【パリ=松井孝予通信員】仏LVMHは5月29日、傘下の「ディオール」のウィメンズコレクションのアーティスティックディレクター(AD)マリア・グラツィア・キウリ氏の退任を発表した。16年の着任以来9年間にわたり、プレタポルテ、オートクチュール、アクセサリーを統括してきた。
キウリ氏は、ディオール初の女性ディレクターとして、フェミニズムを主軸に据えたクリエイションを展開。ナイジェリア人作家の言葉を引用したTシャツや、女性アーティストとの継続的な協業など、政治性と詩情を共存させた表現で知られた。5月27日に故郷ローマで発表された26年クルーズコレクションが、ラストショーとなった。
デルフィーヌ・アルノー会長兼CEO(最高経営責任者)は「創造性とフェミニズムの視点により、非常に魅力あるコレクションを生み出してくれた」と賛辞を送り、キウリ氏は「世代を超えた女性アーティストとともに、誇りある章を築けた」とコメントした。
在任中、ディオールはSNS上でも圧倒的な影響力を獲得し、実用性と洗練を兼ね備えたスタイルは新たな顧客層を開拓した。アクセサリー部門では「ブックトート」などが商業的成功を収め、当時のピエトロ・ベッカリ会長兼CEOとの連携のもと、業績面でも飛躍的成長を遂げた。
一方、23年以降のラグジュアリー市場の減速を受け、メゾンの再定義が課題とされていた。後任は未定だが、「ロエベ」からディオール・オムのADに就任したジョナサン・アンダーソン氏が有力視されている。