ベルリンのアンティーク家具とDIY精神に学ぶ物の大切さ(宮沢香奈)

2014/11/06 18:17 更新


古き良きものを大切にするドイツでは、文化遺産に価する歴史的建築物が多く存在する。

サマータイム(深夜2時にいきなり切り替わる不思議な瞬間)も終わり、完全に秋冬へと移行したこの時期は、日照時間も短く、ただでさえ灯りの少ないベルリンの街はより一層暗くなる。

夜道を歩くにはもう少し明るくして欲しいと思うけれど、薄暗い中に浮かび上がる古城のような建物はとても風情がある。

 

  


 

最近では、近代的ないわばマンションタイプの物件も増えてきているが、ベルリンのアパートメントの多くは、Altbau(アルトバウ)という第2次世界大戦前に建てられたものが多い。現代人の暮らしに合わせてリノベーションされ、賃貸物件として貸し出されているのだが、特徴としては、とにかく広い。

1人暮らし用の部屋でも、キッチン、リビング、寝室、バス&トイレといった1LDKの間取りが基本的で、40平米はある。

それ以上広いアパートでは、ファミリーかWGというルームシェアスタイルが主流となっており、いろんな国からいろんな目的で来ている外国人同士、1つ屋根の下で共同生活をしている。

   




 

2年前に初めてベルリンへ訪れた時に、何より驚いたのが広さと、オシャレなインテリアたちである。

高い天井に白い壁、大きな窓、広いバルコニー、草花が生い茂る中庭、ゴシック調の雰囲気には、たとえIKEAであっても画になるのだが、アンティーク家具や廃棄寸前の家具をうまくリサイクルして、センス良く使っている。個々の家もそれぞれのカラーが出ていてステキなのだが、カフェのインテリアがとにかくステキで、常に感心させられる。

 

 



 

アンティーク家具は、eBayで格安で手に入れることが出来、毎週開催されているフリーマーケットや街中にあるアンティークショップでも買うことが出来る。値段は年代や状態によってピンキリではあるが、日本で売られているヨーロッパのアンティーク家具の値段から考えたらかなりお手頃。



 

良く言えば、物を大事にする、悪く言えば、ケチなドイツ人のDIY精神にも感心する。

少し郊外へ行けば、小さいハリウッドか?!と思うほどの豪邸が立ち並ぶエリアもあるが、街の中心地はほとんどがアパートメントであり、エリアによっては、ビックリハウスならぬ”驚きの家”が存在する。

クロイツベルグにあるアーティストが廃虚を占拠して住んでいるスクワットの存在はもはや観光名所とまでなっているが、ほとんど人が住んでいない、リノベーションもされていない、いわば”現状渡し”の旧建築アパートを格安で借りて、家具どころかお風呂やキッチンまで”お手製”で暮らしている人たちがいる。

暖房はセントラルヒーティングではなく、暖炉。ドイツの首都であるベルリンの街角では、冬になると煙突から灰色の煙が上がる家を見ることが出来るのだ。

あるいは、倉庫をアトリエや住居にしている人たちもいる。壁をぶち抜き、天井からはいろんなものを吊るし、バーを作り、サウンドシステムを導入し、拾ってきた家具をリサイクルし、廃材でスケボー用のランプを作り、などなど、やりたい放題なのである。

映画やドラマの中に出てくる”実在しない家”が普通に存在するのがベルリンである。しかも、役柄に合わせたオシャレでカッコよく見せるための家ではなく、生きていくための家であって、そのリアリティーさにも大きな違いがある。撮影で使ったらとっても良い絵が撮れることでしょう。

さらには、いらなくなった家具は無料で捨てることが出来る。ゴミ置き場にさえ置いておけば誰かが拾っていって、リサイクルされ、また新たな家具として壊れるまで使ってもらえるのだ。

このシステムは本当に素晴らしいと思う。ベルリンに住み出してから、物を大事する習慣が付いた。東京に住んでいた19年間で捨てた家具と洋服と生ゴミを考えたら、全てのものへ謝罪したい気持ちでいっぱいになった。それほど、無駄使いと使い捨てを繰り返してきたことを実感した。

そんな夢のある話を散々してきたけれど、たとえ5階であってもエレベーターが付いていないところがほとんどのため、家具の搬入は業者レベルの重労働になる。オートロックであっても二重ロックをしないとあっさり泥棒に入られるという鍵のクオリティーの低さや治安の問題など、海外ならではの苦労やリスクがあることも忘れてはならない。




宮沢香奈 セレクトショップのプレス、ブランドのディレクションなどの経験を経て、04年よりインディペンデントなPR事業をスタートさせる。 国内外のブランドプレスとクラブイベントや大型フェス、レーベルなどの音楽PR二本を軸にフリーランスとして奮闘中。 また、フリーライターとして、ファッションや音楽、アートなどカルチャーをメインとした執筆活動を行っている。 カルチャーwebマガジンQeticにて連載コラムを執筆するほか、取材や撮影時のインタビュアー、コーディネーターも担う。 近年では、ベルリンのローカル情報やアムステルダム最大級のダンスミュージックフェスADE2013の現地取材を行うなど、海外へと活動の場を広げている。12年に初めて行ったベルリンに運命的なものを感じ、14 年6月より移住。



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