値入率と粗利率の差が与える影響(佐藤正臣)

2017/02/16 00:00 更新


佐藤せんせの算数で極めるMDへの道⑭


 大手セレクトショップでMD(マーチャンダイザー)を務めていたマサ佐藤。バリバリと仕事をしていたマサだがその実、30代後半になるまで数値管理にはまったく疎(うと)く、本格的に始めたのは大手チェーン店に契約社員として入社した38歳になってからという。

 そこで鍛えられてフリーランスになったマサは、夜ごと、ホームである三軒茶屋界わいで、悩めるバイヤーやMDに講義を行っている。自称・三茶大学の先生であるマサ佐藤の20余回にわたる講義を覗いてみた。 

 ■前回のレポートはこちら→仕入予算の設定ってどうするの?3

Dさん。本来はここで、消化率100%(期間売上原価÷期間仕入原価)で仕入予算を組んで、仮に多くの商品が仕入出来るとしても、実際商品は余ってしまう。ではその残るであろう商品のことをどう考えたらいいの?っていう話をしようと思ってたんですが、今回は前回の話の復習的な内容にします。


 へい。”値入率と粗利益率の差がブランド・ショップコンセプトに密接に関係する”という話でしたね。
 

そうです。この値入率と粗利益率の設定の差が、ある意味、運営上のブランドコンセプトそのものを表していると言えますね。


 というと?


例えば、値入率と粗利益率の差を大きく設定している場合。あらかじめ、多くの値引き・セールすることを事前に想定していると言えますね。


 そのことのメリットは何ですか?


 例えば、値入率の設定が80%(原価率20%)で粗利率の設定が55%でだった場合。年間売上を1億円だとすると、4,500万円の売上原価が発生。それに伴う仕入原価も4,500万円だったとしたら、仕入元売価換算すると、4,500万円÷20%=2億2,500万円の元売価分を仕入れたということになります。


 へい。


 仮に、商品の出来が素晴らしく、トレンドもばっちり掴んで、セールしないで全部売れたら、売上は2億2,500万円。年間のOFF率が10%だとしても、2億250万円売れることになるんです。まあ。そんなことは現実では不可能でしょうけど・・・。


 そうですね~。現実不可能そうですね。ただ、商品点数を多く仕入れられるだけに、売価売変コントロールがうまくいけばかなりの売上が見込めそうですね。


 そういことになりますね(苦笑)。仮にこのブランドの平均元売価が1万円だとすると、2万2,500点仕入点数が発生します。仮に1億円セールしないで売れれば、必要な仕入点数は1万点。1万2,500枚も多く仕入してることになりますね。そういった意味ではスケールメリットも出しやすいとも言えますが・・・


 ではデメリットは?
 

そうですね。上記の例は敢えて極端な例ですが、実際、OFF率想定が年間55.5%ほどになります。お客様でセール好きな人は多いでしょうから、ある意味メリットかもしれませんが、さすがにそれだけOFFできるということは、ブランド・ショップイメージを損ないかねません。


 そうですよね~。最近、そんなブランド・ショップよく見かけます(笑)。
 

結果的に多くの商品点数を仕入れてるわけですから、もし想定通り1億円の売上が見込めないと更に悲惨なことになりますし、多くの商品点数を仕入れている分、在庫が残りやすいとも言えます。そうなると更にセール・・・という悪循環・・・。


 おー、こわ。
 

だからこそ。前回の講義でも行ったように、値入率と粗利率の設定で差が大きすぎて、自分たちのブランド・ショップに悪影響を与えるようなら、より粗利率の設定を上げることが、まず重要です。だからこそ、慎重に値入率と粗利率の設定をしなければなりません。


 本当そうですね。では値入率と粗利率の設定が小さい場合は?


 もうおわかりでしょうが、仕入可能商品点数が少なく、セール施策があまりできないということですね。このことは、仮に商品が売れない場合はデメリットになります。売上・粗利高目標を達成することが難しくなりますから・・・。


 といいますと?


 例えば、売上目標が1億円で、値入率の設定が60%(原価率40%)で粗利率の設定が55%だとすると、差は5%。売上原価は4,500万円。それに伴う仕入原価も4,500万円だとすると、仕入元売価は4,500万円÷40%=1億1,250万円になります。想定OFF率はほぼ10%です。商品が売れず、OFF率が結果的に20%になった場合。売上は9,000万円です。


 そうなると、売上目標に達しませんね~。


 そうですね~。売上だけでなく、OFF率も想定よりあがってますから、粗利率も下がり(粗利率50%。粗利益高4,500万になる。)粗利高目標5,500万円が達成できません。


 ではメリットは?


 上記2つの例でいうと。最初の例は売上1億円。粗利率55%の設定で原価率の設定が20%。後者の例でいうと、売上・粗利率の設定は同じで原価率40%になります。
 

へい。
 

この2例で商品原価が同じ2,000円だとする。最初の例は元売価1万円になります。しかし、後者の例では元売価5,000円になるわけです。ということは?どちらがお客様にとってメリットがあるかということになります。当然後者ですね。そうなると、お客様にとってこのブランドの商品は「価格以上の価値がある」という評価が得やすくなる可能性が高まります。


 なるほど。双方にメリット・デメリット両方があるわけですね。


 そうなんです。この値入率と粗利率の差を設定するということは、ブランドの運営上のコンセプトそのものと言えるんです。だからこそ、自分たちのブランド・ショップの背景・持ち駒・コンセプトや世間の環境変化等を考慮して慎重に行うことが重要なんです。


 理解しました。このことはものすごく大事なことなんですね。


 ただこのことにも、少しまだ気になることがあるんです(悩)
 

それは何ですか?


 それはまた次回のお楽しみに!!



95年(株)ノーリーズにアルバイトとして物流倉庫からスタートし、店頭勤務7年(レディース)。
02年より(株)ノーリーズにおいてメンズ(フレディ&グロスター・ノーリーズメンズ)立上をMDとして担当。
10年よりフリーランスとして活動開始。
シャツメーカーの新ブランド開発の企画サポート。
その他、新規ブランドの立上マーチャンダイジング計画など、
様々なフィールドで活躍したのち、14年5月末、株式会社エムズ商品計画を設立。
小売り企業へのMDアドバイスや専門学校での講義・また海外での講義等。
現在、多方面で活躍中
www.msmd.jp



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