【専門店】地方百貨店への出店強める専門店 地域の潜在需要に伸び代

2021/07/12 06:30 更新


 今、地方都市を中心とした百貨店に、専門店が出店するケースが増えている。この間、大手アパレル企業や海外ブランドが相次いで売り場を閉めたことによって、空きスペースが増えたためだ。単独のアパレルブランドでは採算が取れなくても、専門店ならではの専門性とバラエティーに富んだ品揃えが、潜在需要を掘り起こし、百貨店の集客力を高めている。

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インポート靴セレクト「テラス」→西宮阪急

靴に合う洋服も提案

 インポートシューズのセレクトショップ「テラス」は3月、西宮阪急の婦人靴売り場に約80平方メートルの直営店を開設した。森田祥子テラス代表は、07年から心斎橋で欧州製のパンプスを品揃えした路面店を運営、イタリアの国際見本市やファクトリーに直接赴いて仕入れる独自の目利きが強みだ。中心価格は3万~4万円台。きれいなカットラインで足元を美しく見せるデザインを揃え、社会で活躍する女性を中心に顧客を築いてきた。百貨店の多くがインポート製品を直接仕入れることが出来なくなり、この数年は催事販売を複数店から依頼されている。西宮阪急は8年ほど前から年4回、2週間の催事を行ってきた。

 「この地域には、親の世代の習慣を引き継ぐ文化がある。若い世代にも欧州製品を好む地域性が根付き、子育てしていてもスタイリッシュな方が多い。そこにチャンスがあると感じていました」と森田さん。近所への買い物など「日常的にヒールの高い靴を履いていて、慣れている人が多い」。催事でも、ヒールが6センチ以上のパンプスやサンダルが売れていたという。

 とはいえ、常設店の売り場面積は心斎橋の路面店の2倍以上で、その品揃えは新たな挑戦となった。「壁面のある空間でインポート製品を扱うテラスらしい世界を満喫してもらいたい」と、靴を軸に洋服まで扱うブティックのようなMDを森田さん自身が組み立てた。一部のバッグやジュエリーは路面店でも販売しているが、洋服は、これまでの人脈を生かし、2社の輸入代理店企業のサポートを得た。その商品構成比率は20%ほど。通常、百貨店に置いていない欧州ブランドで「テラスの靴に合わせやすく、仕事にも使えそうなデザイン」を中心に揃え、価格帯は2万~5万円。数週間ごとに入れ替える委託販売で協力してもらっている。

 コロナ禍での開店だったが、地域に根差す専門店の強みが生きた。オープン初日は、心斎橋店の顧客がお祝いに駆け付け、「1日で1カ月の予算の3分の1近くを売り上げた」。その後も、催事でテラスを知った近隣在住者が気付いて来店するようになったり、梅田など遠出の買い物を控えて地元で済ませる消費傾向が強まったりと、4月下旬に緊急事態宣言が出される前までは「予想以上の売れ行き」となった。

 成功要因は、身近な場所で心がときめく出会いを楽しめることだ。人気商品の一つは、クリスタルガラスがリングモチーフなどのストラップにちりばめられたサンダルやビジュー付きのミュールサンダル。「一見、派手な印象ですが、足の色になじむベージュの革を使っていて、50代や60代の足にも映えるんです。インポートの魅力に触れ、安定感のあるヒールで普段使いができると2足買いした方もいます」と、スタッフは話す。

 また、ガラスケースに入ったフランス製のコスチュームジュエリーが、靴を購入してまもなくでも来店を誘うフックになる。2万円前後で購入でき、「他では見ない個性的なデザインが揃っているので、靴の顧客が近所の友人を連れて来るきっかけにも」なっている。店のターゲット層も広がる。ただ、あくまでも補完的なものであり、森田さんは「靴の販売にしっかり向き合っていきたい」と気持ちを引き締める。「今があるのは心斎橋の路面店で築いた顧客との信頼関係があってです。百貨店でも変わりません。不特定多数の来店客に売る意識ではなく、腰を据えて西宮地区の顧客作りに専念したい」。

イタリア製やスペイン製の華やかなパンプス、サンダルが引き立つブティックのようなMDを組み立てた

メリケンヘッドクォーターズ→阪急うめだ本店など

“野生鹿”切り口に常設店

 神戸市でセレクトショップ「ハイカラブルバード」や飲食店などを運営するメリケンヘッドクォーターズ(入舩郁也社長)は、昨年秋に阪急うめだ本店8階に、今春に神戸阪急本館7階に長年にわたり課題解決に取り組む害獣(野生鹿)を有効活用したライフスタイル提案型の常設店を出店した。6月2~8日に博多阪急に期間限定店も開設する予定。

 同社は、地元である兵庫県で農林業の被害対策として処分され、ほとんど廃棄される野生のニホンジカの副産物の鹿肉、鹿皮、鹿角、鹿骨まで全て「ニホンジカまるごと1頭を有効活用」による循環の仕組みを確立している。

 オリジナルブランド「ボガボガループライン」ではバッグや小物、シューズを鹿革で作ったり、シャツのボタンやジーンズのパッチに鹿革の端切れを使ったり、角もアクセサリーとして再利用したりしている。日本での物作りを守るため国内工場との取り組みも継続している。

 昨年秋には鹿骨の灰を釉薬(ゆうやく)に利用した陶器もラインナップに加えた。常設店ではオリジナルブランドを軸にセレクト品で構成。百貨店にはサステイナブル(持続可能)な取り組みを理解してくれる優良顧客も多く、新たな客層の開拓のチャンスだと位置づけている。

 3月末にオープンした神戸阪急のハイカラブルバードではコロナ下で来店客数が少ないにもかかわらず、リピーターも増えてきた。地元の元町などで20年以上運営する路面のセレクトショップとの相互送客も実現している。

 地元百貨店への出店を機に、4月末から神戸居留地にジビエ専門精肉店もオープン。以前から営業している鹿肉専門の飲食店「鹿鳴茶流・入舩」など食の分野もあり、ファッション以外でのファン作りも成果を上げている。

 こうした垣根を越えた多彩なコンテンツは百貨店の新たな売り場作りにとっても大きな役割を果たせるだろう。

今春、神戸阪急にオープンした「ハイカラブルバード」

(繊研新聞本紙21年6月3日付)

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