個店専門店の間で、オリジナル商品が重要性を増している。コロナ禍においても、独自に顧客の関心を集められる仕掛けが繰り出せるからだ。昨今はSNSも後押しし、その可能性がさらに大きく広がった。お客との強いつながりや信頼関係、そしてニーズの把握という個店の長所を生かせば、オリジナルは売れ行きやプロパー消化率が大きく期待できる有効な武器になる。
カセドラル 客と“一緒に楽しむ感覚”で完売が続く
メンズセレクトショップのカセドラル(大阪市)は、21年3月からオリジナル「オーパスジャパン」で、毎月新商品を打ち出して顧客を楽しませている。インスタライブを通じ、商品化から販売までのプロセスを客と一緒に楽しむような感覚が支持され、毎回200点近くが完売する。ちょうど1年が経ち、生産・販売計画も予測を立てやすくなった。
「コロナ禍でプロパー消化率100%の提案をいかに増やすかが重要になった」(谷勇紀代表)中で、顧客の心をつかむオリジナル商品が有効になっている。
オリジナル商品は、これまで様々なモノを目利きしてきたバイヤーの経験や編集力を生かし、「ありそうでないモノ」を国内工場と協力し、小ロットで連打。これまで細番手のウールTシャツなどを提案しており、22年3月末には丈感や素材にこだわったコート(本体4万9000円)を販売した。日本でライセンス生産された60番手双糸使いのしなやかで軽い「ベンタイル」を使うとともに、一枚袖仕立てを採用し、ジャケットとコートの間の着丈にしたものだ。
商品についての着眼点やこだわりなどを定期的にインスタライブで紹介すると、「目の肥えている顧客様が参考になる声も聞かせてくれ、一緒に作る感覚で盛り上がる」と振り返る。ただし、企画については自身の〝欲しい〟を追求することを欠かさない。「なるべく自分の内側から形にしていく」ことが、身近な顧客や同じ趣味・ライフスタイルを持つ人たちの共感を生んでいる。
オリジナルの購入をきっかけに同店を訪れ、オリジナル以外のこだわりのセレクトも楽しむお客も増えた。2年目は、コーディネートや服の歴史・背景なども含め、「服の楽しさをもっと伝えていきたい」と考える。
ブティックハラ SNSの発信で顧客から好反応
レディス専門店のブティックハラ(岐阜県大垣市)は、2月中旬からオリジナルの春物パンツ「ハラコレ100パンツ」を販売し、1週間ですでに20着売り上げた。顧客とSNSを通じたコミュニケーションが広がり、顧客に「買いたい」と思わせる提案に手応えを感じている。
同商品は、若者の間で流行するセンタースリットパンツから着想を得て作ったスリットのないブーツカットパンツだ。ポイントは着心地が良く、細く見え、耐久性のあること。カラーは、職場でもはきやすいように黒で企画した。顧客との密なコミュニケーションを続ける中で、見えてきたニーズを満たす理想のパンツだ。本体1万6800円。
取締役の広瀬さんは長引くコロナ禍に、顧客との新たなコミュニケーションを模索してきた。その中で、「インスタグラムのストーリー機能を利用し、商品の情報を毎日発信したところ、顧客から思わぬ反応があった」という。
ストーリーを見た顧客が商品に興味を持ち、メッセージ機能を使っての取り置きや予約、問い合わせを行うなど、やり取りが急激に増加した。何気なくアップし始めたストーリーの画像だが、今ではこれをきっかけに40万円の高額なかばんを売り上げるケースもある。
ストーリーへの問い合わせのほとんどは既存の顧客。「もともと専門店の強みであるダイレクトな顧客とのコミュニケーションが、形を変えて続いている」と広瀬さんは振り返る。顧客との接点拡大が、ニーズをダイレクトに反映させた「ハラコレ100パンツ」につながった。夏までに50着を目指している。
アバンダンティズム 倉庫に眠る生地でジェンダーレスな上下
アバンダンティズム(愛知県岡崎市)は21年秋、オリジナルのセットアップを企画し、廃棄されるかもしれない使われない生地で、誰でも美しく着こなせるジェンダーレスな服に仕上げた。大半は顧客からの事前注文で完売、店頭販売分もほぼ売り切った。今年の秋にもオリジナルを販売する予定だ。
21年10月末に発売したセットアップは、メーカーの生地倉庫で見つけた生地7種を、国内の縫製工場で仕上げてもらった。縫製パターンは1種類。サイズも全て同じ。商品の違いは素材の違いのみだ。1パターン、1サイズで、小柄な女性でも大柄な男性でも着こなせるように、ジャケットの袖は折り返しても伸ばしても着用でき、パンツの裾も詰めたり伸ばしたりできる。ジャケットのカラーは、テーラード、シャツ、スタンドの3通りに替えることができる。
着数は確保できた生地の量で決まる。多いものでセットアップ上下10セット、少なければ2セット。どれだけ売れても追加生産はしない。受注で7種のうち4種の生地が完売、残った生地で作ったセットアップを店頭で販売した。
20年もオリジナルのセットアップを販売し、大変、好評だった。顧客の期待値は高く、しかも数量限定とあって、早い段階で受注が決まっていった。現在は店を共同で運営する樋口雄太さんと大島ユカさんが企画・デザインするが、今年の秋は外部のデザイナーとの協業も検討したいとしている。また、若干とはいえ店頭販売分を売り残したことから、完全受注生産も考えている。
(繊研新聞本紙22年3月31日)