ワールドインダストリーファブリック(岡山技術研究所) 国産比率向上を担う基幹工場

2022/12/12 06:27 更新


 ワールドの基幹工場、岡山技術研究所(岡山市)は、同社にとって最も古い工場だ。百貨店向けなど中高級ブランドの国内生産比率を最終的に9割にまで高める計画を持つ同社の主力工場でもある。アパレルが有する工場なだけに本社の企画やMDとの連携が不可欠で、今後さらに密なコミュニケーションを図り生産効率の一段の向上につなげる。20代、30代が半分近くを占めるなどスタッフは若く、縫製加工にとどまらないキャリアパスを用意しているのも特徴だ。

国産比率9割へ

 ワールドインダストリーファブリック(岡山市、河名一幸社長、以下WIF)が運営し、岡山の他に兵庫県淡路市にも工場(技術研究所)を構える。エスプリという名称で78年に設立、80年にワールドインダストリーファッション技術研究所に継がれ、10年には現在の社名に落ち着いた。社名にはニットから始まったワールドが手掛けるファブリック(布帛)商品の研究開発の意味を込めている。

河名社長

 ワールドグループの自社工場は、WIFの岡山、淡路に加え、シャツのフレンチブルー(鹿児島県)、ジャージ製品のセンワ(福島県)、染色のワールドインダストリー富山(富山県)、コレクションブランドなどを手掛けるラ・モード(熊本県)、成形編みニットのワールドインダストリーニット松本(長野県)、ホールガーメントの同ホールファクトリー(新潟県)など八つ(6社)。

 すべての工場が「Jクオリティー」の申請が承認されており、百貨店向けブランド(ミドルアッパー)のまずは半分を国内で賄うことを展望する同社の生産を支える。最終的には現在の40%から90%にまで高める方針で、岡山の工場は重要な役割を果たす。

中高級品を扱うだけに仕上げも丁寧に

 マザー工場である岡山の年間生産数量は23万7000枚(22年3月末現在)。ジャケットやコートを中心に、ワンピースやブラウス、パンツ、スカートを多品種、小ロットで製造する。従業員数は127人(22年4月1日現在)。ちなみに、淡路はそれぞれ、22万1000枚、110人だ。岡山の従業員は比較的若く、20代41人、30代11人、40代29人といった具合。昨年は関西など県外からの入社が増えた。

独自のノウハウ

 同社は、人材育成を目的に、国家資格である「婦人子供服製造技能士」の取得を縫製スタッフに奨励している。在籍している従業員のうち、21人が1級、20人が2級を取得。昨年も8人が受験し、7人が合格した。「若いスタッフは案外、取得へのモチベーションは高い」(河名社長)という。岡山工場は県の試験会場にもなっており、来年1月には岡山8人、淡路5人が受験する予定だ。

 多様なキャリアパスを用意しているのも同社ならでは。縫製加工で〝階段を上る〟道以外に、ブランド側と工場をつなぐ企画職や取引のある海外工場への技術提携の仕事、東京・青山本社勤務への道もある。「縫製工場では珍しいが、個々の適性を見ながらローテーションしていきたい」(同)。本人の異動意思があっても選択肢がなければ離職してしまう危険性があるためだ。

縫製工場には珍しい多様なキャリアパスも用意

 工場の設備はほぼほぼ最新のものに更新、品質安定に向けた独自の手法もそこかしこに潜む。生地の〝リラクシング〟と呼ぶ工程は一般のスポンジング(風合いを回復させ寸法変化を安定させる緩和処理)とは異なり、生地の表面を変化させずに元の状態に戻していく同工場のノウハウ。スチームを利用した機器を製造している直本工業(大阪市)との共同開発で、6通りの条件から生地の混率と目付けによって設定するもの。また、工程寸法変化試験のデータも裁断前のパターンに反映させているのも特徴だ。接着やプレスなどの工程による、時間ごとの生地変化などを知ることができる。

生地を〝リラックス〟させる独自の縮絨(しゅくじゅう)工程

 技術研究所という名の通り、ワールドが卸全盛の時はブランドと伴走して縫製やパターン等に関して密なコミュニケーションを取っていたという。8年近く続く「リフレクト」の匠ジャケットの開発など両者で長期にわたって取り組むものもあるが、国内生産への回帰の流れもあり、本社と工場とのさらに踏み込んだコミュニケーションが求められている。

 今月にも本社からMDメンバーが訪れ、工場側との情報交流や、実際の工場を視察し学ぶ機会を提供する。生産サイドは繁閑の差が少なく安定的に稼働するのが効率を高める第一歩。効率を高めたい工場と、デザインや素材を優先したい企画・MDとの間で合意点を探る取り組みだ。生産系のワールドプロダクションパートナーズと百貨店向けアパレルのフィールズインターナショナル、ワールドプラットフォームサービスの代表は、グループ常務執行役員の大峯伊索氏が務めることもあり、コミュニケーションが取りやすい環境は整ってきた。

 目下の悩みはスタッフの離職問題。物作りに関心があり県外から入社してくれても、若いスタッフの一人暮らしは楽ではなく、早期に離職するケースもある。社宅や住宅手当など新たな福利厚生メニューの導入も検討しているという。

《チェックポイント》ラインを2グループに編成

 多品種・小ロットが売りでもあるが、工場にとっては効率を高めにくく経営のかじ取りが難しい。素材が頻繁に変われば慣れるまではスピードも上がらない。工場経営にとっては「永遠のテーマ」で正解はないが、最近はロットの大きなものを効率良く生産するグループと、時間をかけるグループにライン編成を変え、効果も上がっているという。例えば、前者で言えばひとつの服にかかる人数を大幅に増やして担当工程を少なくし習熟のスピードを上げる、といった具合だ。

時間をかけるグループと効率を追求するグループのベストミックスを経営視点で探る

 今後ベテランが減少していくなか、品質安定には設備の更新や教育そのもののメニュー作りの考え方も変える必要がありそう。「色々な作業を覚えてもらって1人前になるのに10年かかるというのは間尺に合わない」(河名社長)からだ。6~7の工程を要点を押さえて身につけ、短期で回せるプログラムを作ろうとしている。

《記者メモ》本社との密な情報交換が鍵

 4月からワールドプラットフォームサービスの傘下になった。親会社は外販の拡大を標榜(ひょうぼう)するが、現在は90%以上がワールド向け。もっとも、同社は外部受託の拡大も中長期的には視野に入れており、将来の増員も展望する。雑貨やダウン商品など海外生産の方がメリットのあるものが1割ほどは残る計算だが、それ以外のミドルアッパー商品はすべて国内で賄うことも視野に入れており、マザー工場である岡山工場の果たす役割は大きい。

 離職含めた人不足は工場共通の悩みだが、同社も例外ではない。電気代などエネルギーコストや最低賃金の上昇などもあり、工場経営は楽ではないが、安定した商品供給とシビアな採算性の見極めという難事に挑戦する。生産能力を落とさないように、「効率化を突き詰めていきたい」(河名社長)。工場側には利益目標もある一方、グループへの貢献も求められかじ取りは簡単ではないが、本社ブランド側の企画やMDとの密なコミュニケーションが難局打開の鍵を握る。

(永松浩介)

(繊研新聞本紙22年11月2日付)

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