【記者の目】求められる実店舗のあり方、機能性 EC強化にも必要

2021/08/16 06:30 更新


 再度の緊急事態宣言が発出されるなど新型コロナの終息が見通せないなか、業界への影響が1年以上も続いている。大手アパレルのブランド廃止や実店舗の撤退、施設の空床化など引き続き厳しい状況だ。その中でEC販売が一気に加速しているが、「時流としてEC強化は避けて通れないが、ECを伸ばしていくには実店舗の存在や役割が重要になっている」など、出店を強化する企業も目立ち始めている。EC強化にも欠かせない実店舗のあり方が変わってきている。

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オンラインとの融合

 アダストリアは5月19日にららぽーとTOKYO-BAY、5月28日にはミッテン府中に、相次いで新業態のOMO(オンラインとオフラインの融合)型「ドットエスティストア」をオープンした。グループの公式ウェブストア「ドットエスティ」の体験を実店舗で行うもので、全国約3000人のスタッフによる「スタッフボード」の人気コーディネートを、サイネージを使ったビジュアルと商品で揃える。また、ウェブストアと連動しリアルな売れ筋が揃う「トレンドランキング」コーナーなど、分かりやすく楽しく選べる環境を整えている。

既存ショップとの相乗効果や新規会員獲得が進む「ドットエスティストア」ららぽーとTOKYO-BAY店

 同社の21年2月期国内EC売上高は前期比23.4%増と好調で、今期もEC強化を掲げているが、新業態も含めて実店舗の出店を強化する方針だ。木村治社長や田中順一執行役員マーケティング本部長は「EC販売を伸ばすには実店舗の存在が重要」と口をそろえる。ブランドの認知度向上や実際に体現できる場が実店舗の役割として大きいという。

 アダストリアグループはブランド別のショップがあるが、多様なブランドを比較購買できるのはネットとドットエスティストア。また、ドットエスティストアは各ブランドの売れ筋や人気商品を揃えるため、全ての商品があるわけではない。ららぽーとTOKYO-BAYにはグループのショップが14店あり、既存ショップの売り上げも伸びるなど「相乗効果が見られる」という。購買したことがないブランドでも、ドットエスティストアを見て来店するなど、各ブランドの認知度アップにもつながっているようだ。

新たなチャレンジ

 出店は抑えながらも立地や業態を再考する企業が出てきている。オンワード樫山は21年2月期、不採算店やブランド廃止などで約1500店を閉鎖した。一方で、4月にはサービス併設のOMO型新業態「オンワード・クローゼットストア」を相次いで3店出店した。グループ公式EC「オンワード・クローゼット」の商品を店舗に取り寄せて試着、購入できるなど、客のニーズ対応とサービスを提供する「新たなチャレンジ」としている。EC専用ブランドも実店舗で購入できる。市場ではEC専用ブランドが増える傾向にあるが、「やはり実際に試着したい」などのニーズがあり、期間限定店も含めて実店舗を出店する動きも見られる。

 実店舗が商品を販売する場であることには変わりはない。だが、昨年来のコロナ禍で、特に広域からの集客やインバウンド(訪日外国人)需要があった大都市の商業施設が大きな影響を受けた。実店舗の集客が厳しくなるなどで、店頭の機能が変わってきている。

 店頭で急速に増えているのが、コーディネート投稿アプリ「スタッフスタート」の導入や店頭のライブコマース、接客アプリなどの活用。販売スタッフが実店舗で培ってきたコーディネート提案や接客が、デジタル上でも発揮されるようになり、客とのさらなるコミュニケーションアップとECへの送客などで売り上げにつながるようになっている。

 実店舗はデジタルを活用した顧客への情報発信や提案、EC販売への送客、EC販売商品の受け取りや試着、購買動向やニーズデータ収集など、販売だけではない多機能を備えた重要な拠点となってきている。

 業界の厳しい状況は続いており、新規施設開業の鈍化や商業施設の閉鎖などで好立地なリテールスペースは減っている。1店ごとの実店舗のあり方や機能性の向上が求められている。

古川伸広=本社編集部レディス担当

(繊研新聞本紙21年6月7日付)

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