専門店の戦力は何といっても販売スタッフ。特に新人は新たな顧客を獲得する大きな力であり、明るい未来を作るために欠かせない存在だ。若い感性や視点は店の視野を広げ、時代変化の対応力を強めるだろう。新たな仲間への期待を込めて、2月から始まった企画「新人入りました」のスペシャル版として、服を売る思いや奮闘ぶりを紹介する。
【関連記事】【専門店】新旧ファッション個店が共存する桐生 魅力ある街へ着実に進化
ずば抜けたセンスに期待
西沢伊織さん(ディアナガーデン)
大阪府箕面市の住宅街にあり、感度の高いコーディネートが強く支持されるレディスセレクトショップのディアナガーデン。昨年、店を10年間支えたスタッフが家庭の事情で店を離れることになり、求人をしたところ約50人の応募があった。その中から採用されたのが、名古屋学芸大学メディア造形学部でファッションを専攻し、今年3月に卒業した西沢伊織さん。「ずっと服が好き」と自認し、職種を問わず洋服に関わる仕事を目指していた。
西沢さんは、大学のゼミではセレクトショップの企画・提案をしたこともある。服を深く語り、記憶に残る接客ができる個店に魅力を感じていた。ディアナガーデンの「ファッションを通じてお客様の生活を豊かにする」という理念は、自らの思いと重なるもので志望動機としては十分だった。
保田惠一オーナーが採用した決め手は「色や丈の感じなどコーディネートのセンスが飛び抜けていた」ことにある。「服のセレクトが洗練されており、それを選ぶ理由も明確に伝えられる」と太鼓判を押す。採用を決めた20年6月から展示会でのバイイングに同行させ、満を持してこの4月から正式に入店となった。
西沢さんが店頭に立って1カ月。「完全予約制なのでお客様との関わりが深く、一つひとつの商品を薦める責任が重い」ことが他店との大きな違いと感じている。そうしたプレッシャーを感じながらも、大きな売り上げを得る日も出始めた。担当するブログのコーディネートを見て来店予約する新規客も生まれている。そんな西沢さんの夢は「この店でキャリアを積み、ゆくゆくはディアナガーデンのオリジナルブランドを販売すること」だ。保田オーナーは「言葉遣いなどまだまだ学ぶべきものも多いが、経験を重ねて信用を作り、新たなファンを呼ぶ大きな力となってくれるはず」と期待する。
接客や仕入れで個性を発揮
板橋吾朗さん(ロフトマン)
板橋さんは大学2年生の時からセレクトショップ「ロフトマン1981」でアルバイトをスタート。大学卒業後はほかの企業への就職も視野に入れていたが、「ロフトマンが持つホスピタリティーや個性的な接客、品揃えに心を動かされた」ことから、そのままロフトマン(京都市)で働くことにした。
正社員になったのは20年。ふだんの接客で重視していることは、「商品を購入頂くかどうかは別にして、どれだけお客様を楽しく感じさせることができるか」という点だ。相手の様子を見ながら、服とは関係のない話題も積極的に織り交ぜながら打ち解けていく。ネットで簡単に買える時代に、「わざわざここに来てくれて、『この人から買いたい』と思ってもらえることをとにかく大事にしたい」。
自身の長所について、「一度買って頂いたお客様の顔を忘れないこと」と振り返る。次に来店してくれた時に、「この前ご購入頂いた服はどうですか?」と話しかけると、「とても会話が盛り上がる」と笑顔を見せる。
特にやりがいを感じるのは、先輩バイヤーと相談してネペンテス(東京)のブランドのバイイングをしていることだ。
ロフトマンの他店にも同じブランドを扱う店はあるが、ロフトマン1981として提案したい商品を自らセレクトしている。それを求め、大阪からわざわざ来てくれた時などは、「自店らしさが発揮できてうれしい」という。
今後の目標は、「職場のみんなや取引先メーカーに協力してもらいながら、ロフトマンを日本一の会社にすること」だ。先輩や社長の仕事ぶりを見て、「追いかけるべき背中はたくさんある」と感じている。「例えばインスタの発信が自分より得意な同期の仲間もいる。互いにうまく出来ることを掛け合わせながら、目標に近づきたい」と話す。
伝える仕事に魅力を感じる
宮西沙樹さん(スズキインターナショナル)
千葉県柏市でメンズ・レディスのインポートブランドを主力にセレクトショップ「ラグラグマーケット」を運営するスズキインターナショナル(鈴木太郎社長)は、自社ブランド「スウィープ・ロサンゼルス」の直営店開設の新事業を推進するため今春、新入を採用した。新事業には既存のセレクトショップ運営とは異なる専任チームを設置。作り手がダイレクトに消費者に伝えるブランドビジネスとして「従来型の販売手法ではなく、新しい時代の情報の届け方をデジタルネイティブの若い世代に託したい」(鈴木社長)との思いが強い。
数カ月前に入社したばかりの宮西沙樹さん(22)は「物作りから店頭販売はもちろん、EC用撮影や出荷作業、コンテンツ発信、SNSの活用など全ての業務にかかわれることに魅力を感じた」のが志望動機だという。飲食店やキャラクターショップで接客業を経験した後、ウェブマガジンやSNS運用会社から転職した。元々高校は服飾専門科でファッションが好きだったこともあるが、「自分のオススメを伝えるようなクリエイティブな仕事にチャレンジしてみたかった」という。
直営店に立つまでの研修期間に店頭販売からEC関連業務を経験。「ECでも客に商品を届けて終わりではなく、その先につながるような顧客との接点づくりの大切さを学べた」と宮西さん。まだまだ勉強中だが、「自分たち世代の感覚を生かし、インスタグラムなどSNSで自社ブランド、スウィープのファンになってもらえるような新たなイメージを伝えていきたい」と強調する。「小さい会社だが、次世代向け事業の実験場、若手がマルチに活躍できる場を提供したい」と鈴木社長の挑戦は続く。
地元店の顧客から社員に
玉井聖夜さん(フロンティア)
長野を拠点にセレクト店を運営するフロンティア(小野島剛代表)が、5年前から出店を始めた生活提案型業態、シングスリー。長野県出身の玉井聖夜さんは、アクセサリーが好きな母と一緒に松本や長野の店に高校の頃から通っていた顧客。大学進学で上京後も、関東1号店の吉祥寺店を見つけて利用したり、身近な存在だった。「手作りアクセサリーが豊富で様々な作風が楽しめ、美術館みたいで何時間いても飽きない。将来、自分のブランドを作る夢の実現にも役立つと思って」、地元で採用試験を受けた。内定が決まり、昨年7月から研修を兼ねて吉祥寺店でアルバイトを始め、4月に正社員として配属された。
驚いたのは覚えることと仕事の多さ。「新人でも店に立ったら何でも答える必要がある」ので器の産地と種類、有機栽培やアレルギー対応の食品などの知識も吸収。アクセサリーは約140ブランドあり、SNSを見て探しに来た作家物の指名買いも多いため、店頭の写真を撮って帰宅後にブランド名や特徴、画像の対応表を作り、暗記した。
入荷時の納品書と商品の照合、店頭の棚卸し時のデータ入力は神経を使う仕事。季節に合わせてVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を変えると集客力が上がるなど初めて知ることばかりで新鮮だ。4月から仕入れたいブランドとの交渉など外部と連絡する仕事も増え、社会人のマナーも勉強中で「責任を伴う仕事が増え、やりがいを感じる。客の声や店頭の動きを基に仕入れる商品や価格、レイアウト変更への意見も聞かれ、反映されるのもうれしい」と意欲的。本社も「探究心があり努力家。先々は商品開発で力を発揮してほしい」と期待する。
永遠の課題は接客。一声かけ、呼ばれたら接客できる場所で様子を見るが、要・不要、タイミングなど人によって違い、正解がない。数をこなしながら店長のアドバイスを受け実践的に学習中だ。「ギフトや着こなしの相談を受け、自分の提案に納得して買ってもらえると幸せ。目標は指名される販売員」と努力を続けている。
(繊研新聞本紙21年5月20日付)