【ニュース2020⑤】急拡大したマスク市場 国内縫製工場再評価の契機に

2020/12/31 06:30 更新


 マスクの市場規模はコロナ禍以前の10倍以上に急拡大したと言われる。それまで不織布が圧倒的だった市場に布マスクという新たなカテゴリーが確立したことは間違いない。現在、当たり前のように大手小売業の常設売り場でマスクが売られている。アパレルや雑貨業界からの参入が目立ったからだが、その中でも国内縫製工場の動向が象徴的だった。

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脱下請けへの一歩

 春先、商業施設が休業に追い込まれ、洋服を売る場を失った。それにより国内の縫製工場は従来の服作りができず、操業の危機に陥っていた。こうしたなか、マスク不足を解消するために動き出したのが国内の縫製工場だった。

 「少しでも地域社会の役に立ちたい。恩返しがしたい」との思いから、マスク生産に着手。まず工場所在地の自治体や介護・保育関連施設などへの寄付から始めた。こうした活動によって、地元住民から感謝され、「工場の存在意義を再認識してもらえた」としている。

 コロナ禍が長引き、本業の服作りに戻れないなか、自社製のマスクを一般消費者へ販売する動きが広まった。工場は作るプロではあるが、売ることには慣れていないため試行錯誤した結果、困っている人たちへ届ける手段として、クラウドファンディングを活用するところが多かった。累計で数万枚を販売する工場も続々と現れた。

 厳しい状況下で売り上げを補完しただけでなく、「従業員のモチベーション向上などプラスの効果は大きかった」と振り返る経営者は多い。その後、自社ECサイトを構築するなどデジタル化によって作り手と消費者が直接つながる契機にもなった。これらのマスクの自社生産・販売をきっかけに、ニューノーマルの生活様式に対応した商品開発や脱下請けに向け一歩踏み出したファクトリーブランドでの販路開拓に挑む前向きな工場も出てきた。

ウィズコロナの必需品

 現在、マスクは「緊急事態宣言」下のような爆発的な売れ行きではないものの、コンスタントに売れているという。布マスクは洗って何度も使えるのでサステイナブル(持続可能な)の観点からも価値が高い。ウィズコロナにおける新たな生活様式には欠かせないアイテムとなっており、機能性だけでなく、ファッション性など多様なニーズへの対応が求められるようになっている。販路もドラッグストアだけでなく、ファッション関連の専門店をはじめ、あらゆる場に広がっている。

 今回のマスク生産は、必要なものをタイムリーに供給できる国内縫製工場の強みを発揮できる好機でもあった。また、教訓として、大きな災害や国際的な事件が起きた際、国民の生活必需品を自給できる産業基盤の重要性を浮き彫りにした。そのため、従来型の海外での大量生産など供給過剰な生産システムの終えんにもつながる大きな分岐点になりそうだ。

社会貢献にもつながった国内でのマスク生産

(繊研新聞本紙20年12月24日付)



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