厚底ブーム(小笠原拓郎)

2018/07/25 13:10 更新


スニーカーが厚底に転じたのはいつからだろうか。その大きな転機になったのは、「ナイキ」のブレイキング2プロジェクトと言えるだろう。人類は42.195キロを2時間を切るタイムで走れるのかというプロジェクトだ。

このために開発されたスニーカーが、これまでのレーシングシューズの発想とは真逆の厚底シューズ。クッション性と推進力という相反する命題を解決するためにカーボンを挟み込むといった新技術を取り入れたものだ。

実はファッションにおいても時を同じくして厚底ブームである。「バレンシアガ」の厚底スニーカー(写真下)が爆発的にヒットしたことで、19年春夏は様々なブランドが厚底スニーカーを出している。


ショー会場を見ても、厚底スニーカーの来場者が一気に増えた。半年前のコレクションで最も見かけたスニーカーはおそらく「バンズ」。いわゆるレトロなlo-fiが魅力だった。

でも、デザイナーブランドの厚底スニーカーだって高スペックというわけではない。ただ見た目が分厚い。デザイナーブランド以外の厚底スニーカーだと、ナイキと「ホカオネオネ」がショー会場で目立つ。

かく言う私も実は2月にニューヨークでホカオネオネの厚底スニーカーを買っている。趣味のランニングのために買ったのだが、時代が厚底に振れていることを頭のどこかで感じていたのかもしれない。走るだけでなく、ショー会場に履いていっても違和感はなく、スナップさえされた。

そのバケットシートに沈み込むような履き心地は、これまでいろんなランニングシューズを履いてきた中で、初めての経験だった。私が買った「マッハ」というモデルは、厚底なのに軽い。気になるのは耐久性。半年で400キロ走ったけれど、わりとアウトソールの減りが早い。一般的にランニングシューズの耐久性は600〜700キロが目安とされている。そこまで持つのかがちょっと心配だ。

一方、ナイキは厚底をきっかけに矢継ぎ早に新モデルを出してくる。しかも、新しいモデルが店頭に出ると、あっという間に売り切れる。在庫を積み過ぎず売り切ることで、ユーザの飢餓感を煽るといった手法。このホカオネオネの予備にナイキでも買おうかと、東京、パリ、バルセロナ、ミラノで探したけれど、欲しい色は全て完売といった状況だった。

趣味のランニングのこともそうだけど、ファッションを考えた上で次のシューズに何を選ぶのかーー意外と悩みは深い。なぜなら1ヶ月に及ぶ出張で何足の靴を持って行くのかは重要な選択だからだ。せいぜい4足。そこにランニングと通常のコーディネートの両方に使えるシューズがあるとすれば、それは大いに助かる。

さあ、秋のコレクション取材に向けて、どんなシューズが出てきてくれるのか。期待が膨らむ。


おがさわら・たくろう 20年近く国内外のデザイナーコレクションを取材してきた記者が、独自の視点でクリエーションを品定め。たまに得意の料理も披露します



この記事に関連する記事