プラスサイズはダイバーシティの扉を開くのか(浅沼小優)

2014/11/20 17:20 更新


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■55キロぽっちゃり説

目を疑うようなニュースの多い昨今、現実にがっかりしたとき思わず見てしまうニュースサイトがあります。その名も虚報タイムズ。「階段の踊り場が風営法に抵触」、「消費税増税をうけて108円硬貨が発行される」、「埼玉県で海開き」、などなど。あることないこと、否ないこと満載のサイト。

時には現実であってほしいようなニュースや、未来への警告ともとれる話も混在、実際の報道に対するリテラシーを養える気さえしてきます。

最近、目に留まった虚報のひとつが、ぽっちゃりと呼んでいいのは体重55キロまでに決定、というもの(それ以上だとぽっちゃりのニュアンスではまかないきれないので呼称を変える他ないという趣旨の記事)。

この記事のぽっちゃりのアイコンはどうやら深田恭子さんのようですが、この虚報がもしも現実になったら、多くのひとがぽっちゃりを超えてしまうことになりそうです。

 

 

 

■プラスサイズ市場の可視化とファッション化

虚報タイムズによるぽっちゃりの定義はさておき、日本で2年ほど前から、ぽっちゃり体型に注目が集まっているのは周知のとおりです。

2013年3月の雑誌『la farfa』創刊にいたって、ぽっちゃり市場のゆるぎなさが確認されたようです。現在の日本の状況については、2014年5月に雑誌PRESIDENTに掲載された、「今、注目のトレンド“ぽっちゃり女性”が熱い!」に詳しく書かれています。

手前味噌ですみませんが、ファッショントレンド予測を行っているWGSNでは、日本でいうところのぽっちゃり体型をプラスサイズと呼び、2010年からデザイントレンドの発信を開始しています。

また、VOGUE ITALIAは2011年7月にプラスサイズのファッションにフォーカスしたVOGUE CURVYというサブページを立ち上げました。グローバル市場でもプラスサイズの可視化とともにファッション化が加速中のようです。

■プラスサイズのミューズ

プラスサイズの定義はWGSNではUSサイズ14以上、UKサイズ18以上。日本のサイズで考えると17号アップということになるでしょうか。先述のPRESIDENT記事でとりあげられたニッセンの「スマイルランド」ブランドでは15号から記載があります。ぽっちゃりとプラスサイズのイメージはおおよそ共通しているようです。

アイコンを思い浮かべても同じことが言えそうです。La farfaのミューズは渡辺直美さん。グローバルでプラスサイズモデルの火付け役となったのはCrystal Rennではなかったでしょうか。充実した身体の美しさや生きるよろこびを体現するような存在です。

現在、Ashley Graham、Johanna Dray、Marquita Pring、Tara Lynn、Candice Huffine, Christina Hendricks、Robyn Lawley、Whitney Thompson、Chloe Marshall、Toccara Jonesなど、枚挙のいとまがないほど、プラスサイズで活躍するモデルの数が増加中です。

■注目の契機

このように国内外で盛り上がるプラスサイズ市場。ここにいたるにはターニングポイントとなるできごとがいくつかあったはずです。

先ほど火付け役といいましが、Crystal Rennが2005年にゴルチエの2006 SSランウェイに登場したとき、多くのファッション関係者がこころを揺さぶられました。彼女が拒食症からのサバイバーだったからです。

ファッション界は夢のような体型のモデルをキャスティングしてファンタジーを繰り広げます。そんな中で、ゴルチエのショーは、その裏にある過酷な現実にわたしたちを引き戻しました。

実際、2006年に悲劇がおこりました。ブラジル人モデル、アナ・カロリナ・レストンの死です。彼女が拒食症で亡くなったというニュースは、ファッションと拒食症という病がいよいよ直接的に結びついた衝撃をもたらしました。

 

 

 

Christalのようにサバイブするひとばかりではないのです。「痩せ過ぎモデル問題」をほんとうの問題としてきちんと認識する契機になりました。

直後から、体型についてのディベートが沸き起りました。いかにコレクションの世界がリアリティに欠けるか…逆にいえば、いかにモデル以外のサイズの身体をもって現実を生きるひとが多いか。当たり前の事実についてファッション界はあらためて反省を迫られました。

同時に、モデル体型でなくても、ファッショナブルでありたいと願うひとがどれほどいたことか。マーケットとしての可能性もまた提示されたのです。

2008年には調査会社のMintelからプラスサイズ市場に関するリポートがだされました。2013年までの市場規模の予測がまとめられています。

実はアメリカではドラスティックな上昇は見込めないと書かれていたのですが、一方で、いま市場にある服の選択肢では満足できないひとびとのいる状況が指摘されてもいました。

つまり服は着ないわけにはいかないので確実に買われているが、同時にトレンドを楽しめないフラストレーションがたまる。市場全体として消費される額は大きくかわらないかもしれないが、各アパレル企業にとっては、未開拓のプラスサイズ顧客を自社に引き込むチャンスが見えてきたのです。

2009年、Cotton Incorporated Lifestyle Monitorからも調査結果がでました。(米国)女性全体の30%がサイズ15以上を着ている、というものです。3人に1人という市場を誰が無視するでしょう。

 


 

■コミットするファッション界

ファッション界は覚悟を決めたのです。長い間、とくに高級プレタの世界は、業界の一定基準を満たさないひとびとを表舞台から排除してきました(これは体型に限ったことではありません。年齢や性別なども含めてです)。痩せていなければ着るに値しない、と公言するデザイナーがいたほどです。

しかし、業界基準がもたらした強迫観念が業界のシンボルともいうべきモデルを死に追いやってしまった事実、その一方で、基準外としてターゲットからはずされてきた市場の大きさが可視化されたこと。おおざっぱにいえば、この正と負の二つの要素がプラスサイズに取り組む決断を促したのだと考えられます。

しかも、この取り組みはダイバーシティのトレンドに沿ったものです。

ご承知のようにダイバーシティとは、メインストリームに属さないひとびとの存在を認知し、多様性への寛容を呼びかける考え方です。トレンドセッターであるブランドは、この観点からもプラスサイズにコミットする道を選ぶべき、と判断したに違いありません。

 

 

 

■服が先か身体が先か

さて、さきほど高級プレタは、といいましたが、考えてみればオートクチュールは規格サイズなどとは無縁です。顧客ひとりひとりの体型に合わせて服をつくるのですから。この夏、パリのルーヴルの別館、装飾美術館で開催されていたドリス・ヴァン・ノッテンのインスピレーション展ではそんなシンプルな事実にあらためて気づかされました。

2011/12AWのメンズコレクションのインスピレーションソースのひとつが詩人のジャン・コクトー。フランス学士院の礼服を着用してかしこまったコクトーの全身ポートレートとそのとき本人が着ていた実際の服が並んでディスプレイされていました。

ご覧になって気づかれた方も多いと思いますが、ポートレートではジャケットの裾はたしかに水平にみえるのですが、トルソーにかけられた実物はどうも右側が上がっている(つまり短い)ようで、裾が水平になっていないのです。

コクトーには左側の肩が上がる癖があったのでしょうか。右と左の身頃の長さが異なります。いま、コクトーが既製服を買おうとしたらたいへん苦労したに違いありません。

でも、仕立て服なら関係ないのです。その人がまっすぐ立っていなかろうが、右腕が長かろうが構わない。身体に合わせて制作するだけで問題解決です。いつの間にか、入れ物の大きさに中身の形を合わせるのに慣らされてしまったのです。

■意外と新しい概念

わたしたちは日常的にサイズに振回されてます。メーカーやブランドごとにフィッティングが異なっていたり、いつも買っているメーカーでも、いつもと違うサイズ表記のものが身体にぴったりすると、ちょっとした違和感を覚えたりする。なんだか不思議です。

いまとなってはサイズなしに話ができないぐらい概念として定着していますが、サイズは案外新しいものです。そもそも先進国でも定着したのは1950年代以降のこと。

日本では伊勢丹、西武、高島屋が婦人服の号数体系を統一、実施を開始したのは1964年のことです。つまり今年は日本の統一サイズ誕生50年にあたる年。その後、JIS(日本工業規格)が成人女子用衣料サイズを制定したのが34年前の1980年、ごく最近のことなのです。

 

 

 

■素直で飽きやすいわたしたち

とはいえ、基準値というのは一度できるとやっかいです。2008年、メタボ検診がにわかに浮上したときもそうでした。腹部のサイズ、男性85cm、女性90cm以下という数字が降ってわいてきました。

今年の4月、血圧と血中コレステロール値の正常範囲ついて、それまでの基準と異なる見解が日本人間ドッグ学会から発表され、ちょっとした騒動になったのもご記憶に新しいでしょう。基準と呼ばれる数値の可変性について考えさせられました。そして実際は、判断材料のひとつでしかない物差しに依拠しようとする、わたしたちのある種の素直さに驚かされます。

現在注目されているプラスサイズが多様性の扉をひらくきっかけになるかもしれません。同時にこの50年の間に繰り返されてきた強い刷り込みも侮れないな、という警戒感を手放せません。

サイズが健康と結びつけられて語られることが多いことは周知のとおりです。現在、美しさの基準が、「痩せている」から「鍛えられている」、に移行しつつあるようですが、これはこれでまた、別種の問題を含んでいることはいうまでもありません。

 ところで、多くのプラスサイズモデルの写真を見て気づいたのですが、彼女たちの顔は身体のスケールに比べておしなべて小さいのです。しかも、VOGUE ITALIAのサブページのタイトルにもあるように、プラスサイズ体型の人に対して、Curvyという形容詞を好んで使っている点も気になります。そうなると顔や身体にメリハリのない場合はどうなるのでしょう。

つい最近、Myla Dalbesioがカルバンクラインのプラスサイズの新たな顔に、というニュースを見ました。しかし、彼女の実際のサイズは10のようなので、14以上という顧客層からすると、たいへんに痩せているのです。プラスサイズモデルの代表格であったCrystal Rennの現在のサイズは8だとか。

冒頭の55キロぽっちゃり説は虚報とはいえ、案外とファッション業界の本音に近いのかもしれません。

■ぼっちゃりを消費しきらない

どんな体型でもファッショナブルな服を着たい、それだけのお金をかける準備があり、実際に消費する、という人々が継続性をもって存在をアピールすれば、業界は魅力的なマーケットとして力を入れるでしょう。

着たい服を着て充実した時間を送りたいと願うひとが増えれば、そのひとたちの身体も美の基準のなかに含めざるを得なくなるはずです。いまようやく開きかけた扉を広げていくためには、ぽっちゃりをトレンドタームとして消費しきらないことが一番大切なのかもしれません。




短期的なトレンドにすこし距離をおきながら、社会の関心がどこに向かっているのか考えてみるブログです。 あさぬま・こゆう クリエイティブ業界のトレンド予測情報を提供するWGSN Limited (本社英国ロンドン) 日本支局に在籍し、日本国内の契約企業に消費者動向を発信。社会デザイン学会、モード?ファッション研究会所属。消費論、欲望論などを研究する。

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