【記者の目】百貨店衣料品フロアの活性化策 新プレイヤー、新カテゴリーで

2022/12/12 06:28 更新


 長年、縮小を続けている百貨店の衣料品売上高。コロナ禍が追い打ちをかけ、衣料品ブランドの大量閉店もあった。衣料品の展開面積は縮小傾向にあり、代わりに大型雑貨専門店などのテナント導入の動きも絶えない。ただ、件数は少ないものの衣料品フロアの活性化を目指した改装に着手した百貨店もある。「新規客獲得が進まず、購買客数が増えない」こと。これが衣料品売上高の減少の要因だろう。今春夏から秋冬にかけての改装事例に、衣料品フロア活性化策のヒントがうかがえる。

縮小続く衣料品

 全国百貨店の総額、衣料品、婦人服の売上高の推移を見ると、総額よりも衣料品、婦人服の落ち込み幅が大きい状況が続いている。21年の伸び率も身の回り品の11.3%増(6059億円)や好調な美術・宝飾・貴金属が属する雑貨の10.2%増(8576億円)と比べると回復度合は低い。この現実が衣料品の展開面積を減少に導いている。

 繊研新聞社が毎年、全国百貨店を対象に実施している「購買動向・営業政策」アンケートでも衣料品縮小の方針は鮮明だ。今年度の調査でも「強化する部門(売り場)」は食品が圧倒的に多く、続いて化粧品、特選・ラグジュアリー。一方の「縮小する部門(売り場)」は無回答を除くほぼ全社が衣料品(婦人服、紳士服などの回答含む)を挙げた。「高差益率の衣料品だけに頼って全体の底上げを望むことは限界。衣料品の面積是正とニーズに合わせた提案を引き続き検討」(大手百貨店)との意見が主流だ。

 阪急うめだ本店は22年4月、4階コンテンポラリー婦人服にECで支持されているDtoC(メーカー直販)ブランドの集積ゾーン「イットコンテンポラリー」(以下イット)を新設した。同店は20年からコトコトステージ41でDtoCの期間限定店に力を入れてきた。1週間で8000万~9000万円を売り上げたブランドもあるなど高い販売実績をベースに、年間を通して1週間単位で多数のDtoCを提案することにしたものだ。売り場面積は約280平方メートル。二つのブランドを一つのコンテンツとして提案したものを含め、4~9月の半年で65コンテンツ・ブランドの期間限定店を開設した。このうち、12ブランドが1週間で1000万円以上、20ブランドが500万円以上を売り上げており、大手NBが並んでいた前売り場の19年度実績を大幅に上回った。

 DtoCの強みは、インスタグラマーでもある作り手への共感の強さにあるとみている。イットは、ECでしか買えなかった商品や作り手との直接の接点の場となり、それぞれのブランドファンが集結した。ブランドファンという〝スモールマス〟への対応の強化が奏功している。加えて、購買客数の約3割が半年で2回以上購入するなど、ブランドファン以外や既存百貨店顧客も購入している。DtoCという新プレーヤーが4階コンテンポラリー婦人服ににぎわいを与え始めている。

阪急うめだ本店の「イットコンテンポラリー」

館をブランディング

 あべのハルカス近鉄本店は、22年3月にタワー館4階に売り場面積215平方メートルの「サロンドゲート」、9月に同4階に116平方メートルの「ファーレ・アナザークローゼット」、ウイング館5階に237平方メートルの「いろどりマルシェ」の三つの新売り場を婦人服フロアに開設した。これらの特徴はコスメや生活雑貨、食物販、カフェなど衣料品以外のカテゴリーの商品を組み合わせたこと。また、国内外のデザイナー、クリエイターブランドを多数導入するなど取り扱いブランドの高感度化を進めたことだ。

 同社が「スクランブルMD」と呼ぶ売り場作りは、フロア客数増と新規客層の獲得が狙い。開設半年を経過したサロンドゲートは「目標ペース。売り上げは前売り場実績を上回っている」とのこと。いろどりマルシェの立ち上がりは「目標比60%増」の売り上げ。なかでも食物販が好調で、フロア客数、新規客層の増加に結びついている。ファーレなどの扱いブランドの高感度化は、外商顧客の購買につながっていると聞いた。

 いずれの取り組みも、衣料品フロアが活性化しているとまでは言えないが、スモールマスを捉えた新ゾーン構築、対象客層の関心事を組み合わせた編集型売り場が新規客層の獲得やフロア客数、購買客数の増加の方向に動き出している。新規客が見込めず、既存顧客も年々減少し、フロアの活気が失われていく循環からは脱却しつつあるように思える。秋田拓士近鉄百貨店社長は「ファッション提案の価値を磨いていくことは館のブランディングにも結びつく」と語っていた。これまでとは異なる視点で不振と言われる衣料品フロアの活性化に取り組むことは、百貨店再生につながる道でもあると思う。

吉田勧=西日本編集部流通担当

(繊研新聞本紙22年10月31日付)

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