危険水域、染色加工業㊦高まる重要性

2016/05/05 06:45 更新


環境対応が世界標準に


 染色加工は多くの水を使う工程があり、安易な海外シフトは難しい。軟水、硬水の違いが染色の再現性に影響を与える問題もあるが、水資源の豊富な日本と海外では、染色加工業の前提条件が大きく異なるためだ。

 水を含め、今、世界の染色加工業の大きなテーマが環境問題だ。世界のアパレル生産は、より安価な労働力を求めて先進国から新興国へ移っていったが、近年では新興国の生活水準が向上し、経済成長の負の側面である公害や環境問題に目が向けられるようになってきた。


「たれ流し」規制

 これを、欧米を中心とする消費者やメーカーの変化が後押しする。環境、人権問題などCSR(企業の社会的責任)に関わるテーマは、日本で意識される以上に今や世界のアパレル生産で不可欠の課題だ。環境NGO(非政府組織)のグリーンピースが提唱する、20年までに有害物質排出ゼロを目指す「デトックス宣言」は、プーマ、ナイキ、アディダス、ザラ、H&M、ファーストリテイリングなど世界の大企業が賛同、この目標に向けてアパレル生産が転換しつつある。

 環境対応の先行例が、人体への健康上の影響が懸念されるC8系フッ素撥水(はっすい)剤の不使用だ。以前主流だったC8系からPFOA(パーフルオロオクタン酸)フリーのC6系へと世界の主要薬剤メーカーが法規制前に自主的に移行し、現在はアウトドアスポーツをはじめとして非フッ素化のニーズも高まる。

 デトックス宣言に関わって染色加工と切れない課題が廃水処理・削減だ。かつては「たれ流し」が許容された新興国も規制の網が強化され、違法企業は退場を迫られる。中国は地域でばらつきはあるが、年を追って廃水規制が段階的に厳しくなり、処理設備の整備は必須だ。

 折しも11月に開かれた世界最大の国際機械見本市ITMAミラノでは、「サステイナブル・イノベーション」が全体テーマとなり、リサイクルやバイオマス、省エネなどと並び、染色関連では廃水抑制や廃水ゼロの技術としてデジタルプリントが注目された。


縮まるコスト差

 グローバル生産の拡大とともに環境対応も世界標準となり、新興国、先進国問わず、これへのコスト負担も同条件となりつつある。この点、公害問題を経て環境対応を強化してきた日本の染色加工業は一日の長がある。新興国の経済成長も背景に、近年では新興国と先進国の間で人件費、水道光熱費、染料・薬剤といったユーティリティーコストの差は縮まりつつある。

 世界のアパレル生産に課される条件が共通化する中、日本のアパレルはどのような方向を目指すべきか。そのテストケースとなりうる事態が目前に迫る。来年4月から、人体に影響を及ぼす特定芳香族アミンを生成するおそれのあるアゾ染料の使用が法律で禁止されるのだ。

 違法品が発見されれば小売りも含めた販売禁止、商品回収、原因調査など厳しい措置がとられる。10年前から対策を講じてきたイトキンの山本雅彦商品管理部担当部長は「法規制で染料が使えなくなるのは世界中同じ。発想を転換し、同じ条件で表現方法を考えるべき」と指摘する。染色加工を含むサプライチェーン全体で課題を共有し、アパレルメーカーと生産現場が連携を深めることで、苦境からの脱出も見えてくる。(中村恵生)

廃水削減は世界共通のテーマに連載・環境2

(繊研 2015/12/28 日付 19383 号 1 面)



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