【トップ対談】コロナ下で求められる企業像や独自性とは

2021/01/29 00:03 更新


 約20年にわたり、レディスアパレルメーカーとして変化し続ける市場とその需要に応えてきた、ディープサンクス(大阪市)とハニークリーパー(東京)。感性と確かな品質を強みに取引先からの信頼を得る。この数年は自社のECブランドを立ち上げるなど、新規事業にも挑んでいる。2社のトップに現状と、アフターコロナで求められる企業像について語ってもらった。

レディス特集 他の記事はこちら

 ――20年を振り返って。

 重延 売り上げが苦しいなかでも、ECは伸びている取引先が多かったですね。自社でも19年9月に立ち上げたECブランド「Lian」(リアン)が徐々に伸び、売り上げをカバーできました。

 鈴木 例年、2~4月は秋冬を意識した発注をする時期ですが、20年春の緊急事態宣言下では、取引先の在宅勤務や出張禁止で商談が進みませんでした。

 コロナ下で需要予測が立てづらいなか、在庫リスクを軽減するためにも、以前からの強みである韓国を軸とした小ロット、短納期生産をより一層強化しました。

ディープサンクス・重延賢治社長
しげのぶ・けんじ 1962年大阪生まれ。84年商社系アパレル入社。カットソー、シャツブラウス、ボトムメーカーを経て東京・岡山企業の大阪支店長を経験。18年より関西ファッション連合理事。
ディープサンクスは02年設立。主な事業はレディスアパレル企画・製造卸、EC事業で、今後は新規ECサイトの立ち上げ、制服事業に力を入れたい考え。商品はニットと布帛トップ、ジャケットを得意とする。

 ――コロナ下での需要の変化は。

 鈴木 コロナ下で取引先から価格競争に巻き込まれすぎない、ブランドコンセプトをより持った商品への要望が増えましたね。一方、ファストファッションやフリマ市場に対抗できる低価格帯の商品の需要もあります。 

 他社との差別化を図るため、国内生産を求める声もでてきました。縫製コストなどの課題はありますが、国内工場と連携し、同時に国内の物作りも盛り上げていければと考えています。

ハニークリーパー・鈴木辰則社長
すずき・たつのり 1976年神奈川県鎌倉市生まれ。99年の設立と同時にハニークリーパー入社。01年取締役、10年1月から現職。趣味はスポーツ観戦と旅行。 
ハニークリーパーは99年設立。主な事業はレディスアパレル企画・製造卸で、今後はEC販売事業に力を入れたい考え。商品はジャージーとニット、布帛を得意とする。

◆確かな技術と企画力

 ――改めて自社の強みは。

 鈴木 一つは先ほど話した韓国生産です。自社は他にも中国やバングラデシュに提携工場があり、取引先に合わせた生産背景の活用と価格訴求を強みにしています。オリジナル商品を作ることも店頭の差別化に貢献できていると考えます。

 創業22年目ですが、今の時代は感度に加え安心できる確かな品質が求められています。その点で、技術力のあるデザイナーと品質管理担当がいるのも取引先に評価いただいていますね。

 重延 うちが受注した商品の生産を手伝ってもらうこともあります。いつも助かっています(笑)

 鈴木 ありがとうございます。あとは、2年ほど前に開設した自社の卸・仕入れサイトが少しずつ認知されてきています。東京に足を運ばず、24時間どこからでも発注できるもので、今後も活躍していくと期待します。

 重延 うちは企画が頑張ってくれています。中国の提携工場もより技術力としっかりした生産背景をもったところに厳選し、15あった工場を8カ所に集約し、さらに品質向上を図っています。

 前から言っていることですが、新商品が店頭に入荷した時に、売り場の販売員が「めっちゃ可愛いのが入ってきた!」と喜ぶような商品が消費者にも響くと思っています。それは例えば、独特な色使いにシルエットが少し変わっているとか。そうした企画のこだわりはリアンにも反映されています。

 鈴木 リアンは色使いが本当に可愛くて、画面上での商品の見せ方もうまいなと思っています。価格訴求ではないところで勝負して、ちゃんと数字で結果を残されている。

 重延 僕自身もリアンの成長には驚いています。現場社員の熱量というか、やっぱり、営業もデザイナーも自分たちで知恵を絞った商品が消費者にどこまで売れるか試してみたいという思いがあるんですよね。ただ、既存の取引先と競合にならない価格設定にはちゃんと配慮しています。

 鈴木 ディープサンクスさんって会社の雰囲気がとても良くて、社員が生き生きしているんです。それもリアンの成長に影響しているのでは。

 重延 そうですね。ECって新しい事業で、販売の仕方とか分からないんですよ。でも、分からなくても取りに行かなくちゃいけないことってあって。それができる態勢はいつも作っておくようにしています。 

 それと、新しい挑戦を自分が中心になってやろうと思える人をいかに育てるか。それができた時に無上の喜びを感じるというか、今まで社長をやっていてよかったと思うんですよね。

昨春夏に売れたプリーツ入りのトップは需要が継続しており、今季も期待(ハニークリーパー)

◆新規事業も積極的に

 ――ウィズコロナ、アフターコロナでどのようなことが自社に求められるか。

 重延 コロナを経験して、お客さんの目がもっと変わっていくと思うんです。もうけだけではなくて、次世代を育てたり、新しい時代や文化を作る手伝いをしたり、サステイナブル(持続可能)な商品開発をしたり、そういう社会的意義も求められてくる。

 3年、5年と長く着たくなる服を作ることはこれからのアパレルの使命で、そこに向き合うことがサステイナブルにつながる。そのために価格設定もよく考えていきます。

 鈴木 確かに、安定した素材を使用することで長く着られるというスローファッションの考えは、結果的にサステイナブルにつながりますね。また、商品を入れるパッケージや箱をリサイクル素材にしてほしいという要望が多いので、検討しています。製品やサンプルの寄贈も考えています。

 重延 今、ネット関係の若手経営者たちと親睦を深めており、ネット販売をしていないアパレル企業やメーカーとのマッチング、インフルエンサーやユーチューバーと集客を高める創造事業を作る新会社を立ち上げます。普段、話していて感じるのですが、今の若い世代の能力って高くて、商品をどのように露出したら集客が高まるのかといった方法や、新しいビジネスの作り方をよく知っています。

 でも、資金力がないんですよね。今、僕は58歳で上にも下にもパイプになれる年齢だと思う。資金はあるけれど新しい事業を作り出せずに悩んでいる上の世代と、資金が足りなくて潜在的な能力を形にできずにいる下の世代とを結び、将来、新しい会社やブランドが生まれるきっかけになったら良いなと。

 新しい発想って色々な考えを持つ人との交流から生まれます。だから、未来に向かって考えている人とつながっていたいですね。

 鈴木 僕も重延社長の考えに共感します。角度が変わってしまうと怖いところもあるのですが、新しい取り組みや挑戦のなかにやりがいや喜びが見いだせると思います。毎日、「現状維持は衰退の始まり」と10回くらい唱えて仕事をしているのですが(笑)、今、色々な要素や要因で伸びていくことが難しいので、新しいことを模索していかなければと思っています。

 重延 鈴木社長もそうだと思うのですが、「これもやりたい、あれも」って常にわくわくしているような、明るい経営者でいたいですよね。

今後は新たに始めたユニフォーム事業に力を入れる(ディープサンクス)

 ――取引先に求めることは。

 重延 独自性をもっと持ってほしいなと思っています。素材とか、ライフスタイル提案で新しいアパレルを売っていきますよとか、独自路線を作っていってほしい。

 あと、しんどい時にしんどいって言ってほしいです。しんどかったら、方法を一緒に考えますよというスタンスで商売したいんです。

 鈴木 僕もそれはあります。縁があるからにはお付き合いを続けたい。お互いに心配事をなくして、関係を築いていきたいですね。

◆ディープサンクス「リアン」 初のECブランド好調

 ディープサンクスは19年秋に立ち上げたECブランド「Lian」(リアン)がヒットしている。大人の女性を対象に、少し経費が上がっても良い素材を採用し、程よくトレンドを入れて安心感を出せていることが好調の要因としている。

 ターゲットは20代後半~30代前半。企画のポイントは「テイストを決めつけず、デザインを入れすぎず、素材、デザインとも見た目の良さが出ること」という。サンプルの修正は2、3回することが多い。ほぼ全品番デザイナーがチェックする。ECに導入するためのインスタグラム、公式サイトは専用モデルを使ってイメージが上がるようにしている。

 人気上昇のきっかけは、20年5月に発売した後ろ身頃にフォトプリントしたTシャツ(4000円)がヒットしたこと。その後、アウター中心に秋冬物を早めに仕掛けたことも功を奏した。これが当たり月商は20年10月が7000万円、11月8000万円、12月9000万円と大きく伸びている。

「リアン」の21年春夏物

株式会社ディープサンクス

【TEL】06-6243-8888

【HP】https://www.deepthanks.com/


◆卸・仕入れサイトに力 ハニークリーパーが自社運営

 ハニークリーパーは卸・仕入れサイトを自社で運営している。19年1月に開設し、「徐々に認知が広まってきている」。コロナ下で地方から東京への出張が減っているなか、さらなる活躍に商機を見いだす。

 サイトは24時間どこからでも利用できる。商品は常時在庫を持っている約200~300品番を揃える。地方専門店や個店のバイヤーが東京に足を運ばずに商品を発注できるとして評価が高い。

 課題は新規取引先の獲得だ。既存の取引先は同社の商品特徴が分かるためデジタルでも抵抗なく登録してもらえるが、特に新規になると画面上で素材感や色を伝えるのが難しいという。今後、デジタル上での商談が増えるとみて取引先からの需要を見込み、「要望に沿える商品提案をしていきたい」と話す。

 同社の今秋冬物はバングラデシュ生産のニットトップが受け、約10品番で1品番当たり3500枚、計3万5000枚売れた。20年春夏に5万~6万枚売れたプリーツ入りトップの需要も継続しており、21年春夏も期待する。

200~300品番を揃える

株式会社ハニークリーパー

【TEL】03-5772-2191

【HP】https://honey-c.com/


(繊研新聞本紙21年1月25日付)

◆ページトップに戻る



この記事に関連する記事