前回帰国したのは2019年の終わり、まさにコロナが世界を蝕み始めた頃。そこから3年、ようやく念願の帰国を果たすことができたが、ほぼマスクなしのベルリン生活から、ほぼマスクをせざる得ない地元長野での生活は慣れるまでかなりのストレスだった。マスク以外のことでも全く違う環境に面食らうことが多い。コロナ禍に一度でも帰国していたらここまで驚くことはなかっただろうし、事前に日本の状況をきちんと調べてなかった自分の責任もある。
では、いったい何がそんなに違うのか?ドイツ国内でも各州によって規定が異なるため、ベルリン州以外のことはほとんど知らないが、ここでは、私の住むベルリンと地元の長野で比較して説明したいと思う。
ベルリン州では、電車やバスなどの公共交通機関、診療所や老人ホームに限ってマスク着用が義務付けられていたが、今年2月には着用義務が撤廃される。ついにマスクから完全に解放される日がやってきた。ちなみに、昨年の春ぐらいにはまだ必要だったBER空港や機内も現在はすでに不要。
検温はなく、帰国するまで機械すら見たことがなかった。消毒液はエントランスに設置されている店舗も多く、飲食店ではトイレに必ずハンドソープが置かれている。ただし、利用するかは本人の自由。
抗原検査に関しては、街の至るところにテストセンターがあり、シュネルテストと呼ばれる抗原検査が週一回無料で受けられる。それ以外は、一回につき15ユーロ前後。セルフでできる簡易の抗原検査キットは、スーパー、ドラッグストア、薬局などで購入可能。値段はそれぞれ違うし、あまり需要がないので調べてもいないのが正直なところだ。一時期ドイツの大手スーパーREWEで80セント(100円)で叩き売られていたこともある。
日本では抗原検査が有料であることも知らなかったが、マツキヨの処方箋で検査キット一回分が1,980円!!なぜここまで高いのか?こんなことならベルリンで大量買いし、家族や親戚にあげればよかった。感染を気にして悩むより、陰性という結果を知るだけでも安心材料になると思う。日本では、発熱したら病院に来てはいけない、無症状の場合は抗原検査は受けれない、などという話も聞いたが本当だろうか?
PCR検査においては、ベルリン州では、“出国の72時間以内”という条件の検査が一番安く、49ユーロ(約6,800円)となっており、結果待ちの時間が短くなるほど値段が上がっていく。
誤解がないように言っておくが、ベルリン州が全て正しくて、日本が全て間違っていると言いたいわけではない。ベルリンでも自主的にマスクをしている人はいるし、神経質になっている人も多い。ドイツが行ったロックダウンやワクチンを接種しなければ何も出来ないといった人間のアイデンティティを無視した処置には辟易した。
それでもまだベルリンにいる理由は、単純に州から補償された助成金に救われたことと、ロックダウンが明けてからのクラブをはじめとするローカルカルチャーの快進撃が爽快だったからだ。おかしいと思うことには迷わず声を上げ、自ら行動に移す。これはコロナに限ったことではなく、ごく当たりに日常的に行われてきたことだ。
今は病人が近くにいることもあり、仕方なく着用しているが、ベルリンでは自主的にほぼどこでも着用していない。昔からマスクが苦手だったこともあるが、コロナ禍で強制になってからは大嫌いになった。相手の表情が分からず、メイクは手抜きになり、肌荒れや筋肉のたるみによる老化、長時間の着用によって生じる頭痛と呼吸困難など、1つも良いことがない。
“マスクをしていないと奇妙な目で見られる”この国は、強烈な同調圧力とより一層システマチックで機械的になってしまったと感じる。飲食店では“黙食”と書かれたポップがテーブルに置かれ、温泉には“黙浴”の貼り紙が。そんな温泉でマスクをしたまま“黙浴”をしている人を発見した時には、あまりの衝撃に言葉を失った。恐怖さえ感じたほどだ。この奇妙で異常な行動が普通に受け入れられてしまう世の中になって欲しくないと切に願う。
長野県生まれ。文化服装学院ファッションビジネス科卒業。
セレクトショップのプレス、ブランドディレクターなどを経たのち、フリーランスとしてPR事業をスタートさせる。ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積みながら、ライターとしても執筆活動を開始する。ヨーロッパのフェスやローカルカルチャーの取材を行うなど海外へと活動の幅を広げ、2014年には東京からベルリンへと拠点を移す。現在、多くの媒体にて連載を持ち、ベルリンをはじめとするヨーロッパ各地の現地情報を伝えている。主な媒体に、Qetic、VOGUE、men’sFUDGE、繊研新聞、WWD Beautyなどがある。