ロンドンは今、西が旬?(若月美奈)

2018/06/05 14:30 更新


「デザインミュージアムに行ってきた」

「あのテムズ河沿いのね」

「違うの。ケンジントンに移転したの」

今だにこんな会話を何回もしている。日本から来た知人だけでなく、ロンドン在住のファッション関係の仕事をしている人たちとも、である。

*若月美奈さんの過去ブログはこちら

「今だに」と言うのは、もう移転してからかれこれ1年半以上経つのだ。かく言う私も、足を踏み入れたのはごく最近のこと。それも、2週間続けて。ロエベ・クラフト・プライズの展覧会および受賞者発表イベントとアズディン・アライアの展覧会オープニングである。


『LOEWE Craft Prise 2018』 6月17日まで。

『Azzedine Alaia: The Couturier』 10月7日まで。

デザインミュージアムは、ハビタやコンランショップの創始者であるテレンス・コンラン卿が89年に中心街から南東に離れたテムズ河南岸に創設。世界で初めての20世紀以降のデザインに特化した博物館として注目された。建築、プロダクト、グラフィック、ファッションなど、話題の展覧会を開催してきた。

近年では、13年に開催されたポール・スミスのHELLO, MY NAME IS PAUL SMITH展が記憶に新しい。それ以前にもフセイン・チャラヤンやクリスチャン・ルブタンなど、ファッション展も数多く行われている。

そう、ファッション系の展覧会があると必ず見に行くのだが、新館に移転してからはなかったのである。そして現在開催中の展覧会が2つともファッション関連(ロエベはクラフトで展示物はファッションとは違うが)ということで、私をはじめファッション関係者が来館しているというわけだ。

移転の理由は旧館が手狭になったから。10年前から様々な拡張計画が持ち上がり、最終的にこに落ち着いた。ハイストリートケンジントン駅から徒歩10分程度のこの建物には、コモンウェルス・インスティチュート(英連邦協会)があった。62年建造の20世紀モダニズムの象徴するようなデザインで、国の保存建築物にもなっている。

老朽化が進み、閉館してから10年以上放置されていたその建物を5年がかりで修復し、新デザインミュージアムがオープンしたのは16年11月24日。中央が巨大な吹き抜けになっているにもかかわらず、展示スペースは旧館の3倍。裏手にはホランドパークの緑が広がり、駅の周りの喧騒から離れたオーガニックなムードが心地よい。

デザインミュージアム。旧館にはほとんどなかった常設展示会場も充実。企画展以外の入館料は無料

このエリアはロンドン中心街の西。地下鉄のハイストリートケンジントン駅の隣はノッティングヒルゲート駅、さらにその西にはシェパーズブッシュ駅がある。このあたりの名称は80年代、90年代にロンドンを訪れた人たちには馴染みが深い。

80年代、ケンジントンには、あのケンジントンマーケットがあった。若手デザイナーから古着屋、ハードなレザーウエアなど小さな店がごちゃごちゃっと集まる屋内常設マーケット。常に新しい発見があり、ロンドンに出張するファッション関係者が必ず立ち寄った場所だ。川久保玲さんは、その今はなきエネルギッシュで危険な匂いを漂わせた美しいカオスをイメージして、ドーバーストリーマーケットを作った。

その向かいには、若手デザイナーを集めたファッションビル、ハイパー・ハイパーもあった。ハイパー・ハイパーは、ロンドン・コレクションで合同ショーも行い話題を呼んだ。

実は、84年にロンドン・コレクションがスタートした当時のメイン会場も、ケンジントンのオリンピア見本市会場で、そこにも近いコモンウェルス・インスティチュートの中庭に公式ショー会場ができたこともある。

90年代になると、ポートベローマーケットで知られるノッティングヒルゲートへとファッション関係者の巡礼場所が移る。マーケットからはストリートトレンドが発信され、注目のセレクトショップやビンテージショップが相次ぎオープンし、デザイナーたちのアトリエが集まっていた。

そうして、取材で、リサーチで、毎週のようにポートベロー界隈に通っていたのだが、次第に東ロンドンへ行く機会が増えたかと思っていると、2000年代に入った頃から、東ロンドンがファッションピープルが集まるおしゃれなエリアとして幅をきかせるようになっていた。

そうしてここ15年以上、西ロンドンは遠い存在になっていたのである。


ところがこの半年、何かと西に行く機会が多い。10年前にシェパーズブッシュのBBC(英国放送協会)跡地にできたショッピングセンター、ウエストフィールド・ロンドンは、開業以来ほとんど行くことがなかったのだが、昨年末、話題のデザイナー系ポップアップレンタルショップができて駆けつけた。

2月のロンドン・コレクションでは、そのショッピングセンターの裏手でバーバリーがショーを開催した。

4月には、やはりBBC跡地に、スタイリッシュな人々御用達の会員制クラブ、ソーホーハウスグループの新しいクラブ、ホワイト・シティー・ハウスがオープン。5月16日にはチャールズ皇太子による公式オープニングセレモニーが行われ、サステイナブルなモノづくりを行う若手デザイナーたちが作品展示を行って皇太子が視察するというイベントも開催された。

「ホワイト・シティー・ハウスのオープニングで新進デザイナーのベザニー・ウィリアムスと話すチャールズ皇太子。Photo: Darren Gerrish, British Fashion Council」

うーん、確実に風向きが変わっている。

ファッション界では今、何かと80年代リバイバルが話題。まさか、移転先を探しているというロンドン・コレクションのメイン会場も、再び西ロンドンに? 

お願いです。それは勘弁してください。遠過ぎます。不便過ぎます。

まあ、不便で時代に取り残された場所こそ、次なるファッション発信地になるのが常ではあるのだが・・・



あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員



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