ニューヨーク・ハーレムにあった伝説のナイトクラブ「コットンクラブ」はジャズの聖地。禁酒法下の1920年代にオープンし、デューク・エリントン、ルイ・アームストロングなど名立たるミュージシャンがステージに立った。
店名は南部の黒人奴隷が働いた綿花農場に由来する。綿花を手摘みしながら歌った歌がブルースになり、やがてジャズにもつながった。奴隷制を巡って米国を二分した1860年代の南北戦争で北軍が勝利した後、解放された綿花農場の奴隷たちは北部を目指し、ブルースやジャズのミュージシャンになった。
当時の農場主にとって奴隷制廃止は死活問題だった。安価な労働力である奴隷を手放せば、綿花の輸出競争力が失われてしまう。奴隷制廃止を掲げたリンカーン大統領への反発が内戦にまで発展した。ちなみに奴隷制廃止後の米国の綿花産業は衰退するどころか機械化などのイノベーションを遂げ、今も世界の有力産地として健在だ。
さて現下の米国である。大統領選のトランプ氏勝利で、一部では米国の分断が再びクローズアップされている。関税問題や外交など不確実性を懸念する声も少なくない。つらい時代だが、民衆はいつだって荒波に揉まれる小舟のようなもの。何が起きるかわからない。ブルースが胸を打つのは、力強い歌声が民衆の心の支えになるからに違いない。