中国・北京の地下鉄で若者に座席を譲られた。初めての経験に、いささかショックを受けた。働き盛りの中国人なら黒く染める頭髪に白さが目立ち、背負っていたリュックが大きく膨らんでいたせいも。と思いたかったが、はた目には老いを隠せない年齢になってしまった。
立ったままの老人を無視してスマートフォンを操作し続ける中国の若者もいたが、公共交通機関で高齢者に席を譲る光景は日本よりも多いと感じていた。降りる客がいるのに無理に乗り込むとか、携帯電話で大声で話し続けるとか、マナーの悪さが引き合いに出されるが、中国の方が気持ちの良いやり取りを経験した。
混み合う地下鉄で降りたい時、扉と自分の間に立つ人に「降りますか?」と声をかけると、降りない場合は「いいえ」などと言ってスペースを空け、降りる人は意思を伝えて一緒に下車する。日本に帰任して以来、駅が近づく車内で、無言で押してくる人々が気持ち悪くてしょうがない。少し押したら気配を察しろとばかりに。
ドラッグストアで品定め中の中国人客が日本語で「すいません」と言って通路を空けてくれて恐縮した。日本ではそうするべきだと学んできたのだと思う。言葉で意思疎通するのは、日本がもっと学んでもいいマナーでは。世代や国境を越えた仕事にとってマイナスにはならない。