オーダースーツが人気だ。体にジャストフィットする着心地を求める客は大人だけではなく、最近では若年層にも広がりつつある。ブームを受け、ECでオーダースーツを売る小売業やメーカーも現れている。
リアル店舗でオーダースーツを提供する小売店は何を強みに顧客の支持を得るのか。今回は、ビスポークを手掛けるテーラーと、パターンオーダーを受け付ける専門店にオーダーでスーツを売るときのコツや接客で心がけていることを聞いた。
●ビスポークは信頼が第一
柴田音吉商店社長 柴田音吉さん
神戸の柴田音吉洋服店は創業135年の歴史(初代の起業からは150年)があり、元首相の伊藤博文氏の洋服を仕立てたこともある老舗ビスポークテーラー。2001年から店舗を2階に移し、接客や生地仕入れを担う柴田音吉商店の5代目社長と裁断・採寸を担当する稲沢治徳チーフカッターが常駐する完全予約制のオーダーサロンにした。
ビスポークは専門家が顧客の要望を聞き、一人ひとりの体形に合った型紙を作成し、仮縫いで修正を重ね、完成させる。縫製やプレスは職人によるハンドメイドが基本だ。初めて仕立てる客は、採寸や仮縫い時に緊張で体が硬直しがちなので、自然体でリラックスしてもらうことが大切という。
仮縫いでは、型紙補正やシルエットの修正を納得いくまで繰り返す。生地の種類や固さによって職人が縫い糸のテンションを変えられるのものフルオーダーならでは。
「高額なスーツを販売するにはモノの良さだけでなく、顧客との深い信頼関係が大事。だから売り手の人間的魅力が問われる」と柴田社長。客層は50~70代の経営者層を中心に医者や弁護士などが多い。接客ではあらゆる話題に対応できる教養が必要だ。ファッションはもちろん、政治、経済、芸能、スポーツまで、あらゆる情報を得るため、地元紙や雑誌、テレビなどのチェックを欠かさない。
ゴルフが趣味という客と一緒にラウンドすることもある。この結果、クールビズが定着した夏場でも、「スキャバル」のスーツ(55万円)で10着以上注文を受けることもある。平均単価はこのところ上がっており、38万円(以前は33万円)となっている。
常連客などは柴田社長に全てお任せの場合も多い。仕事からプライベートの話まで聞きつつ、ニーズに合うスーツを提案する。基本的なスタイリングとしてまずすすめるのはチャコールグレーのスリーピース。「海外ではチャコールグレーがフォーマルでグローバルスタンダード。コートは黒のカシミヤ、タキシードはミッドナイトブルーがワードローブにあるべき」という。フルオーダーはどんな補正も可能だが、シルエットや着心地に影響が出るような補正は「ダメ」とはっきり断るという。
テーラーは「プロとしてアドバイスはするが、あくまでも顧客を引き立てるための脇役。自店の主張や個性を押し付けてはいけない」とも話す。
(繊研新聞本紙10月29日付)