【記者の目】布製ランドセルが定着するには 通年販売で買い替えにも対応

2023/02/13 06:30 更新


ラナオスは「ニューランド」の常設サロンを代官山に設けた

 ランドセルの中身が重量化し、社会問題になっている。これを受けて1キログラム未満の布製ランドセルの開発が相次ぎ、有名ブランドも参入して盛り上がりを見せている。布製ランドセルが選択肢の一つとして定着するにはどうすべきかを考えたい。

似たデザインに安心

 ナイロンやポリエステル地の通学用リュックの開発は、今に始まったことではない。しかし、見た目が革製ランドセルとかけ離れていることや、安価なものが多かった。子供が学校で浮いてしまわないかという懸念や、ランドセルにお金をかけられない家庭向けの要素が強く、定着へのハードルは高かった。

 画期的だったのは、21年3月にデビューした「ニューランド」だ。新興企業のラナオスがアートディレクターのえぐちりか氏に依頼し、製品デザインだけでなく、ネーミングやロゴ、キービジュアルの広告制作など世界観の構築までえぐち氏が担当した。感度の高いブランディングは、これまでの布製ランドセルとは一線を画すもの。革製ランドセルに似たデザインなのも安心感を与えた。発表当初からSNSで口コミが広がったほか、メディアで取り上げられることも多かった。ただ、ECでの直販が中心の DtoC(メーカー直販)ビジネスで、実物を見られる機会も限られているのが現状だ。

 そこに、ベビー、子供服の伝統ブランドと言える「ファミリア」が参入したことは大きい。22年9月に発表した「エアラン」は、税込み6万9300円と突出して高価格。しかし、革製ランドセルに似たデザインと、布製ランドセルでネックとされていた色展開の少なさをカバーする7色を展開。ブランドへの信頼もあり、本格商戦後の受注にもかかわらず順調に予算を達成した。同社は昔から本革と合成皮革のランドセルを販売し、年間1億円規模を売り上げている。23年のランドセル商戦では、エアランの予算は革製ランドセルを上回る予定。ゆくゆくはランドセル市場の1%、5億円のシェア獲得を掲げる。全国の店舗が主販路だが、工房系ランドセルが出店しているような商業施設での期間限定店も、相性が良さそうだ。

 学校用品メーカーのフットマークは22年11月、デザインを革製ランドセルに近づけた「ラクサック・ジュニアプラス」を発売した。20年4月から販売する「ラクサック・ジュニア」は毎年前年の倍ペースで売り上げが伸びているが、革製ランドセルとのデザインの違いを懸念する声も根強く、開発を決めた。今後の新規参入も、革製ランドセルとあまり変わらないデザインの方が受け入れられやすいだろう。

信頼度が重要に

 独自のデザインで布製ランドセルを開発したのはモンベルだ。富山県立山町の新入学児童に配布することが始めの目的で、革製ランドセルを参考にするのでなく、バックパックを作るメンバーがゼロベースから企画した。22年11月下旬に一般販売を開始し、今期分は10日ほどで完売と需要の高さがうかがえる。革製ランドセルとは異なる形状であっても、アウトドアメーカーとしての信頼と、1万4850円という手頃感で、大いに受け入れられている。

 革製ランドセルは6年使用する前提で作られているが、布製でそれを実現しようとすると参入障壁が高い。しかし、フットマークやラナオスは成長に合わせて買い換える想定で2サイズを展開している。経年変化の口コミが増えて真価が問われるのは数年後だが、そこで信頼が得られれば新規参入する企業も増えてきそうだ。

 現在は需要が供給を上回っている状況だが、ラナオス、ファミリア、モンベルは通年販売を目指している。ラナオスは東京・代官山に常設サロンも設けた。フットマークは既に通年販売しており、小学2年生などの買い替え需要が約半数を占める。通年販売する企業が増えれば、布製ランドセルが選択肢の一つになる日もそう遠くはないだろう。

 今までの「ラン活」は革製ランドセルしか選択肢がなかった。ここに布製ランドセル「も」あるという新しい選択が定着し、親子が納得して購入できる市場環境になることを願う。


金谷早紀子=西日本編集部子供分野担当

(繊研新聞本紙22年12月26日付)

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