長野を拠点にセレクト店を運営するフロンティアは、コロナ下となった20年以降もコロナ前と変わらないスタンスで地道に出店を続けている。以前から出店予定が決まっていた店舗に加え、コロナ下でも集客が見込める雑貨業態の出店依頼が増えたことに対応し、現場の意見を集めて雑貨専門の新業態も開発。「中小なので、ある程度の出店は続けないと経済回復後にしんどくなる。利益が見込めるか慎重に検討を重ね、無理のない範囲で出店した」(小野島剛代表)結果、短期契約も含めて20年4店、21年5店、今年も既に4店を新設。店舗網縮小の動きが目立つ中、通常ペースを保ち現在24店と存在感を高めている。
生活提案型軸に出店
同社は00年4月の創業。JR長野駅前で、創業当初はスタイリスト系ブランドなどを集めたレディス店や、ストリート系メンズセレクト店を運営。消費者の興味や買い方など時流の変化に合わせて立地や商品を変え、10年ごろから路面店は長野駅前の1店に絞り、商業施設中心の出店に変更。県内で長野と松本にレディス主体のセレクト店を構えつつ、16年からは「SPA(製造小売業)とネットに客が流れ、服主体の店では集客が厳しくなった」ため、生活提案型業態を軸に店舗網を拡大してきた。
主力業態の「シングスリー」はファッションビル、駅ビル向けで女性が主対象の生活提案型セレクト店。「毎日の生活をより楽しく豊かに」がコンセプトで、ギフトにも適したアクセサリーや雑貨を中心に、服は4割までに抑え、国内外から個性のあるもの〝シングス〟を集めて提案。16年に松本パルコとミドリ長野に出店後、翌年に東京に進出し、17~19年は首都圏で年2、3店ペースで店舗網を拡大。20年に東京・錦糸町のテルミナ、コロナ下の21年9月に同・町田東急ツインズ、6月15日にはサンエー浦添西海岸パルコシティに11店目を出し、沖縄初出店ながら好調だ。
シングスリーとほぼ同時期に、郊外型モール向け生活提案型業態「ザ・サンドリー」も開発。「日常に彩りを」を掲げ、普段使いの服からドレスアップできるアクセサリーまで、立地に応じてライフスタイルに沿った商品を提案して好評。コロナ下でも昨年秋に浦和パルコ、今春はイオンモール甲府昭和に出店した。新型コロナの感染拡大が始まった20年に出店を始めた業態も二つあり、新業態ながら少しずつ店舗を増やしている。
雑貨専門の新業態も
コロナ下で大手が相次いで店舗網を縮小する中、同社は「初めは都市部に比べて地方は客数や売り上げの落ち幅が小さく、大きな赤字が出るほど業績が落ちなかった」ため、ディベロッパーからの出店依頼に対応。全体に出店を控えるムードはあったが、「コロナ下で現金収入が減り、中小零細企業なので、ある程度の出店はしないと回らなくなる。余裕はなくギリギリの選択肢だが、出店は続けた」。
シングスリーが好調なため、器や食品、バッグなど幅広い品揃えの中でも特に人気のアクセサリーを主体に、コロナ前から準備を進めて20年3月に都内に開設した新業態が「マトエル」。「空気のように自然にまとえる」がコンセプトで、アレルギーに配慮したアクセサリーを探す人が多いため、全てアレルギーに配慮した上質なアクセサリーと帽子やストール、食器、食品を揃えて20年春に出店を開始。同年秋に名古屋パルコ、21年春にアトレ吉祥寺、ながの東急、今年2月にルクア大阪と、試験店舗の契約期間終了後の現在、4店を運営する。
物作りにこだわりのある作家物を中心にアクセサリーが4割、服飾雑貨と生活雑貨が各3割の品揃え。店内は手作りの木製什器、木の枝や小石、古い洋書など、スタッフの気に入った物で構成。温かく落ち着いた雰囲気や個性的で語れる商品にひかれ、足を止める客が多い。客単価は4000~6000円。ピアスと指輪、自分用とギフト用などセット買いが目立ち、男性客が2割を占め、お揃いの指輪を買うカップル客も多い。
コロナ下で、付き合いのないディベロッパーからも相談が来るなど、やや出店要請が増加。館全体の集客力を高めるために、服より圧倒的に客数が取れる雑貨業態の依頼が増え、「半年だけ試してみる?」と打診され、新たに雑貨に絞った自社仕入れの業態「コレオ」を開発した。
「あなたのいつもに息を吹き込む」をテーマに、コロナ下で売り上げが伸びた食器や食品、アロマやスキンケア系化粧品など、毎日の生活に寄り添った雑貨中心に幅広い商品で構成。20年秋、都内のシングスリーの出店先で同じフロアに実験店を開設した。6人の女性バイヤーが見た目が可愛らしく、こだわりがあって高品質、量も価格も買いやすい商品を探し、100社以上の取引先から1万品目以上を仕入れる。家でカフェ気分を味わえるグラスや皿、コーヒーや紅茶と菓子を一緒に陳列したり、様々な分野の商品が混在。宝探しのような楽しさがある。実験店の契約満了後、昨年秋に浦和パルコ、今年2月にルクアイーレに出店した。
同社は立地や客層、広さや周辺の店舗構成に合わせた店作りが得意。店舗では全販売員で担当を分担し、店頭の動きや客の声を参考に毎月、仕入れたい物を出し合って共有する会議を開き、バイイングに反映して今のニーズと流行に対応した提案を行って好評だ。コロナ前まで増収基調だった業績は、コロナ禍で営業を制限されて客数が減った20年以降も、前年並みの売り上げを維持し、利益を確保して堅調だ。
今後も、生き残るために最低限必要な年に1、2店以上の出店を続ける計画。コロナ禍では都市部のダメージが大きかったため、地方にも分散させて出店する方針に変更し、名古屋、大阪、沖縄と店舗網を拡大中。声がかかったら慎重に検討し「無理のない範囲で出店を続け、ニーズに合った商品や業態を提案し、成長していきたい」考えだ。
(繊研新聞本紙22年6月30日付)