パンの奥深い魅力を様々な形で表現したい─―パンセム(神戸市)が企画・生産・販売している「パンプシェード」は、廃棄される予定だったパンをライトにした商品だ。同社代表であり、パンを題材にしたアーティストとして活動する森田優希子さんが、時間をかけて商品化し、国内外で愛用されている。引き続きパンを使った新作の開発に打ち込むとともに、今後は異業種との協業など「活動の幅も広げていきたい」と言う。
(小畔能貴)
毎日異なる表情
森田さんがパンの魅力に気付いたのは、美術系の大学に通っていた頃に、パン屋でアルバイトをしたのがきっかけだ。「毎日同じようでいて、実は少しずつ異なる表情を持つ」パンを見ていると、「不思議な生物のような面白みや深みを感じた」。そして、「パンという素材を作品にしてみたい」と思った。
パンを顕微鏡で見たり、うすくスライスするなど、様々なことを試みた。パンの中身をくり抜いていた時に、たまたま西日が差し込み、パンが光った時にひらめいたのがパンをライトにしたパンプシェードだ。在学中に素案を完成させ、プロトタイプの制作もした。
大学卒業後は寝具メーカーに就職。企画・開発で活躍する一方で、パンの作品制作も趣味として継続していた。大学時代の素案をもとに、様々な試行錯誤を重ねながらブラッシュアップを続けた。約6年をかけ、パンプシェードの完成度を追求。「最初はこれでビジネスは考えていなかった」が、作品を求める人も増え、16年に起業した。
パンプシェードは、本物のパンをくりぬき、中に専用のLED照明を組み合わせたインテリアライト。樹脂の一種をパンにコーティングすることで、長く安心して使用できるように仕上げている。クロワッサン、トースト、バゲットという風に多彩な種類のパンをライトにしている。小売価格は税込み6160円から。
使用するパンは、基本的にパン屋で売れ残ったものを使用。「パン屋でアルバイトしていた頃、パンのロスも気になっていた」と言う。複数のベーカリーと協力し、廃棄予定の余ったものを、「互いにウィンウィンの関係でいたい」と、小売価格で買い取っている。ライトを作るために手作業でくり抜いたパンの中身は、オリジナルのラスクにして販売もしている。
新作や協業も強化
販売先には、生活雑貨やギフトを扱うライフスタイルショップをはじめ、セレクトショップもある。「有難いことに、こちらから営業をかけなくても卸先が増えていった」。「材料が本物のパンであること。一つひとつ違う出来栄えで、温かみもある点に魅力を感じてもらえている」と振り返る。
18年からは「メゾン・エ・オブジェ」などの海外展にも挑戦。海外でも評価され、欧米などから受注がある。現在は売り上げの6割以上が海外だ。「コロナ禍でしばらく海外出展できていないが、23年1月に再開したい」と考える。
今後の目標は、パンプシェードなどに続く新作を開発すること。「今はパンプシェードが中心だが、引き続きパンの新しい魅力を発見し、新しい形の作品を発信したい」と笑顔を見せる。従業員数は8人になったが、「これからさらに人手を増やし、生産能力を上げ、商品開発も強化したい」。
これまではパンプシェードを前面に活動していたが、22年からは自身の名前である「ユキコモリタ」も先行させるように変えた。パンにみせられ、様々なモノやコトを生み出し、パンを称えるクリエイティブレーベルだ。「異業種との協業を含め、これから活動の幅を広げていきたい」と話す。