今年秋、全国の繊維産地で工場見学などの産地フェスが相次いだ。担い手は30~40代の次世代や後継ぎが中心。どの産地も廃業、撤退、高齢化、人手不足などの厳しい環境の中、産地内で連携し活性化を目指す新しい局面を迎えている。
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在り方が変わった
フェスに参加した繊維企業に動機を聞くと、「今まで横のつながりがなかったため」「産地内の交流がなかったため」との声を多く聞いた。「産地内でも顔を知らない企業が多かった」という。同じ産地内でも、個々の企業は独立してビジネスを営んでいる。
産地は戦後の旺盛な需要に応えるため、紡績、撚糸、織布、染色加工など工程ごとに細分化し、分業による生産効率化で発展してきた。大規模な生産ロットが必要な染色整理加工と、数量をまとめる複数の織布企業が集積、産地が成立していった。
生地の生産効率のために集積しており、同業者はライバルとなる。
独自のノウハウやレシピを知られないように、どうしても「縦割り」「閉鎖的」にならざるをえなかった。「本当のことを言わないのが商売だった。工場を見せるなんてもってのほか」と、テキスタイルメーカーの経営者は話す。
「国内の繊維産業が盛んだった頃はそれで成り立っていた」とも振り返る。ただ、今はかつてのような旺盛な需要は無く、産地全体で一定の生産規模を維持するために協力しなくてはならなくなってきた。賃加工だけしていればいいという時代でもなく、自販や製品事業に取り組む企業も増えてきた。
過去にも産地のグループや物販などのイベントはあったものの、BtoC(企業対消費者取引)の重要性は現在の方が格段に大きい。
「人もビジネスも在り方が変わった。一緒にできることがあるのではないかと思った」と産地フェスの発起人は話す。今後は「産地内で連携し、より筋肉質な体制にしなければ生き残れない」と染色加工業の実行委員は強調する。
課題を共に解決する
〝ご法度〟とされてきた工場の公開は、実施して良かったのか。「一度見たくらいではノウハウは盗まれないとわかった」のが答えだった。それだけでなく、産地の課題を見つけるきっかけにもなった。「まだ勤怠管理が手作業」「ここはデジタル化できる」など、同業者だからこその発見があったという。
工場見学は普段表に出ない物作りの現場を消費者に知ってもらうだけでなく、産地のDX(デジタルトランスフォーメーション)やサステイナブル対応など課題を共有し、解決していく動きに広がった。
今年の全国的な動きを象徴しているのは、「ひつじサミット尾州」の今年のテーマ、〝ひらく〟だ。事前交流会で連携を深め、他産地からキーパーソンを招きトークイベントを開いた。デザインやアンケートの決定には消費者が関わっている。産地内から、産地外、地域、消費者まで、全方位に開かれた産地へと変化している。