《私のビジネス日記帳》飽和状態 ナカアキラ

2023/05/10 06:25 更新


 この業界にいると耳にするのが、「もう新しいデザインは出尽くした」とか、「もう新しいという概念自体を変えていかなくては」というような声だ。しかし、それは歴史の中で何か革命的なことが訪れる前に、常に起こってきた既存体制による飽和状態ともいえる。

 絵画においては写実主義が広まり、さらに写真の普及が始まった19世紀後半に突如として印象派は生まれた。それまで一部の貴族のポートレートやギリシャ神話、聖書をモチーフに描かれてきた絵画はカフェやキャバレーといった大衆の日常へとモチーフが変化した。

 また、完成画にはタブーとされた習作に見られる筆跡を残す描画のほか、単視点ではなく複数の視点から同じモチーフを描くなど(セザンヌの多視点描画などがのちにピカソたちのキュビズムへとつながる)、作家たちの個々の表現が絵画の主体になっていった。

 それまで〝現実の再現〟を目指した絵画は、画家たちの視点で〝新しく表現〟するものへと変化した。

 今、多くのブランドが企業に買収され商業化される中、プロモーションもショーも飽和状態な空気はある。しかし、それはきっと全く新しいファッションが生まれる革命前夜であり、デザイナーはこの大きな壁を完全に塗り替えるという使命を与えられている。

(「アキラナカ」クリエイティブディレクター)

「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。

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