三越伊勢丹 BtoBで協業プロジェクト ビジネス力×デザイン力で社会課題と向き合う

2022/03/14 06:27 更新


 三越伊勢丹はBtoB(企業間取引)で日本デザインセンター(東京、原研哉社長)と協業した新たなプロジェクトを22年1月から始めた。三越伊勢丹のグループ基盤を生かしたビジネスソリューション力と日本デザインセンターのデザイン力を掛け合わせて新たなBtoBのプラットフォームを構築するのが狙い。企業が直面する本業を通じた社会課題の解決に向けて持続可能なビジネスソリューションを提供し、支援する。

(松浦治)

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BtoBを再構築

 三越伊勢丹と日本デザインセンターとの協業事業「グッドマインドプロジェクト」は両社の強みを生かして様々な企業の社会課題の解決を目指した試みとなる。三越伊勢丹は上場企業を中心とした1500の法人顧客のほかに、百貨店事業をはじめ、建装、物流、人材サービス、情報システム、旅行、金融などグループリソースのネットワークを持つ。日本デザインセンターはアートディレクター、ウェブデザイナー、プランナー、コピーライター、フォトグラファー、映像ディレクターなど多くのクリエイターが所属する。

グッドマインドプロジェクトのプラットフォーム

 今回の協業プロジェクトは、「より良い社会を作ろうという誠実な心=グッドマインドでつながる企業をパートナーとして迎えてブランド・新製品開発、流通支援のソリューションを提供する」(三越伊勢丹、日本デザインセンター)という。事業を通じてサステイナブル(持続可能な)ビジネスを目指す。その新たなBtoBビジネスを構築するのは、21年4月に法人事業部を改称して発足した三越伊勢丹ビジネスソリューション事業部。三越伊勢丹ののれん、グループリソースを生かした環境デザイン、DtoC(メーカー直販)、地方創生など様々なソリューションの提供に取り組む。

プレミアム宅配

 協業プロジェクトの第1弾となるのはギグワークス(東京)によるフードデリバリーサービス「QG(キュージィ)ディッシュ」だ。有名飲食店や五つ星ホテルを提携店とした宅配サービスで、これまでほとんどなかった高感度上質市場をターゲットにし、22年3月からサービスを提供する。コロナ禍で深刻なダメージを受けた飲食・ホテル業界の支援につなげる。

宅配時にメッセージカードを顧客に手渡す

 ギグワークスをパートナーとしたのは「ギグ・エコノミー(ネットを介して単発の仕事を請け負う働き方や、それによって形成される経済形態)による働き手を増やし、地位向上に取り組む」という考え方に共鳴したから。「単体では難しい事業構想やブランディング、運営までを三越伊勢丹と日本デザインセンターとの共創で事業化する」(加藤雅洋ビジネスソリューション事業部事業開発ユニットマネージャー)という全く新しい宅配サービスを構築する。提携店の契約、ブランディング、ウェブサイト、デリバリーEV(電気自動車)・ユニフォームのプロデュース、スタッフの教育などを共に作り上げていく。

QGディッシュのウェブデザインを共創

 単なる発注者と受注者の関係性ではなく、3社が「デリバリーを通じて顧客の暮らし方、社会の役割など共有しながら、イチからスタートし、運命共同体の関係性ができた」(矢内里日本デザインセンタークリエイティブディレクター)という。それを支えるのがビジネススキームとなる。パートナー企業との契約は売り上げを、あらかじめ決めておいた配分率で分け合うレベニューシェアや利益を配分率で分け合うプロフィットシェアを採用する。発注者と受注者という従来の関係とは異なるフラットな協業を促す。イニシャルコストが抑えられてリスクが分散し、「デザインに投資することが出来る」(矢内ディレクター)という双方の利点を生かす。

グッドマインドプロジェクトのプラットフォームとビジネススキーム

グループ連携

 今後のグッドマインドプロジェクトでは幅広い分野の企業と協業していく。防災品メーカーとの日常生活にもっと浸透する防災グッズの開発、住宅のリノベーションや廃材のアップサイクルと連動したライフスタイル提案、フードロス対策や生産者とつながる取り組みなど。一つひとつの社会課題にビジネスとデザインの力を生かす。

三越伊勢丹と日本デザインセンター、ギグワークス3社のミーティング

  三越伊勢丹グループがBtoB事業を再編、強化するのは、従来の百貨店偏重の収益モデルを転換し、新たな収益源を見いだすため。〝連邦戦略〟によるグループ内リソースの外販は、不動産、金融とともに中期改革の骨子の一つとなる。グループが持つあらゆる事業を百貨店再生に向けた顧客とのつながりに生かすだけでなく、BtoBの外販や仕組みのアライアンスなどインフラ機能でも収益を得るビジネスモデルの確立を目指す。

 これまでの百貨店の法人外商は、顧客企業の用度品の調達や制服、ノベルティーなどルートセールスが中心だった。発注企業の調達の多様化や内製化に加え、コロナ下で売り上げ減が続いている。三越伊勢丹もこれまで、グループの様々な事業を通じたリソースを生かしきれなかった。様々な業種のソリューションビジネス会社を持つ強みを生かし、顧客の困りごとを解決し、関心事に対してグループ間で連携した新たなイノベーションの創出を目指す。

■日本デザインセンター

1959年創業のデザイン制作会社。日本のデザインの発展と質的水準の向上を図る組織として、亀倉雄策、原弘、山城隆一、永井一正、梶祐輔らのクリエイターにより創立。グラフィック、サイン計画、展覧会のプロデュース、プロダクト、ウェブ、映像など多様な領域を横断してデザイン・クリエイション活動を展開。「本質を見極め、可視化する」VISUALIZE(ビジュアライズ)という技術により、最高の経営資源の形成に寄与することを志向している。

(繊研新聞本紙22年2月9日付)

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