サステイナビリティーは必須
生活者の行動変容が進み、サステイナビリティーをビジネスの様々な場面で追求することの重要さが増している。リサイクルやオーガニックの素材の使用や、地球環境や社会に負荷を与えずに商品を作ることだけでなく、店頭での接客やECを通じて消費者に届けるまで、すべてのプロセスで、これまでと違う姿勢が企業には求められる。マッシュホールディングス(HD)の近藤広幸社長に、同社の取り組みと、ファッション企業はどのようにサステイナビリティーと向き合うべきなのか、聞いた。
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お客様の関心高まる
当社は、ナチュラル&オーガニックのビューティー事業である「コスメキッチン」に始まり、もう10年以上、サステイナビリティーの取り組みに力を入れてきました。現在ではファッションの全ブランドでサステイナビリティーの考え方をもとに商品や店舗作りを行っています。
コロナ禍がもたらした変化の一つに、生活者がこれまで以上に健康であることや、地球の環境を守ることについて強く意識し、世の中の先行きに対してある種の危機感を抱くようになったことがありますよね。当社のお客様の関心も当然高まっており、その分、もっと力を入れていく必要がある。
ただ、コロナ問題に限らず、今は国内でも海外でも暗いニュースが多い。サステイナビリティーの重要性をストレートに訴える姿勢はもちろん大事ですが、こんな時代だからこそ伝え方には押し付けがましくならない工夫も必要だと感じています。
サステイナビリティーをわかりやすく商品で表現するなら、生地は無地、デザインは無機的でシンプルに、色合いもネイチャー系にするとか、リサイクル素材を使っていることが一目でわかるとか、そういうことを一般的にはやりがちですけど、それだけだとファッションとして楽しめないじゃないですか。
女性の24時間を幸せに
当社の使命は「女性の24時間を幸せにする」こと。サステイナビリティーに対する姿勢や考え方を前面に出すより、うまくデザインの一部として商品に溶け込ませて、お客様と一緒にファッションを軽やかに楽しめているかを大事にしたい。
例えば花柄やチェック柄のワンピースを販売するなら、「可愛い」「欲しい」と思ってもらえるように企画して、素材や製法、下げ札までサステイナビリティーやウェルネスに関する当社の取り組みを反映して商品を作る。お客様は接客やウェブの説明で、その商品が環境に配慮した素材と持続可能な製法で作られていることを知って、それが最終的な購入の後押しになる。
まずは女性の気持ちが上がるような可愛い、格好良いデザインであること。しかも素材や物作りはちゃんとサステイナブル、という順序を強く意識して商売をしています。
オーガニックやリサイクル素材の使用率をいつまでに何%にするとか、社内で定量的な達成目標を設けているわけではありませんが、物作りに関してはSDGsに基づく経営や事業運営をしているサプライヤーと取引をするよう、徹底しています。
売り場については、19年から「スナイデル」の店舗で什器や床面など内装には店舗の80%以上に環境配慮型素材を使うようにして、その基準に満たない店は作らないと決めています。床や壁だけでなく、ファッションやビューティーの商売に大事な鏡も有害物質である鉛を用いない方法で研磨したものを使っています。
そのほかにも、使われなくなった蛍光灯を溶かした再生ガラスや木材の廃材を用いたボードといったエコ素材を多用しています。当然コストもかかりますよ。でも、我々だけでなく、世界中のファッション企業も同じことをやるようになっていけば、環境問題解決に向け、ファッション産業全体が一歩進んだことになる。
業界全体を巻き込んで
我々としては、コスメの容器一つ取っても、未来の自然環境を考えた結果、この容器を選んだというメッセージをお客様に対して発信し続けていきたい。生産背景に関する取り組みも同じです。継続することが大事で、それがいずれファッション・ビューティー業界全体を巻き込んで、常識や当たり前の姿勢に昇華していければうれしい。
社会にはルールがありますよね。誰かの命にかかわるから、スピード違反は取り締まられる。サステイナビリティーの取り組みも、使う素材や排出する水などに対して社会のルールや罰則を設けないと進まないのではという不安もあります。
しかし、他もやるまでうちはやらないなんて、当社では考えられない。一方で、お客様にとって魅力のない商品では意味がない。押し付けがましくなく、共感も得られるよう、適切な距離感と良いデザインを両立したサステイナブルな商売を追求して、これからもお客様に喜んでいただきたいと思っています。
◆マッシュHD「スナイデル」 商品だけでなく店舗にもこだわり
「スナイデル」はサステイナビリティーの考え方に沿った商品作りや店舗開発に力を入れている。
21年春夏物は特に再生繊維を使った商品が豊富だ。使用済みペットボトルなどを用いた100%リサイクル素材のチュールドレスや、水の使用や二酸化炭素の排出量が一般的なレーヨンに比べ少なく、森林認証を取得した木材パルプを使ったトレーサビリティー(履歴管理)レーヨン「エコヴェロ」を使った商品がある。廃棄食材を染料にした「フードテキスタイル」も取り入れた。オーガニック素材を使った商品も継続している。
ウェアだけではなく、エコガラスでできたビーズのアクセサリーや、90%石油を削減し、100%天然由来の顔料を使った「ビブラム」のソール「ノイル」を使った靴もある。
19年秋のルミネ新宿店のリニューアルからは、什器や壁面など店舗の80%以上にエコ、リサイクル素材の使用を進めている。商品だけでなく、売り場作りでもサステイナビリティーの考え方を実践している。
株式会社マッシュスタイルラボ
【TEL】03-5778-2165
(繊研新聞本紙21年1月25日付)