【専門店、テーラー】オーダースーツ売るコツとは?㊦

2019/01/06 06:30 更新


 オーダースーツが人気だ。体にジャストフィットする着心地を求める客は大人だけではなく、最近では若年層にも広がりつつある。ブームを受け、ECでオーダースーツを売る小売業やメーカーも現れている。リアル店舗でオーダースーツを提供する小売店は何を強みに顧客の支持を得るのか。今回は、ビスポークを手掛けるテーラーと、パターンオーダーを受け付ける専門店にオーダーでスーツを売るときのコツや接客で心がけていることを聞いた。

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●服屋ならではの接客で付加価値を

ビームス六本木ヒルズ店ショップマネージャー 藤田桂介さん

「体形に合わせすぎると良いスーツは出来ない。体に吸い付く加減の見極めが難しい」と藤田さん(右)

 ビームスは、オリジナルの既製スーツのシルエットやディテールを毎シーズン、トレンド変化や客の要望を元に細かく修正を加えている。少しずつ進化させている分、「ウチのオリジナルはかなり完成度が高い」と藤田さん。店頭で受けるのはそのオリジナルをベースにしたパターンオーダーだ。「あくまで既製品が合わない体形のお客様におすすめするのが基本」と話す。

 パターンオーダーのメリットは体形補正が出来ることだ。前かがみだったり、やや後ろに反っていたりする姿勢のほか、なで肩、いかり肩もカバーできる。組下のパンツも「ふくらはぎの張っている人は、パンツのクリースがねじれることがあるが、そうした部分も調整できる」という。

 「体に吸い付くようにフィットする部分が多いほど可動域はむしろ増える」。体のかがみ具合や反りに合わせて補正するのは着心地を良くするためだ。ほかに生地を選ぶことやラペルやステッチ、ポケットの角度などのディテールはオプションで変えることも出来る。

 ただ、体形にぴったりと合わせすぎてしまうと、良いスーツに仕上がらない。「たとえば極端に細くしようとすると採寸データとベースのパターンが合わなくなる」。オーダーの接客をするとき、客の要望をすべて聞いたうえで、極端なサイズやシルエットの変更など、「出来ないことは事前にお伝えすることが重要」という。

生地も職種や用途を聞いたうえで最適なものを選ぶようにしているという

 利用客は「仕事着にこだわる30~40代が中心」。リピーターも多いが、こうした常連客に藤田さんは「あまり提案しない」という。サイズを確認しながら会話の中で着用シーンを聞き出し、それに合う生地を自然な流れですすめる。「オーダーと言っても既成スーツと接客はそれほど変わらない」

 「ビームスはテーラーではないし、スーツの量販店とも違う」。あくまで服屋として品揃えする商品の一つとしてオーダーを位置づけている。1着、10万円以上になることもある価格に見合う付加価値を感じてもらうには接客でどれだけ「服屋ならではのサービスを提供できるか」がカギを握る。

 「どんなVゾーンが好みかうかがい、それに合ったコーディネートを提案することや、お仕事やTPO、シーズントレンドや季節感に沿った生地を接客の中で紹介すること」をオーダーを受ける際、常に心がけているそうだ。


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●丁寧な会話でニーズと心つかむ

「オンリー」淀屋橋店店長 東良竜也さん

「オーダーの完成イメージを伝えるため、既製服を持ち出す場合もある」東良さん

 オーダー初心者の取り込みを狙ったシンプルな「ミニマルオーダー」と、サイズやデザインで客のこだわりが実現出来る「テーラーメイド」の2種類のパターンオーダーがあるほか、既製服も扱い「三つからスーツを選べるのが強み」という。

 東良さんは「オーダースーツは出来上がりイメージをお客様とすり合わせる共同作業が肝心」と話す。そのためには「聞き上手になることが欠かせない」という。「いろいろとお客様の情報を聞き出し、一緒に悩むぐらいの姿勢が安心感や信頼感を生み、それが理想のスーツ作りにつながる」

 オーダーでスーツを作りたいと来店する20代の客も最近は増えている。「かつては既製品が体に合わない人がオーダーすることが多かったが、今は既製品が着られるけど、オーダーにトライしたいというお客様も多い」。こうした状況はオーダースーツを提案する競合店が増えたことも理由だ。

 このため、東良さんは競合店のオーダーの仕組みを研究し、自店との違いを把握。接客で「自店の強みを明確に伝えられる」ようにしている。オーダースーツは、「具体的な仕上がりイメージがビジュアルで伝えられないこと」がデメリットだ。そんなときは同店がオーダー品と既製服で共通の型紙を使っている部分もあることを生かし、既製品を羽織ってもらうことで「オーダースーツの完成品イメージを出来るだけふくらませてもらうこともある」。

ゲージ服を着用しての採寸場面。「細かいヒアリングも生かし、ニーズに沿ったサイズ感を導き出す」

 接客では客の手持ちのスーツの数やテイスト、仕事内容や通勤スタイルなどを細かく聞き出す。「既製品を提案する場合よりもしっかり聞く」のがポイントだ。「通勤に自転車やリュックを使用する人には、あまりデリケートな生地は向かない」など、ニーズに沿った生地選びにつながる。

 初めての客には、緊張をほぐしてもらう意味も込めて、接客の際、会社の歴史や創業者のオーダースーツに対する思いなどを話す。「どこで買おうか迷っている人には、自店をアピールするだけでなく、あえて他店の良いところを話すこともある」

 包み隠さず話すことが「お客との距離感を縮め「いろいろと話しかけてもらえるきっかけになる」場合もあるからだ。接客中の会話の中で「こちらがお客様の気持ちに入り込める瞬間を見逃さず、心をつかむのがオーダースーツを売る場合は大切」という。 

(おわり/繊研新聞本紙10月29日付)


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