適正価格とは何だろう。あるロールプレイング大会を見ていて、ふと思った。出場者が用意する商品は、ブランドのお薦め商品のはず。ニットトップを提案する人が目立ったが、価格はレディスヤング、キャリア、メンズブランドともに5000円以下がほとんどだった。
郊外型だけでなく都心商業施設のテナントも出ていたのだが。「安いですね」と応答していた客役の言葉は、演技ではなく本音だろう。その翌日、都心百貨店のデザイナーブランドで聞いたニットプルオーバーは8万円以上。素材や意匠、生産手法など当然異なるだろうが、差はあまりに大きい。商品価格が二極化している。
「売り上げが落ちると、メーカーとしてのメンタリティーより小売りのメンタリティーが強くなる」。ルディー和子氏の著書『経済の不都合な話』の一文だ。「商品の価格(ひいてはブランド価値)」を維持したいメーカーと「競合他社と熾烈(しれつ)な価格競争を展開する」小売りの側面を、製造小売業は持つという。
広義で見れば、ハンバーガーや牛丼チェーン店も製造小売業。同書による製造小売業の価格戦略の推移を見ると、「メンタリティー」の変遷が理解できる。製造小売業型チェーン店がシェアを拡大しているファッション業界。メーカーとしての矜持(きょうじ)を強く持つ企業が少しでも増えることを願う。