クリエイティブディレクター/アートディレクターの佐藤可士和さん。
ユニクロや楽天グループのグローバルブランド戦略、セブン-イレブンジャパン、三井物産などのブランディングプロジェクト、国立新美術館や東京都交響楽団のシンボルマークデザイン、「カップヌードルミュージアム」のトータルプロデュース、「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI 」のビジュアルアイデンティティと空間ディレクション、OECDの世界の学校施設最優秀賞を受賞したふじようちえんのリニューアルプロジェクトなど、可士和さんの「仕事」はここでは書ききれないほど、錬金術師のごとく多岐にわたる。
パリのファッション業界に関わる者にとって、今から遡ること8年前、当時全く無名だったあのユニクロがパリ・オペラグローバル旗艦オープンで巻き起こした「ユニクロ現象」の記憶は色褪せず。パリファッションウィーク、「+J」、同店オープンのタイミングをすべてマッチさせた可士和さんのアイディアがこの大成功を導いた。
さて、この日本を代表するクリエーターのひとりである佐藤可士和さんがこの春、文化庁文化交流使としてニューヨーク、ロンドン、そしてパリで活動した。
文化交流使とは、世界の人々が日本文化への理解を深める活動や、外国の文化人たちの交流に繋がる活動を展開するため、文化庁が芸術家、文化人等、文化に関わる方々を一定期間「文化交流使」に指名し、海外に派遣している。可士和さんは2016年4月、クリエイティブディレクターとして初めて文化交流使に指名された。
可士和さんは今回の海外活動で、ニューヨークのJAPAN SOCIETY、ロンドンのROYAL COLLEGE OF ART、そしてパリの日本文化会館で、「アイコニック・ブランディング」をテーマに講演した。
ザ・ジャパン・ストアのトークイベントでスプラッシュペインティングを解説
可士和さんは、日本文化会館に集まった沢山のフランス人聴衆を前に、
THE ICON = LOGO
THE ICON = PRODUCT
THE ICON = SPACE
THE ICON = ARCHITECTURE
THE ICON = CITY
まさにアイコンとなるマークやロゴの制作、ユニクロのキャンペーンでは街をアイコンにしたり、ふじようちえんでは建築がアイコンになったりと、これまで可士和さんが手がけ世界に広めてきた日本のプロダクト、コンテンツ、カルチャーの作品を取り上げながら自身のクリエイティブを大変分かり易く解説。
そして講演の最後に、
THE ICON = METHOD
として、可士和さんがゲストクリエーターとして参加した佐賀県が推奨する有田焼創業400年事業「ARITA 400project」を取り上げ、これがメソッド/方法論自体をアイコンにしたプロジェクトであるとレクチャーした。
同館ではこの講演に合わせ、可士和さんが有田焼の染め付けに用いる藍色の顔料呉須(ごす)だけで描いた新作ドローイングの展覧会、また同館内ザ・ジャパンショップ伊勢丹三越では、2016年1月にパリで開かれたメゾン・エ・オブジェに出品した可士和さんの「ARITA 400projecut」の直径60センチメートルの大皿シリーズ「DISSIMILAR ー対比ー」と、有田の8つ窯元とのコラボレーション作品を展示。ザ・ジャパンショップでは、顧客やプレスを招待し、アイコニック・ブランディングが体験できる可士和さん本人によるトークライブイベントも開催された。
佐藤可士和さんに、文化交流使として今回の活動のメインとなったパリで、メソッドをアイコンにした有田焼をめぐるお話を伺った。
パリ日本文化会館でのドローイング展
クリエイティブな文化交流使
クリエイティブディレクターとして初めて文化交流使に選ばれました。
デザインとかブランディングなどのクリエイティブディレクションが文化庁の日本文化の枠組みの中に認められたわけで、その第1号として海外へ行くことは、大変お受けする意味があるなと思いました。
今回の活動でパリを拠点にしたのは、去年のメゾン・エ・オブジェで有田400の反応がとてもよかったからです。世界中のモノを見ている同展のトップの方が、僕の作品をすぐ購入してくださいました。何枚売れたとかよりも、目利きの方が一番始めに買ってくださったことがとてもうれしかった。
またフランスはファッション、食、マンガなど日本に対して文化の親愛が最も高い。仕事面でもフランスではユニクロ以前に、資生堂、「ケンゾー」の香水のパッケージも手がけていたので、感覚もわかっていました。
3都市での講演の最後に、方法論をアイコンにした有田焼のプロジェクトをレクチャーしましたが、パリ日本文化会館では展覧会も。ここに展示したドローイングは、方法論だけを抽出したコンセプトヴィジュアルです。
いろいろ試したのですが一番相性のよかった紙、和紙に有田焼を作るのと同じ呉須とダミ筆で描きました。このドローイングが日本らしい印象を与えるのは、呉須を水で溶いたから。透明感があって、なんとなく軽やかですよね。
顔料が石なので普通の絵具とは違い、天然のものだからリッチな感じがします。呉須の青い粒がキラキラ輝いてきれいです。
ひとつのメソッドで各社と協業
昨年10月、伊勢丹新宿店のザ・ステージで、メゾン・エ・オブジェで展示したアートピースからもっと拡大し、「有田400」に参加している8社の窯元とコラボレーションしたワインクーラーや日常使いの器を展示・販売しました。
ここでは各社秘伝の呉須を使ったので、それぞれ色が違います。ひとつの方法論に従い、各窯元の特徴を生かしながら配合した呉須で僕が全部絵付けすることで、逆にひとつのシリーズになる。ひとつのメソッドを貫くことで、逆に各社の特徴がでる。そういうコンセプトで8社とコラボレーションしました。
アートピースは高額なので、みなさんが手に取れる豆皿とかプレート、蕎麦猪口などを「有田400」にちなみ各400枚作りました。総て手でひとつひとつ絵付けしたのですごく大変でした。アートピースの大皿の制作には、テストに半年間費やしました。
素焼きの皿に魂を込めるように気合いを入れて呉須をスプラッシュすると、シュっと一瞬で吸い込んで垂れない。一瞬がここで切り取られたみたいな。一瞬が永遠になるみたいな。これが一番面白いと感じました。
初日から蕎麦猪口、豆皿、角皿、重箱などがよく売れた
伝統と革新を表現する
これまで焼き物をするなんて思いもしませんでした。でもせっかくやるのだったら自分にとって新しいチャレンジにしたかった。ユニクロのようにアイコンをメディアに乗せて行く仕事をしてきたので、これとは全く逆の1点ずつ手作りの仕事なんて他ではできませんから。
もともと僕は絵が好きでそのまま美大に進んだし、絵を描くことは僕にとって特別な作業ではないのですが、今までそれを仕事にしたことはありませんでした。
有田400のプロジェクトのために猛勉強しました。有田陶磁美術館の学芸員の方に大変詳しいレクチャーを受け、有田は100年に一度大胆なイノベーションが起きていることが分かりました。どこかでイノベーションがなければ、400年も続きませんよね。そういう歴史なのだから、僕がここで何かやっていいんだ、やった方がいいんだと思った。
有田焼は細かい絵付けが特徴です。
その対極は「アンコントロール」だと考え着き、最もデリケートな作業をするためのダミ筆を使ったスプラッシュペインティングで、職人さんたちを驚かせました。誰もが使わない手段で、逆に有田らしく仕上がった。
「デザイン・バイ・ロジック」「デザイン・バイ・アクシデント」。このふたつをぶつけて、伝統と革新を表現する。これが「 DISSIMILAR デシミラー 対比」のコンセプトです。
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居