKPIは、お客さんの足を止めた回数です。足を止めた時は心が開いた状態で、商品にも店舗にも多かれ少なかれ共感を持った瞬間。もちろん、足を止められないのは逆の意味で、共感を得られていないということ。足が止まった時はスタッフが声を掛けるのにも最もいいタイミングなんですね。「1日のうち、何回足を止めてもらえるか」は、店のディスプレー担当やビジュアルマーチャンダイザーに大切にしてほしい指標ですね。

 ほった・けんいちろう VMS(ヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ)社長/ワールド・モード・ホールディングス上席執行役員。「ルイ・ヴィトン」「ドルチェ&ガッバーナ」などの日本法人やイッセイミヤケなどでVMDの責任者を歴任。現在はファッション分野にとどまらず、コスメや食品など多方面で指導を行っている。

(繊研新聞本紙21年7月26日付)

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