音楽評論家の渋谷陽一さんが死去した。72年にロック音楽を扱う雑誌『ロッキング・オン』を創刊、それまでのロック雑誌とは異なる独自の視点、評論で人気を集めた。
70年代後半から80年代初めの時期に中高生だった自分にとって、ロッキング・オンは愛読誌の一つ。署名入りの新譜評論を読んで音を確認して、その書き手の器量を図るようなことをしていた。当時の音楽を巡る新しいカルチャー、ロックとミュージシャンのファッションが自分の感受性を育てたといってもいい。
ロックとファッションの関係でエポックメイキングなことといえば、一つは70年代後半のパンクムーブメントだろう。切り裂かれたシャツ、短くとがったヘア、それは既存の政治や社会、音楽に対する批判の象徴だった。ムーブメントとしては一瞬だったが、ファッションとしては様式化され、いまだにスタッズやボンテージがアイコンのように使われる。
ファッションやモードをめぐる報道にとって、視点をころころと変えないことが大切だと思っている。記者の価値観、積み重ねた経験が一つの視座(フィルター)となるからだ。そんな自分は、エンターテインメント業界に飲み込まれかねない昨今のファッションの在り方を、どう論じるべきなのか。40年以上前の渋谷陽一さんの音楽評論を読み返しながら、改めて考えさせられた。