かつて服を誂えることが決して珍しくなかった、そんな時代に逆戻りしたかのような、服の作り手、そして着る人の温もり感が詰まったシネマ「繕い裁つ人」が間もなく公開になる。
中谷美紀が演じるヒロインこと南洋裁店の二代目、市江。彼女の凛とした職人魂が光る「世界で唯一、その人だけの服」を大切に仕立て、繕う姿勢。その光景は幼い頃、誂え好きの母としばしば出向いた小さなアトリエの光景と重なり合い、セピア色の思い出がよみがえった。それはまた同時に服を通じ、人と人のつながりを大切に紡ぎ、そして後世へとバトンタッチしていくかのような思いを抱いた次第で…
ストーリー展開のカギともいえる、ブランド化への熱きラブコールに対し、見向きもしなかった彼女。果たして最終的に下す結論はいかなるものなのだろうか?
ところで、先の作品でもヒロイン役に衣裳協力をされていたブランド「Y’s」だが、他にも「万能鑑定士Q-モナ・リザの瞳-」での綾瀬はるか演じるヒロイン凜田莉子の衣裳など、同様の協力をされたと聞く。
ご存じのように、ブランドの原点は「男性の服を女性が着るというコンセプトのもと、時代に流されることのない独立した価値観を持つ、女性たちへの服」。よって、「シンプルだけど、シンプルじゃない。エッジの効いた服」は、前述のヒロインたちのイメージそのものというわけだ。
ご参考までに、「Air Force Vintage」からインスパイアされた2015春夏コレクションから、前述のヒロインたちにも似合いそうな、機能的かつ品位のある日常着のスタイリングに加えてみたい1枚をここに。
続いての「マイスタイル」を貫く、静かなる表層を浮かべつつも内なる情熱がほとばしる公務員、ジョン・メイが印象的なシネマ「おみおくりの作法」。さて、そのたたずまいとは・・・
マーティン・スコセッシやスティーヴン・スピルバーグほか名だたる監督たちの作品に出演し、多くの受賞歴を誇るイギリス人俳優、エディ・マーサン初の主演作となる本作は、彼の卓越した演技力が物語の全てを握ると言っても過言ではない。
加えてダーク系スーツにベスト、コート、白衣を常備したビジネスバッグというスタイリングも、民生係というキャラクターとしての存在感を表現しているかのようでもある。またその色彩の移ろいと、彼の心模様がイコールでつながっているのもイタリア人監督、ウベルト・パゾリーニ監督ならではの心憎い演出では。余談だが、かの巨匠ルキノ・ヴィスコンティは監督の大叔父にあたるという。
さてここで本題のストーリーだが――
ロンドン南部を舞台に、孤独死を遂げた故人の葬儀を、心を込めて執り行うことを作法とする民生係のジョンに、不意の解雇の告知が。最後の仕事となった案件に奔走する日々の中、さまざまな出会いを重ね、決まりきった彼の人生に変化の兆しが訪れる。複雑な味わいが旨みとなって、余韻を残してくれそうな…
うさみ・ひろこ 東京人。音楽、アート、ファッション好きな少女がやがてFMラジオ(J-wave等)番組制作で長年の経験を積む。同時に有名メゾンのイベント、雑誌、書籍、キャセイパシフィック航空web「香港スタイル」での連載等を経て、「Tokyo Perspective」(英中語)他でライフスタイル系編集執筆を中心に活動中