《物作り》奈良・オネスティーズラボ 「裏表・前後の無い肌着」をここから世界に 第2、第3の商品も開発中
ECを中心に「裏表・前後がない肌着」の販売を本格化したオネスティーズ(大阪府泉佐野市、西出喜代彦社長)。その開発とサンプル生産に特化する「オネスティーズラボ」を5月に開設した。奈良の法隆寺からほど近い住宅地の一画で、ミシン約10台の小さな工房だが、世界市場へ挑むための第一歩と位置付けている。
(山田太志)
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責任者は阪西康成シニアマネージャー。上田安子服飾専門学校を卒業後、実家の縫製工場などで30年以上の経験を積んだ。一部重衣料を除き、布帛やカットソーアイテム、ウェディングドレスまで作り上げる技術がある。物作りの場を探していた西出社長と縁あって出会った。
西出社長から裏表・前後の無い肌着を説明された当初、「何を言っているのかよく分からなかった」と振り返る。「自分は服の表面を美しく仕上げるため、『裏面に逃げ道を作るテクニック』を覚えた。裏面を意識しながら縫うという発想にまず衝撃を受けた」
生産と同時進行で、縫い上げた肌着を何度も着てみた。「洗濯時に裏返さなくても良い便利さ、視覚障害者や要介護者の人でも簡単に着られるユニバーサルデザイン…。本当にありそうでなかった商品」だった。事実、マクアケのクラウドファンディングでは目標の5倍近い支持も集めた。国内外での特許を目指すなど、ブランドのスタート時から海外市場を視野に入れていたが、ユニバーサルデザインへの評価は高く、スペインの非営利法人が選定する「グッドプラクティス」賞も得ている。
これから新たな商品開発が続く。アイテムが変われば、素材が変わる。裏面をきれいに仕上げるためには、縫い端の処理をはじめ、より難度の高い縫製技術が要求される。「正直、西出社長のアイデアや思いに技術がついていけるか不安もある。ただ、固定概念のなさが世にない商品を生み出せるし、技術者のやりがいにつながる」。ECサイトに書き込まれた意見、ラボに来る客の生の声も、チャレンジ意欲を増幅させる。
現在、泉佐野市の本社を改装中で、ショップに加え、小規模生産ラインも間もなくできる。ただ、量が拡大すれば、国内での作り場をもう一段整備することも課題になる。これに備え、阪西さんは熟練工でなくてもオネスティーズが縫えるガイドラインを作成中だ。実は阪西さん自身の工場は昨年破綻、かつて活躍していたミシンは、西出社長が買い取る形で、まだ60台が倉庫に眠ったまま。再び日の目を見る日を待っている。
《企業メモ》
ワイヤロープ生産のNSWが実家の西出社長。東大大学院を卒業、IT企業を経て家業の立て直しに着手、泉州野菜の瓶詰め「いずみピクルス」を軌道に乗せた。19年にオネスティーズを始動、20年4月に別会社化、5月に経済産業省の「ジャパンブランド」に認定された。戦争で親孝行できなかった人々に親役の劇団員を派遣する「親孝行キャンペーン」などユニークな仕掛けが目立つ。
(繊研新聞本紙20年9月28日付)