ソーシャルでいこう♪

2016/08/26 16:59 更新


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 日本のファッションビジネス業界でも、サステイナビリティー(持続可能性)やソーシャルという言葉が一般的になってきた。大量生産・大量消費を前提にしたコスト優先の物作りの限界が指摘され、物質的な満足や価格の安さではなく、物の背景にあるストーリーや、誰かとつながっていること、何かの役に立つといった、心の満足を求める消費者が増えている。地球環境やそこに住む人々・動物に過度な負荷をかけない、格差社会の解決など、関わる多くの人が幸せになる社会を求める動きも強まってきた。ファッションを切り口に、自分なりの解決策を示しながら未来を切り開こうと、身の回りのことから等身大で活動している人やブランドを紹介する。

 

【1】雇用を創出 福祉作業所で作る釣り関連グッズ「カレント」
【2】循環の仕組み 害獣の鹿を活用するメリケンヘッドクォーターズ
【3】動物愛護と服 カスタムオーダーで服を作る「クチューム・バイ・ハー」
【4】フェアトレード ペルーのニット製品をフェアトレードで「マイテ」
【5】職人を育成 ベトナム・フエで作るアクセサリー「フーヒップ」
【6】エシカルに コーヒー豆の麻袋をバッグに「キッサコ」

 

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【1】雇用を創出

福祉作業所で作る釣り関連グッズ「カレント」

ブランドの成長が雇用を創出


 新たなフィッシングスタイルを提案する「カレント」は全ての商品に障害者の手が入る。福祉分野で働く、釣り好きの久田亮平代表がイラストレーターやデザイナーと組み、釣り関連のウェアやグッズを全国の福祉作業所と共に作り上げる。


全ての子供が笑顔に

 久田さんはNPO(非営利団体)法人サンフェイスグループの代表を務め、障害のある小中学生を対象にしたデイサービス、訪問授業、イベント企画などが本業。基本理念は「障害者も健常者も全ての子供が笑顔になれる」ことだ。

 カレントはブランドとして成長することで福祉作業所の雇用を創出し、持続させることが大きな役割だ。釣り業界以外の販路開拓を目指し、2年ほど前から東京のファッションの合同展にも出展している。商品にはシルクスクリーン印刷、木工、縫製、ステンドグラスなど福祉作業所それぞれの技術を活用する。例えば、ルアーに手織りの生地「さをり織り」を使ったり、縦糸に短いひもを1本ずつくくりつけて玄関マットの柄を織り上げたりする。そのほか、ストリート感あふれるグラフィックTシャツをはじめ、魚の皮を部分使いしたキャップ、米国のバスフィッシングブランドと協業したTシャツ、ヒノキの板をくり抜いたキーホルダーやオブジェなどを揃える。


手作業の温かさ

 「障害者が作る」ではなく、「手作業で丁寧に作る」ことを大切にし、大量生産の工業製品にはない温かみが特徴だ。カレントは商品開発力や生産背景を紹介することで、他のブランドと福祉作業所のつなぎ役にもなり得る。とくに「小ロットで長く付き合える新興ブランドとの取り組みが増えてほしい」。久保田代表は常に福祉作業所の明るい未来を願う。

 

1-カレント、グッズIMG_5580カレント、久田代表IMG_5590

【2】循環の仕組み

害獣の鹿を活用するメリケンヘッドクォーターズ

衣・食を軸に循環の仕組み

 野生動物による農業や林業への被害は全国で社会問題化している。神戸で専門店を運営するメリケンヘッドクォーターズ(入舩郁也社長)は鹿にまつわる衣・食のプロジェクトを進め、害獣問題の解決に挑む。


ビジネスとして成立

 地元の兵庫県で頭数調整のため処分され、ほとんど廃棄される野生のニホンジカの副産物の有効活用を目指す。鹿の皮はもちろん、角、肉までまるごと再利用し循環させる仕組みを作り上げた。入舩社長は「ファッション業界にとっては重いテーマだが、単なるボランティアで終わらせたくない。社会や人の役に立つことが、ビジネスとして成立する」との信念がある。

 同社は神戸を拠点に「ハイカラブルバード」などの洋服屋を数店と鹿肉専門の「鹿鳴茶流・入舩」など飲食店も運営する。東京にもショップ兼オフィスを持ち、9年前からオリジナルブランド「ボガボガループライン」では野生で処分された鹿革を活用した日本製のカジュアルウェアを全国に卸販売している。鹿革でいきなりバッグや靴を作るのではなく、シャツのボタンやジーンズのパッチで使った。これらのパーツは姫路で白なめし加工した後、丸く型抜きする工程などは障害者が働く作業所で作られる。角もアクセサリーとして再利用している。


多分野のつなぎ役

 鹿を一頭丸ごと活用するプロジェクトは次のステップへ踏み出した。イタリアの合同展「ミペル」に出展し、エシカルなビジネスモデルが海外バイヤーに高く評価された。16~17年秋冬から野生の鹿革のバッグやポーチ、カフリンクス、靴を開発した。狩猟用の薬莢(やっきょう)を部分使いした指輪やネックレスなども作った。食の分野でも幅広い層に味わってもらうため、「タンシチュー」「ハツしぐれ」など鹿の希少部位の加工食品も販売する予定。「鹿の肉を食べる、革を着る・身に付けるの両軸で事業を発展させることで適正な循環が可能になる」(入舩社長)と見ている。

 害獣問題を解決するには様々な分野で多くの人手が必要だ。猟友会は高齢化で駆除が追いつかない。革をなめす業界も後継者不足に悩む。入舩社長は6月、野生鹿の有効活用が目的の「兵庫県ニホンジカ推進ネットワーク」の会長に就任した。「幅広い分野で問題意識を共有し、一歩ずつ課題解決を進めていくためにファッションがつなぎ役になれる」と強調する。

秋冬から鹿革のコンフォートなシューズや加工食品も提案
秋冬から鹿革のコンフォートなシューズや加工食品も提案
「鹿を丸ごと活用することで害獣問題解決の一助に」と入舩社長
「鹿を丸ごと活用することで害獣問題解決の一助に」と入舩社長

【3】動物愛護と服

カスタムオーダーで服を作る「クチューム・バイ・ハー」

動物愛護と愛着のわく服作り


 エシカル(倫理的)な服作りを始めたのは、「偶然フェイスブックに流れてきた、動物虐待について書かれた記事がきっかけ」と話すデザイナーの海澤雅人さん。動物愛護のボランティア活動を始め、ファッションに使われる素材も動物の犠牲によって手に入るものがあると意識するようになった。また、シーズンごとに新作を出し、次のシーズンには在庫になってしまうファッション業界の仕組みは、「持続できるビジネスモデルではない」と疑問を持った。15年春夏、動物や人権、地球環境に配慮したレディスのカスタムオーダーブランド「クチューム・バイ・ハー」をスタートした。

 

業界の仕組みに疑問

 クチューム・バイ・ハーは、欲しい時に欲しい物が手に入る受注生産と、アニマルフレンドリーに特に配慮している。素材はリアルファーやレザー、ウール、シルクなどは使わない。「大量生産を前提としたウールは、羊毛が多く取れるように表面積を大きく品種改良されている。自然に抜け落ちる毛も抜け落ちず、人の手がなくては生きられない。必要以上の毛が生えるために暑さで衰弱してしまうこともある。ミュールシング(ウジの発生を防ぐために臀部(でんぶ)周りの皮膚や肉を無麻酔で切り取る)の問題もある」と話す。シルクも蚕を殺して糸を取る素材という点に問題があると指摘する。

 販売は自社サイトを通じたECがメイン。アイテムを決めて生地を選べば、約2週間で完成する。生地は要望に応じてサンプルを送付する。カスタムオーダーは無駄なものを作らないというエシカルな意味もあるが、生地を選ぶプロセスが入ることで、「自分のセンスで服が作れる楽しさ」も味わえる。服作りに自分も加わって服に愛着がわき、使い捨てされることも少ない。生地はオーガニックコットンや「テンセル」のほかポリエステルなども使う。


テイスト広げたい

 合繊も使うのは、「エシカルファッションというとナチュラルなテイストになりがちだが、それだけでは広がらない。エシカルブランドがやっていないテイストをやりたい」から。売り上げの一部はブランドが支援する団体に寄付している。今年の大型連休に単独で受注会を開き、5月はそごう横浜店でのエシカルファッションの期間限定店にも出店した。売り手と買い手が直接コミュニケーションできる受注会は、今後も定期的に開きたい考えだ。

生地選びに参加する楽しさも得られる
生地選びに参加する楽しさも得られる
デザイナーの海澤さん
デザイナーの海澤さん

【4】フェアトレード

ペルーのニット製品をフェアトレードで「マイテ」

アルパカの魅力を伝えたい


 ペルーで作るニット製品「マイテ」を企画・販売するピッカジャパンの吉田彩子さん。学生時代から開発や国際協力、フェアトレードなどに興味があった吉田さんは、ゼミの先生とのつながりからペルーの女性に編物を教える日本女性、鏑木玲子さんの存在を知った。鏑木さんは首都リマの中でも治安が悪いカラバイヨで、女性が収入を得るために活動している。


量産の仕組み知る

 吉田さんは卒業後、アパレルのOEM(相手先ブランドによる生産)企業に就職した。「物作りの背景を知りたい」との考えからだ。海外の工場の環境は、全てが悪いわけではなく、「量産が全てダメだとは思わなかった」という気づきもあった。ただ、治安の悪い場所で活動を続ける鏑木さんのことや、丈夫で暖かなアルパカの魅力を多くの人に伝えたい、もっと個性のある物に携わりたいと、ペルーのアルパカの事業を始めた。

 マイテというブランド名は、スペイン・バスク地方の言葉で「愛」を意味する女の子の名前からとったもの。マフラーをどう売ろうか考えていた吉田さんがマイテという響きを耳にしたとき、「巻いて」につながったこと、手編みという意味の「マイ・手」にもかけて名付けた。

 主力商品はカーディガンやセーター、マフラー、帽子、レッグウォーマーなど日常的に使える製品が中心。鏑木さんのグループも含めて三つの団体に生産を依頼している。ペルーの生産者は定期的に日本からのオーダーが入ることで、「文房具が買えない、水や電気がないという以前と比べると、安定して収入が得られ、生活水準や衛生状態は向上している」。作る物へ対価が払われるため、もっと技術を高めようという気持ちにもつながっているという。


アクセサリー加える

 マイテはアルパカのニットという特性から、秋冬が販売の中心になる。そこで春夏物として昨年から米アクセサリー「ムフス」の扱いを始めた。米国在住のペルー人デザイナーが作るムフスは、廃棄されるヤシの種を使うカラフルなアクセサリー。ペルーやエクアドルの女性に働く場所を提供し、収入向上を目指して始まったという背景に共感した。マイテやムフスは期間限定店を中心に、セレクト店やウェブ店向けにも販売している。今後、アルパカやニットを切り口にワークショップも行えるような、「人が集う場所を作りたい」。

ペルーで編物を教える日本人女性をきっかけに現地で作るアルパカニットを日本で伝える仕事を始めたという吉田さん
ペルーで編物を教える日本人女性をきっかけに現地で作るアルパカニットを日本で伝える仕事を始めたという吉田さん

 

【5】職人を育成

ベトナム・フエで作るアクセサリー「フーヒップ」

職人として女性を育成

 ベトナムのフエで作る「フーヒップ」は、元船上生活者の居住地域で育った子供を支援するプロジェクトから生まれたアクセサリーブランド。デザイナーのSEIさんはじめ、日本人女性3人がチームを組んでいる。


かぎ針文化がベース

 子供を不当労働から守り、教育の機会を提供することから始まり、安定した仕事を得られるように、10代後半の女性に職業訓練を開始。かぎ針文化のあるベトナムの伝統的な技術を活用できるアクセサリーを作った。ブランドのスタートは12年春夏。3年前から会社組織としてフーヒップのプロジェクトを行っているが、教育支援や職業訓練の非営利活動「フエ・ハッピー・プロジェクト」も継続している。

 デザインには「手編みや手作りの部分を必ず入れる」(SEIさん)。メインのモチーフは、かぎ針で編んだニットリング、タッセル、クロシェボール。そうしたモチーフを使いながら職人がピアスやネックレス、ブレスレット、アンクレットなどを作り上げる。今年、日本の伝統技術の組みひもで新商品を発売した。今のところブレスレットのみだが、「色の組み合わせ方やひもの太さが変えられる組みひもは可能性を感じる」。これからアイテムを広げたいと話す。


若い女性の憧れに

 フーヒップは訓練を受けた職人全員が作れるわけではない。技術力に加え、「時間を守り、うそをつかないことを教えた私たちに必死にしがみついてきた職人」が選ばれる。フーヒップを作れるようになると、「若い女の子がこうなりたいと憧れるロールモデルとしての役割も果たすようになっている」という。

 次に続く職人を育成するため、見習いが作るシンプルなデザインのセカンドライン「シーズ・バイ・フーヒップ」も発売した。寄付金付きで2000円台や3000円台で販売するセカンドラインは、技術者にとっても買う側にとっても入門編としての役割を果たしている。

 「エシカル(倫理的な)やフェアトレードとは打ち出さなくても選ばれるブランド」を目指し、そうしたキーワードを今は前面に押し出していない。3年前、パリの展示会に出展した時もエシカルとは出さなかったが、欧州のバイヤーから受注があった。日本でも、エシカルファッションの期間限定店やフェアトレード店などの販路もある。

手作りの要素を必ず入れて作る
手作りの要素を必ず入れて作る
「職人の成長が目に見え、生活の質の向上にもつながることが分かるのが楽しい」と話すSEIさん
「職人の成長が目に見え、生活の質の向上にもつながることが分かるのが楽しい」と話すSEIさん

【6】エシカルに

コーヒー豆の麻袋をバッグに「キッサコ」

人とのつながりを生む

 コーヒー豆の運搬に使う麻袋で作るバッグ「キッサコ」。麻袋のリサイクル、福祉作業所との協業、売り上げの一部がベトナムの農家支援に充てられるなどエシカル(倫理的な)な要素がありつつも、デザイナーの岡本由梨さんの「自分が好きなもの、良いと思うものを作りたい」思いがこもったブランドだ。

 高校卒業後、芸人の修業や音楽活動をし、お金をためてはアジアを旅した。バッグとの関わりは出版社の編集アシスタントとして働きながら、「手に職を付けよう」と専門学校へ通ったこと。バッグのOEM(相手先ブランドによる生産)企業で企画や生産に携わった。


もったいない

 父親の仕事の関係で訪れたコーヒー豆の焙煎(ばいせん)工場で、廃棄される大量の麻袋を目にした。世界中から集まる袋は、農園名や国名、生産年などの文字や絵が入り、アート性も高い。「ゴミにするのはもったいない」と加工場に持ち込んだ。表にPVCコーティングし、裏に綿ツイルを圧着させると、防水性や強度のある素材に仕上がった。「リサイクルだからといって、すぐに壊れるものは作りたくない」。持ち手は伊レザーだ。作った商品をイベントで販売したところ、百貨店バイヤーから扱いたいという話があった。

 エシカルへの興味・関心の高まり、コーヒーブームなど、時代のキーワードとマッチしたこともある。全く同じものは一つもなく、「自分だけ」という満足感も得られる。住んでいた国の袋、訪れたことがある農園の袋、結婚式を挙げた場所のその年の袋など、思い出と共に買ってくれる人も多い。「偶然隣に座った人同士がキッサコを持っていて話が弾んだり、海外で話しかけられたという人も」など、人と人がつながるツールの役割も果たしている。


持つだけで話題に

 バッグが農園に里帰りする企画も実施し、「日本の技術でこんなすてきな物になって帰ってきた」と喜ばれている。福祉作業所で作る「さをり織り」の生地を麻の生地に縫い付けたバッグも作り始めた。「社会活動というよりは、自分がすてきと思ったものを使いたいし、それが広がればもっとうれしい」と岡本さんは話す。

 新ブランド「コイ」の製作も始めた。おにぎり用のポーチ、一升瓶を運ぶためのバッグなどのユニークなアイテムが揃う。持つだけで話題になって人との交わりを生み、生活をより楽しくしたいというコンセプトは、キッサコとも通じる。

「バッグとの出会いは一期一会」。同じものがないことも価値のひとつ
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デザイナーの岡本さん
デザイナーの岡本さん

(大竹清臣、壁田知佳子)=おわり

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