SHIBUYA109ラボでは、若者をより深く理解するため、同じ興味関心を持つ人たちを中心に形成されるゆるい集団である「界隈(かいわい)」ごとの定性調査を強化しています。細分化・多様化を極めている消費動向を見ると、従来の調査手法に加え、新たな視点からのアプローチの必要性を強く感じます。
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そっと共感しあう
最近実施した調査で特に興味深く感じたのが「日記界隈」です。日記界隈とは、手書きの日記を撮影しSNSに投稿して楽しむ層です。自分の思いやありふれた日々の出来事を記録し共有する界隈に、静かに熱量が蓄積されてきています。
日記を書くことで、自分に向き合いたいという普遍的な意識が根底にあります。一方で、それらの記録をSNSで誰かと共有したり、他人の日記を眺めたりするという、新しい形のコミュニケーションも存在しています。
投稿される日記ではダイゴーのノート「夜とカフェオレと日記帳」が人気で、界隈内での共通アイテムとして「界隈内消費」がされています。内容は、「スーパーでレタスが500円だった」や学校でのちょっとした出来事といった、ごく日常的なものが中心です。

日記界隈を楽しむ若者を対象としたインタビューでは、「自分に向き合って生まれた考え方を共有することで、救われる人がいたら嬉しい」「同じ価値観を持つ人の言葉を探したい」といった声が聞かれました。ただし、いわゆる〝バズりたい〟という意識は薄く、不特定多数とのつながりを求めるのではなく、共感できる人とだけつながっていたいという姿勢が特徴です。
さらに印象的だったのは、投稿へのコメントなどをきっかけに積極的なコミュニケーションが生まれることを望んでいるわけではないという点です。投稿する側も閲覧する側も、あくまで一方通行のやりとりに満足し、言葉を交わさずともそっと共感しあえる場となっています。
自己表現の中に理想像
一方、日常を共有するという意味で似た構造を持ちながらも、トーンが全く異なるのが「ぽこぽこ界隈」です。こちらは「ぽこぽこ」という効果音やBGMに乗せて、おしゃれで丁寧な暮らしを映し出すショート動画を投稿する界隈です。
理想的な夜のルーチンやこだわりのライフスタイルなどにフォーカスを当てた動画が多いため、最新コスメやハイブランドのアイテムなどもよく登場し、やや〝ぜいたくな日常〟を共有しています。
「日常の共有」という共通項を持つ両者ですが、そこには明確な違いも存在します。例えば、日記界隈では〝等身大の実生活〟を淡々と共有する一方で、ぽこぽこ界隈では〝丁寧に暮らす〟という意識が前面にあり、自己表現の中に理想像が含まれています。
また、自己を労わる〝ご自愛〟のあり方にも違いが見られます。日記界隈は、実生活を振り返ることで内省し自分を労わる「洗浄系のご自愛」が中心なのに対して、ぽこぽこ界隈は、自分磨きや生活の質を高めることで自分を労わる、「向上心のあるご自愛」が表れています。
日常をSNSで共有するといった点では共通していますが、そこに込められた価値観は界隈によって絶妙に異なり、消費傾向も変わります。こうした違いを丁寧に読み解くことが、今後はより一層若者と向き合う上で大切な手がかりになると感じています。
